交通崩壊の危機を乗り越えるために【その1】

7月に入ってから感染者数が急増、25日までの1週間で1万人増え、累計で3万人を超える事態に。大都市圏だけでなく、長野県を含む地方でも第1波を上回る勢いで増えていることに危機感が募ります。政府は22日、「Go toトラベル」を東京都のみ除外する形で見切り発車させましたが、果たして「Go to トラベル」といいう形で観光振興・地域経済再生に軸足を置くような状況なのか、はなはだ疑問です。

新型コロナ感染拡大「第2波」の到来であると明確に判断し、緊急事態の再宣言をはじめ、検査・医療体制の抜本的な拡充など感染拡大の防止にこそ力を注ぐ時だと考えます。

コロナ対策の優先順位を見直し、休業補償の発生による財政圧迫等を理由に躊躇している時ではないと考えます。

「エッセンシャルワーカー」⇨医療従事者への支援が具体化

さて、新型コロナ感染の拡大が止まらない中、医療崩壊を防ぐために感染の危険に向き合いながら検査・医療にあたる医療従事者の皆さんへの支援が問われ続けています。国の第2次補正で、地域の医療提供体制を強化するため、「緊急包括支援交付金」を2兆2370億円に増額し、患者を受け入れている医療機関の従事者や感染が発生した介護施設などの職員に対して慰労金として20万円を給付、また、受け入れのために病床を確保した医療機関の従事者などに10万円、そのほかの医療機関などで働く人には5万円を支給する支援が実現しました。医療従事者の間に格差をつける支援の方法はいかがなものかと思いますが、まずは危険手当ともされる支援が行き届くことが重要です。

エッセンシャルワーカーへの包括的・個別的支援問われる

新型コロナ感染拡大防止に取り組む医師や看護師、薬剤師、介護士などの医療・介護従事者は「エッセンシャルワーカー」の代表とされます。「エッセンシャルワーカー」とは新型コロナ感染拡大の中にあっても、ストップさせるわけにはいかない必要不可欠な仕事(essential service)に従事する人を指す言葉で、不安を抱きながらも出勤し、私たちの生活を支える重要な仕事を担う人々です。

医療従事者にとどまらず、宅配便の配達員や運送業者、郵便局員などの流通に従事する人、スーパーやドラッグストアなどの小売業に従事する人、公共交通機関で働く人、電気やガス・水道・通信などインフラ維持に従事する人、消防員や警察官、公務員などもエッセンシャルワーカーです。

取り残される交通従事者…with コロナ、公共交通崩壊を乗り越える打開策を考えたい

医療従事者には前記のような個別支援が具体化し、公務員には特別勤務手当が支給されるなどの個別支援策が具体化される一方(決して十分であるとは思いませんが)、公共交通の担い手である交通従事者は取り残されている感が拭えません。

外出自粛要請にあっても電車・バスは公共的な移動手段として運行継続が求められてきました。著しい利用者減により、当面の措置として路線バスの最終便の繰り上げや減便、大都市圏を結ぶ高速バスの運休(現在は全休から再開し、再び減便へ)をせざるを得ない状況が続いています。

感染の危険に向き合い、公共交通を止めてはならないとの使命感を持ちながら、日々、市民の移動手段の確保に力を尽くしてきている交通従事者に対しても、危険手当的な特別支援が施されることが必要でしょう。

長野県や長野市では、6月補正予算や6月専決補正予算において、遅ればせながら、国の地方創生臨時交付金を活用して、新しい生活様式に対応した公共交通の維持を支援する仕組みがつくられバスやタクシー事業者への支援が具体化しました。

生活に不可欠な公共交通機関の持続的な継続を見据えると、まだまだ課題が残されていると考えます。

私はこの間、公共交通を軸にしたまちづくりをめざし、いわばライフワークとして取り組んできました。新型コロナ禍の社会生活への影響の甚大さが増す中にあって、公共交通機関の維持・継続に従事する交通従事者への支援、そして、十分な支援が講じられなければ確実に直面することになる公共交通崩壊の危機を見据えた打開策を市民の皆さんと一緒に考え、知恵を出し合いたいと思います。

事業者任せにすることなく、行政・市民が協働して公共交通の維持・活性化を目指すことが重要でしょう。

何故なら、利用者の激減によって大きな損失を抱える公共交通事業者(特に路線バス事業者)は、収支が改善されなければ、不採算路線バスの廃止や減便を検討せざるを得なくなり、結果、私たち市民の通勤・通学・通院・買い物などに必要不可欠な移動手段が無くなってしまう瀬戸際にあるからです。

公共交通は都市インフラであり、ライフライン

鉄道やバス、タクシーなど公共交通機関は市民の移動を支える重要な都市インフラです。

公共交通機関無くして経済再建・地方活性化は難しいといわなければなりません。公共交通機関は国民・市民の貴重な財産であり、社会の重要なライフラインです。

今日、新型コロナウイルス感染症の影響で、公共交通が崩壊の危機に直面しています。

感染拡大による「緊急事態宣言」発令期間中における外出自粛要請、学校の休業、各種イベントの中止、テレワークの拡大等により、4月~6月期の公共交通の輸送人員は6割~9割減少し、その損失は交通事業者としての事業存続を危機に陥れています。

緊急事態宣言の解除後、通勤・通学の利用者は回復しつつあるものの100%には遠く及ばず、高速バスや貸切バスの利用者はほとんど回復していません。

交通事業者的には「Go to キャンペーン」による移動の回復、学校の修学旅行の再開などに一縷の望みをかけていましたが、全国的に広がる感染拡大に直面する中、見通しは極めて厳しくなっています。

「8月中旬までに半数の交通事業者が事業継続困難に」の衝撃

交通関係の研究者らでつくる「日本モビリティ・マネジメント会議」(京都市、代表理事:藤井聡京都大学教授)は5月、全国の交通事業者を対象としてアンケート調査を実施したところ、「およそ半数の交通事業者が8月中旬頃までに事業継続が困難になる」という「交通崩壊」の懸念が明らかになったと提起しました。衝撃的なアンケート結果です。

全国436社から回答を得た結果では、6月中に1割、7月までに4社に1社が、そして8月までに半数が倒産の危機に直面するというもので、特にタクシーは深刻であるとされます。

長野県内のバスやタクシーの交通事業者も例外ではなく、地方・地域に根差した中小事業者が多いことからより深刻な状況にあるものと考えるべきでしょう。

クリックしてjcomm-questionnaire-report-200528v11.pdfにアクセス

一般社団法人日本モビリティ・マネジメント会議(所在地:京都市、代表理事:藤井聡京都大学教授、以下JCOMM(読み:ジェイコム))は、コロナウイルス感染症による交通事業者の減収額を少なくとも3.5兆円、12月まで緊急事態宣言が続くケースでは最大8.3兆円と試算いたしました。 JCOMMはこの推計結果をもとに、政府による迅...

貸切観光バス事業者の廃業相次ぐ県内

既に県内でも、小規模な貸切観光バス事業者の廃業が顕在化しています。旅行需要の減で仕事がなくなる一方、保険料など車両の維持管理費が経営を圧迫し、大型バスの更新すらままならず、廃業・貸し切り事業からの撤退を余儀なくされているのです。

美ヶ原高原バス(長和町)、ミレニアム観光バス(佐久市)は5月中に廃業、クラウン交通(飯島町)は5月下旬に貸切バス事業から撤退、町内の乗合バス運行に事業を絞ることに。

そして、長野市内のエース観光は8月末での廃業を決めたと報じられています。

貸切観光バス事業者の廃業は、運転手の解雇に直結し雇用危機を招いています。

【出典】6月22日信濃毎日新聞より

市内路線バス事業者から悲鳴が…

路線バスを運行するバス事業者も深刻です。

長野市内で路線バスを運行する事業者はアルピコ交通と長電バスの2事業者。アルピコ交通では、4月の運賃収入は前年同月比で路線バスが51.5%減、定期外が80.5%減。長電バスは、4月の路線バスの運賃収入が前年同月比で約5割減。両社ともに、5月~6月も同様でより深刻度を増している状況にあります。

路線バス事業者(貸切バス事業者も)は休業に伴う協力金や支援金の対象外、雇用継続を図るため雇用調整助成金や持続化給付金などを活用しているものの、運転手の賃金は基本給の確保すらままならない状況となっています。

路線バスを運行するバス事業者は、都市間高速バスや貸切バス部門の収益で路線バス部門の赤字を補填し、公共交通ネットワークの維持の社会的責任を担っています。しかし、”稼ぎ頭”である高速バスや貸切バスの収益がほぼゼロに減少する中、バス車両の維持管理費など固定費が嵩みことも重なり、路線バス部門の赤字を補う手立てが見いだせない状況にあります。

また、もともと長時間変則勤務の交通労働者の賃金は産別・業種別の稼ぎ頭中でも低賃金で、公休出勤や時間外勤務で生活給を確保せざるを得ない厳しい現実があります。公共交通の担い手としての誇りを支える仕組みも問われるところです。

公共交通機関全体で最低でも3.5兆円の減収

日本モビリティ・マネジメント会議は、新型コロナ感染症の影響により公共交通機関全体(バス・鉄道・タクシー・船舶・航空)での減収額は最低でも3兆5千億円、最大で8兆3千億円に上ると試算しています。

中小事業者(バス・タクシー・地方鉄道等)に限定すると、年間で最小1兆円~最大で2.3兆円の減収・損失となるとします。

最大で8兆円規模の支援がないと全国の交通事業者が倒産し、「コロナ後」の国民的・地域的モビリティが崩壊すると危機を訴えました。

最小の影響額とされる3.5兆円、地方中小事業者に限定した場合の影響額1兆円に絞って考えれば、国が決めた地方創生臨時交付金3兆円の活用こそが問われることとなります。

一般社団法人日本モビリティ・マネジメント会議(所在地:京都市、代表理事:藤井聡京都大学教授、以下JCOMM(読み:ジェイコム))は、コロナウイルス感染症による交通事業者の減収額を少なくとも3.5兆円、12月まで緊急事態宣言が続くケースでは最大8.3兆円と試算いたしました。 JCOMMはこの推計結果をもとに、政府による迅...

長野県バス協会…県や市町村に臨時交付金活用した支援を要請

長野県バス協会(会長=中島一夫・信南交通㈱社長)は、緊急事態宣言発令下の5月12日に長野県に対し、新型コロナウイルス感染症による深刻な影響に対するバス事業への支援を求めました。

県への要望は「台風19号災害や雪不足による影響が続く中、新型コロナウイルス感染症がだめだしする形で、過去に経験のない規模で急激に経済環境が悪化し、緊急事態宣言による移動制約で危機的な状況にある」とし、貸切バスや県外高速バスがほぼ全休となり、路線バスや県内高速バスにおいても需要が激減する中、「県下における75会員事業者は規模の大小にかかわらず、収入源が閉ざされ事業継続に危機感を感じており、終息に至っても短期間で平常時に戻る可能性は大変低いものと危惧している」と事業継続の危機を訴え、資金繰り支援をはじめ、乗合バス(路線バスや高速バスなど)に対し「減収分についての補助金制度の新設。当面、保有車両1両あたり10万円の支援金交付」などを要望しました。

また、県バス協会は6月、県に引き続き、長野市をはじめ全市町村にも支援要請を行っています。

6月17日付の長野市長あての要望書では「乗合バス事業は、公共交通機関しての社会的使命を果たすべく、継続要請に従い運行を継続してきている。貸切バス事業では営業収益がほぼゼロとなり、今後も学校行事やイベントの中止・延期に伴い需要のない情況が続くものと推察される。バス事業者にとっては、利用者が戻ったとしても、これまで通りの事業継続は大変厳しいものがあり、存続のための事業の再編等を余儀なくされる事態となる恐れもある」と現状を指摘したうえで、地方創生臨時交付金を活用した公的な支援を要望しました。

長野市に対しては、私自身、長電バスやアルピコ交通の経営者と一緒に長野市に対し支援要請を個別に行ってきました。

4月段階では、備蓄が無くなったマスク等の支援を要請(4,500枚の提供に)するとともに、5月~6月、臨時議会や6月定例会の中で臨時交付金を活用した路線バス事業継続に向けた奨励金という形での支援を提案し続けてきました。

長野県=3億円、長野市=6,400万円の支援へ…さらなる支援拡充を求めたい

(1)長野県はバス1台10万円の支援

長野県バス協会の要請をはじめ、私鉄協力議員団の取り組みにより、長野県は6月補正予算で「安全・安心なバス・タクシー支援事業」として3億736万円を計上、決定しました。

バス・タクシー事業者が「新しい生活様式」に適応し、安全・安心な運行を継続するための経費を助成するもので、バス事業者に対してはバス車両1台につき 10万円、タクシー事業者には1台につき2万円(下限額10万円/事業者)を支援するものです。

長野県バス協会の加盟社では、乗合708台、高速乗合191台、貸切802台、合計1701台、非会員者では600台とされます。

(2)長野市は自主路線バスの運行支援に6,400万円

長野市は6月専決補正予算で、路線バス運行支援事業として6400万円を盛り込むことになりました。

通勤・通学時間帯のバス運行便数や通院等の移動手段を確保するため、バス事業者が運行する自主路線継続を支援するもので、自主路線を運行しているバス事業者(2社・30路線)を対象とします。

長電バスで2,200万円、アルピコ交通で4,200万円と試算されます。

金額的には、緊急事態宣言下の1カ月の減収分に相当するようです。

県も市も地方創生臨時交付金を原資としています。

また、小中学生の心のケアのための校外活動や修学旅行で、3密回避のためのバス増車分の経費を支援するため、1億1,085万円(国庫補助)も盛り込まれました。子どもたちの校外活動での安全確保のための事業費となるものですが、旅行代理店が適正に見積もり、貸切バス事業者に行き届くことが重要となっています。

さらに、廃止代替路線などの補助金路線やコミバス等運行委託費に対する補助金支給時期を前倒しし、資金繰りをバックアップする方針も示しました。補助金路線は運行経費の赤字分を補填する仕組みとなっていますが、利用者減による赤字増加分を全額補填するとともに概算見積りでの交付が必要です。

松本市…アルピコ交通に2億円の支援

松本市は公的支援を要請されたアルピコ交通に対し、路線バス事業と上高地線の鉄道事業の赤字の一部補填として、2億円を上限とする支援策を打ち出しました。

路線バス等の公設民営を選挙公約にした臥雲市長ならではの政治判断です。

路線バスの減便後、今年度末までの運行経費に対し、運賃収入を差し引いた分を助成するとしています。9月定例会に補正予算案として計上する予定のようです。

赤字補填策を明確にし、地方創生臨時交付金の充当ではなく(臨時交付金では赤字補填ができない!仕組みとなっています)、一般財源を充てるとのこと、この点がミソです。

また、全国的な事例としては、徳島県が「新しい生活様式を支える公共交通応援事業奨励金」としてバス1台につき30万円の支援を決めています。また、高知市では、県と連携し路線バス1台7万円、高速・貸切バス、路面電車、タクシー1台につき5万円、対象は約200事業者で計3億700万円の支援を決めています。

全国的には、臨時交付金を活用し工夫を凝らした公共交通への支援が具体化されています。さらに調査し、長野県・長野市に働きかけを強めていく所存です。

【出典】5月29日信濃毎日新聞より

交通崩壊の危機を乗り越えるために【その2】へ

【その2】では、専門家の皆さんの提言や、全国自治体の取り組み、国の支援策の課題、そして長野県・長野市へのさらなる提案についてまとめてみたいと思います。

8月5日に、私が代表を務める私鉄協力議員団会議の勉強会を計画しています。交通政策に協力する県議・市町村議のほか県内私鉄の単組役員が参加する予定で、長野県バス協会の専務から公共交通を巡る現状と課題について報告を受けます。

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