車いす使用の障がい者の路線バス利用で実地調査【その1】

 7日午前中、アルピコ交通長野支社が長野市障害福祉課の皆さんと一緒に、障がい者の車いすバス乗降について、実地調査を行いました。
 アルピコ労組の特別執行委員の立場もあって、5月下旬から相談を受けてきていたことから、実地調査に合流・参加しました。

 電動車いすを利用する川中島町在住のHさんが、希望する特定のバス停での乗降を求めている件で、障がいをもつ当事者の権利擁護を第一義に、路線バスの安全性の確保も視野に入れ、対応策を検討するための調査です。

 本来であれば、Hさん仕様の電動車いすを使っての検証がベストでしたが、予備的な調査ということで、交通事業者と行政で行うことになったものです。

電動車いす使用のHさんのバス停利用の意思

 この懸案は、障害者差別解消法が施行される中で、障害当事者の意思に最大限応えられる方策をバス事業者との当事者間で建設的に意見交換し見出していく、ある意味「最初のケース」になるものと受け止めています。

 障がい者のバス利用について、アルピコ交通は、障がい当事者の要望に最大限応える努力がされてきているものと考えています。
 この間、私も障がい者の皆さんから個別の相談をうけ、交通事業者と協議してきた経過があります。尤も川中島のHさんのケースは承知していませんでしたが…。

 Hさんは、アルピコ交通の北原・篠ノ井線「川中島駅入口」のバス停利用について、事前予約をされたうえで利用されていました。週3回くらいの利用で住居近隣のバス停から長野駅間の利用だそうです。本来、この「事前予約」が必要とされる現実に、そもそもバリアを感じてしまいますが、バス事業者の責に帰す問題でもありません。

アルピコ作成の資料より

アルピコ作成の資料より


 「川中島駅入口」バス停付近の市道は歩道もなく、また交差点に近く交通量が多いため、見通しが効きづらく、追突事故等の誘発の危険性に不安を抱きながら、電動車いすの乗降をせざるを得ないため、車いす使用者及び利用者の安全の確保の観点から、アルピコ交通側は三本柳線の「三本柳西」バス停の利用を代替策として提案、理解を求めてきたそうです。
アルピコ作成資料より。川中島駅入口バス停の道路の幅員と交通量(18時台の調査)

アルピコ作成資料より。川中島駅入口バス停の道路の幅員と交通量(18時台の調査)


 しかし、Hさんとしては、これまで利用できたバス停が利用不可になることに納得がいかず、「川中島駅入口」の利用を引き続き求められているため、「安全の確保」の観点から、差別的取り扱いとならない合理的な対応策を検討するため、車いすを使用しての検証となったものです。

 アルピコ交通長野支社の営業所長や担当者がHさんと直接、面談・協議してきた経過があると聞いてはいますが、残念ながら行き違い、すれ違いになっている面が無きにしも非ずと思っています。
 Hさんは、現状としては「やむを得ず」だと思いますが、「三本柳西」バス停で乗降されているとのことです。ひょっとしたら、路線が違いますから、利用したい時間帯の路線バスのダイヤも影響しているのかもしれません。

車いす乗降の実際

 アルピコ長野支社の駐車場、「三本柳」西バス停、「川中島駅入口」バス停で、ノンステップバスとワンステップバスを使用しスロープ板を出し入れしての状況を調査しました。
【乗車の場合】
➊バス停に停車し、一般利用者の乗降が終わった後、車内アナウンスをしたうえで、車内の車いすスペースの座席を跳ね上げる。(予約のある場合は運行前に事前にはね上げてから運行する場合もあり)
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➋運転手が周辺の安全確認をしたうえでスロープ板を引き出す。
 スロープは約1m。電動車いすの全長は1.2mで、車いすの待機・移動のためにはバス車体から約2.6~2.7mが必要。
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➌安全を確保しながら、前進で乗車(電動車いすの場合は自走で乗車)。運転手は車いすを支えているそうだ。
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➍車内所定の場所で輪止めとベルトで固定。
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➎スロープ板の収納
➏ICカードで乗車チェック。
➐バスを発車。

【降車の場合】
➊バス停に停車し、一般利用者の乗降が終わった後、車内アナウンスをしたうえで、車いす使用者の運賃の精算をまず行う。
➋運転手が周辺の安全確認をしたうえでスロープ板を引き出す。
➌車いすの輪止めとベルトを解除。
➍付近の安全を確認しながら、バックでスロープを降車(電動車いすの場合はパックギアの自走で降車)。運転手は脱輪しないようチェックするとともに、車いすを支える。
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➎降車後の安全を確認し、スロープ板を収納。
➏跳ね上げた椅子の解除
➐バスを発車

 ワンステップバスの場合のスロープ板は、傾斜が強くなります(下写真)。
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 砂利道等での不安定さも点検。簡易な点検ですが…。
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【一連の作業に約5分間】
 乗車の場合に約4分間、降車の場合で約5分間要することに。車内アナウンスや運賃清算等の具体を考えるともう少し時間を要しそうです。この日の運転手さん(アルピコ労組書記長)は、息を切らしながら結構焦って段取りしていたようにうかがわれました。

【三本柳西バス停で】
 三本柳線の「三本柳西」バス停は、2mの歩道があるため、乗降の際の安全が確保できるとされます。
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【川中島駅入口バス停で】
 歩道はないものの、スロープ板を引き出し車いすが乗降できるスペースの確保はできます。Hさん自身がバス停前の地権者にバス停利用の了解を得ているともされています。
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 道路幅と交通量から、バス後続の車が先が見えづらく、交差点から右折してくる車の追突事故の危険性が高く、運転手の不安感は理解できます。
 この日の調査では、10分位バス停で停車したが、二人の交通誘導を迫られる格好となりました。

 運転手の心理的負担、焦りによる対応ミス等の発生は危惧されるところです。
 乗降中に追突事故があれば、転倒事故もありうる。障がい者に限られるものではないが、バス事業者にとって事故発生が営業停止等の行政処分につながることを考えると、バス事業者にとっての安全確保も十分に考慮されなければならないと感じます。
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【電動車いすの重量は約200㎏】
 Hさんが使用している電動車いすは、最新式のもので、重量は約200㎏、体重を併せると約270~280㎏になるとのこと。スロープ板が重量負荷に耐えられるのかもチェックが必要です。現場での感じとしては、耐えられそうでしたが…。

駅入口バス停の周辺で降車場所を提案

 調査のあと、一つの代替策として、川中島駅入口バス停の手前・交差点により近い場所ですが、民地でバスがある程度乗り入れることができそうな場所があることから、Hさん、路線バス、バス利用者の安全の確保が図ることができるのでないか、地権者の理解を求めることをはじめ、物理的にバスの乗り入れが可能か、そのうえで往来する自家用車等が対面通行できる道路幅を確保できるか、検討するよう提案しました。
アルピコと市行政で協力し合いながら模索することになりました。
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 ただし、この提案は「降車場所」に限定されます。
 「乗車場所」についても、駅入口バス停付近で適当な場所がないか、これまでも調査検討されていますが、改めて検討することが必要で、知恵を絞ることになりました。

障がい当事者の利益を最優先に路線バス運行の安全性の確保の両立が不可欠

 私は、アルピコ労働組合から5月中旬過ぎに、この懸案について相談を受けてきており、障害当事者の権利擁護を第一義に、路線バスの安全性の確保も視野に入れ、障害者差別解消法の求めに対応できる対応が必要であると考え、アルピコ側にアドバイスしてきたつもりです。

 アルピコ交通では、車いすの障がい者の路線バス等の利用について、事前に電話で予約してもらい、ノンステップバス等の優先配車をする対応をとっています。

 本来的には、障がい者の皆さんがいつでもどこでも利用したいバス停で乗降できる社会的環境づくりが求められるところであると考えています。

 障がいを持つ皆さんが社会的に孤立せざるを得ない厳しい現実があることを共通認識にしたうえで、コミュニケーションをしっかりとりながら、当事者間の相互理解のもとに障碍者の皆さんの公共交通の利用が進み、社会参加が広がっていくことを願う立場に立っているつもりです。

JR川中島駅にエレベーター設置へ

 この話を最初に聞いた時に、「電動車いすでのバス停への移動は大変だな」と率直に思いました。川中島駅入口バス停にせよ三本柳西バス停にせよ、自宅からは1㎞以上あります。

 一方、自宅からJR川中島駅までは約300m。川中島駅のバリアフリー化が進めば、障がい者の皆さんの移動手段はより便利になります。もっとも、ハードだけでなくソフト面でのバリアフリー化が不可欠ですが。
 今年度、JR川中島駅へのエレベーター設置が具体化します。Hさんに限らず、障がい者、高齢者の皆さんにとっては朗報です。
 川中島駅のエレベーター設置により、障がい者の皆さんの移動手段・移動方法が変わることも考えられます。尤も、当事者の皆さんがどのように考えるかは別問題です。

施行された障害者差別解消法の立法趣旨を活かす

 4月1日から「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下、障害者差別解消法)が施行されました。

 この法律は、障害のある人もない人も、互いに、その人らしさを認め合いながら、ともに生きる社会をつくることを目指すもので、障がい者の皆さんにとっては長年にわたる悲願の法律です。

「不当な差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」

 障害者差別解消法のポイントは、「不当な差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」にあります。

 「不当な差別的取り扱いの禁止」は、国、都道府県・市町村などの役所や、会社やお店などの事業者が、障害のある人に対して、正当な理由なく、障害を理由として、サービスの提供を拒否することや、サービスの提供にあたって場所や時間帯などを制限すること、障害のない人にはつけない条件をつけるなどをし差別することを禁止するものです。

 「合理的配慮の提供」とは、障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられた時に、負担が重すぎない範囲で対応すること(事業者に対しては、対応に努めること)が求められるということです。
 重すぎる負担がある時でも、障害のある人に、なぜ負担が重過ぎるのか理由を説明し、別の方法を提案することも含め、話し合い、理解を得るよう努めることが重要であるとされます。

国交省のバス事業者に対する対応指針

 バス事業者に関しては、国土交通省が「障がい者差別解消法に関する対応指針」をまとめ、「不当な差別的取り扱い」や「合理的配慮」の具体例を例示しています。

国土交通省=所管事業における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針

 また、この「対応指針」で「望ましい」と記載している内容は、事業者がそれに従わない場合であっても、法に反すると判断されることはないが、障害者基本法の基本的な理念及び法の目的を踏まえ、できるだけ取り組むことが望まれることを意味するとしています。

 事業者における「正当な理由」の判断の視点として、個別の事案ごとに、➊安全の確保、➋財産の保全、➌事業の目的・内容・機能の維持、➍損害発生の防止等、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要としています。
 「客観的に判断する」とは、その主張が客観的な事実によって裏付けられ、第三者の立場から見ても納得を得られるような「客観性」が必要とされるとします。

 「合理的配慮の提供」に関し、過重な負担の判断要素を考慮し、代替措置の選択も含め、双方の毛説的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされるものとしています。

 障害者差別解消法は、不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(バリアフリー法に基づく公共施設や交通機関におけるバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・支援者・介助者等の人的支援、障がい者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)については、個別の場面において個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確を行うための環境の整備として実施に努めるとしています。このため、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることとなるとします。

 そのうえで、バス事業者に関し、差別的取り扱いや合理的配慮の提供の具体例が示されています。(あくまでも事例であって、これらがすべてではありません。個別的にはいろんな事例があると思われます)
 抜粋で紹介します。

★不当な差別的取り扱いにあたると想定される事例
 *障害があることのみをもって、乗車を拒否する。
 *車いす使用者に対し、混雑する時間のバス利用を避けてほしいという。
 *盲導犬、聴導犬、介助犬の帯同を理由として乗車を拒否する。

★不当な差別的取り扱いにあたらないと考えられる事例
 *車内が混雑していて車いすスペースが確保できない場合、車いす使用者に説明したうえで、次の便への乗車をお願いする。
 *低床式資料やリフト付きバスでない場合、運転者一人で車いす使用者の安全な乗車を行うことは無理と判断し、かつ車内で利用者の協力が得られず乗車できない場合、説明したうえで発車する。

★合理的配慮の提供の具体例
 *定期的にバスを利用する車いす使用者の利用時間に合わせ、路線を指定してバリアフリー対応の車両を配車する。
 *車内の利用者へ車いすスペースを空けてもらうよう車内案内により協力をお願いする。

★過重な負担とならない場合に、提供することが望ましいと考えられる事例
 *インターネットで、低床式車両の位置情報を提供する。
 *スロープ板を出すことが困難なバス停では、前後で乗降可能な位置にバスを停車する。
 *バスと歩道等の隙間が広く開かないように停車する。
 *車いす使用者の乗車ができないことがないように、スロープや車いす固定装置の整備・点検を徹底する。
 *高齢者や障害者等の特性を理解したうえで、適切な接遇・解除を行うことができるよう運転者に教育する。

「合理的配慮の提供」として合意できる道筋を

 長々と紹介しましたが、バス事業者も国交省の対応指針は承知していますから、「不当な差別的取り扱いの禁止」を深く理解し、障がい当事者が納得できる「合理的配慮の提供」を如何に具体化するかが問われています。

 「川中島駅入口」の安全の確保に関する合理性、「三本柳西」バス停利用を代替策とする合理性をしっかり吟味しながらも、公共交通の安全確保(すなわち利用者の安全確保)を図りながら、障がい当事者が望む場所でのバス利用のあり方、駅入口バス停付近での新しい乗降場所の検討が実を結ぶよう、対応していきたいと考えています。

 実は、今日、このブログをまとめている時に、Hさんを知る私の友人から、Hさんとの直接対話を提案してもらいました。
 私自身も当事者の声を直接聞かなければと思いつつも、ちょっと遠慮してきた経過があります。
 近々、お会いし話ができたらいいなと思っています。

 法的な対応としては「合理的配慮の提供」といったちょっと小難しい話になります。小難しいとはいえ、大事なことであり、バス事業者にとってもしっかりと頭に入れておくべき重要なことです。
 ですが、情緒的な言い方になりますが、私的には「ハート」だと思っています

 今後も、障がいを持つ当事者の声を起点に、関係者間の合意形成に努めたいと思います。

【補足…その後】7月8日に当事者であるHさんを中心に、アルピコ交通が提案する代替案等について実地調査を行いました。
160713車いす使用の障がい者の路線バス利用で実地調査【その2】