公共交通対策特別委員会の視察より…LRTの静岡市、BRTの岐阜市(その➊)

 22日から24日、2泊3日で公共交通対策特別委員会の行政視察に。
 調査テーマは、LRT導入を再生の起爆剤と意気込む静岡市、BRTで公共交通の再生をめざす岐阜市、市営バス直営を維持する高槻市、そして和歌山電鐡貴志川線をはじめ各地の地域公共交通再生を手がける岡山県の両備ホールディングス・小島会長ら、“公共交通の救世主”とされる民間交通事業者との意見交換です。

 長野市においては、交通対策審議会の新交通システム導入検討部会で、LRTとBRTを中心に5つの検討ルートでの調査結果が報告され、2月8日の次回部会で調査結果素案がまとめられようとしている折、それぞれに異なる地域公共交通再生の方向性・手法は、実に示唆に富む視察となりました。

 第一報として、LRTとBRT、対照的な静岡市と岐阜市を報告します。まずは[その1]としてLRT導入を検討している静岡市です。所感部分は思いつくまま、今後の研究課題がたくさんありそうです。

◆静岡市…「静岡型コンパクトシティの実現」⇒「LRTが最適な交通システム」

➊人口71万6千人の政令指定都市で県庁所在地。合併により1411㎢の面積(全国5位)を誇るが市域の8割が森林地域。葵区、駿河区、清水区の3区で構成される。

静岡駅前、写真奥がバスターミナル

➋公共交通網は、JRと民間事業者である静岡鉄道の鉄道・バスが基本。静岡~清水間は東西にJRと静岡鉄道が並行して走り、駅を結節点にバス路線網が伸びる。
 *JR   静岡~清水間で6駅、約10分間隔の運行で約11分、10万人/1日
 *静岡鉄道 新静岡~新清水11㎞間に15駅 約5分間隔の運行で約20分、3万人/1日
 *バス   民間47路線+市営7路線(居住地域中心)、7.8万人/1日
 民間交通事業者である静岡鉄道が都心にアクセスする交通ネットワークを形成しやすい都心間基幹公共交通軸となっている。その運行形態から静岡鉄道は既にLRTであると位置づける見方もある。

LRTを軸とする公共交通の将来イメージの説明より。交通政策課は市の都市局・都市計画部内に位置する。都市計画をメインに公共交通網整備を進めているところが一つのポイント。

➌かねてからLRT導入を要望していた静岡商工会議所の呼びかけで、H23年8月に商工会議所・静岡鉄道・静岡市の3者で「静岡市LRT導入研究会」を設立。埼玉大学大学院の久保田尚教授が会長を務め、H23年12月に「静岡市へのLRT導入に関する提言書(研究成果)」をまとめる。

「提言書」のポイントは、
◎集約型都市構造=静岡型コンパクトシティの実現
  都心・副都心である静岡・清水・東静岡を都心間期間公共交通軸で結び鉄道沿線上に都市構造を形成する。
「LRTが最適な交通システムである」…「環境」「健康」「交流」「賑わい」の4つのまちづくりの視点から、LRT導入の意義を整理し、「シンボル性」「バリアフリー」「フレキシブルなルート設定」「鉄道との連携」から「LRTが最適な交通システムである」と結論。
LRT整備による期待効果として、自動車に頼らないコンパクトな都市構造の実現、公共交通ネットワークの実現、中心市街地の活性化、観光・レクリエーション・交流の活性化、行政コストの削減をあげる。
◎「葵ルート」「駿河ルート」「清水ルート」の3つを想定ルートとして検討。需要予測による採算性の検討(ランニング収支)では、1億700万円の運賃収入に対し1億円の運営費と試算される「葵ルート」のみが採算路線とされる。

葵・駿河・清水地区のLRT導入想定ルート


◎概算事業費は、葵ルートで約76億円、駿河ルートで約102億円、清水ルートは約80億円の投資が必要とされる。経営形態は公設民営・上下分離のスキームを必要とする。
◎解決すべき課題と解決方策の考え方として、静岡地区では、都心部への自動車流入抑制、静岡鉄道との接続、JR静岡駅との結節。清水地区では需要の確保、静岡鉄道との接続、JR清水駅との結節があげられ、「課題が解決されたルートから実現に向けて取り組む」とし、現実的な整備方式として「段階的な整備」による実現化を図るとする。
【参考】静岡市LRT導入研究会…研究内容のまとめ

最大の課題は市民の関心・合意形成
 研究会からの提言に関するパブリックコメントでは、29人が意見提出し、賛成16人、条件付賛成が8人、反対が3人、その他2人とされた。早期実現を求める意見がある一方、「財政負担となり、赤字でもやる必要があるのか」「バスで十分。何故LRTなのか」との意見が出されたそうである。
 「南海トラフの巨大地震における津波高・浸水域等被害想定」が公表されてからは、津波対策を優先すべきとの声が多くなっているとのことだ。

市民・経済界・鉄道事業者・市で構成する「LRT導入検討協議会」を立ち上げ
 静岡・清水両地区でシンポジウムを開催(H22年度から)してきているが、市民の関心はそれほど高まっていない現実にあるようだ。そこで、課題解決やその対応策について意見を聴くことを目的に、昨12月とこの1月に静岡・清水両地区に「LRT導入検討協議会」を設立。
 当面、この協議会での検討がLRT導入実現の可否を占うことになりそうだ。

所感として…
 *輸送密度が高い既存の静岡鉄道の存在が大きく、静岡鉄道の延伸と絡んだ新交通システム=LRT構想となっていること、商工会議所をはじめ経済界が一体となって推進役を担っていることが大きな特徴。「中心市街地活性化の起爆剤に」と位置づける行政と民間事業者の連携が鍵となっている。
 *想定ルートにおける課題解決策である市街地への自動車流入の抑制策は、まだまだ具体策が見えていないようである。そうした中で、課題は市民の関心と合意形成であろう。採算が取れるとされる「葵ルート」での導入が一番実現に近いと思われるが、それでも初期投資に80億円かかることから、巨大地震への備えの優先性と絡んで、実現可能性は未知数と言えるのではないか。その意味で「地区LRT導入検討協議会」の行方が注目される。
 *既存の公共交通網の基盤の違いがあるものの、「LRTが最適」とし、経済界・行政・事業者・市民が一体となって、実現に向けた課題を整理し、課題解決策を模索するとともに市民の合意形成を図ろうとする手法は、学ぶところが大きいといえる。
 *「LRTが最適」とする結論を出す過程で、BRTとの比較における、それぞれの長所・短所がどのように整理されたのか、さらに調査が必要と思われる。静岡市はバス路線の維持に赤字補てんとして約3億円支出しているとされ、不採算路線の利用者約2000人に約2億円の投資をしている試算となるようだ。バス交通整備の費用対効果に限界があるとの見方が強いことが背景となっているようにも思われる。