参院選の争点に「外国人政策」が急浮上しています。ネット上では、日本で外国人は優遇されているのではないか、という声があがっています。背景には格差と貧困が広がり我慢を強いられる日本社会の実相があります。その我慢の矛先を外国人に向ける政治指向にあるのでしょう。
こうした外国人が優遇されているとの根も葉もないデマの真相を見極め、日本社会における自由と民主主義を確かなものにしていく主権者の冷静な判断と1票の行使が問われます。
15日に発表された日本ペンクラブの緊急声明及び平和フォーラムなどNGO団体の緊急共同声明を転載します。
【日本ペンクラブ緊急声明】
「選挙活動に名を借りたデマに満ちた外国人への攻撃は私たちの社会を壊します」
私たちは、このまま社会が壊れていくのを見過ごすことはできません。 参議院選挙を通じ、与野党を問わず、一部の政党が外国人の排斥を競い合う状況が生まれています。しかも、刺々しい言葉で、外国人を犯罪者扱いし、社会の邪魔者のように扱うことが、さも日本の社会をよくするかのように振舞っています。
「違法外国人ゼロ」「日本人ファースト」「管理型外国人政策」など、表現の仕方は違えど、外国人を問題視するような政策が掲げられ、「外国人犯罪が増えている」「外国人が生活保護や国民健康保険を乱用している」「外国人留学生が優遇されている」といった、事実とは異なる、根拠のないデマが叫ばれています。これらは言葉の暴力であり、差別を煽る行為です。
こうしたデマと差別扇動が、実際に関東大震災時の朝鮮人虐殺等に繋がった歴史を私たちは決して忘れることはできません。
私たちはこれまで、過去の反省に立って多文化共生社会をめざし、すでに多くの自治体ではそのための条例も施行されています。そうして少しずつでも、成熟し前進してきた民主主義社会が、一部政治家によるいっときの歓心を買うための「デマ」や「差別的発言」によって、後退し崩壊していくことを、私たちは決して許しません。
民主主義社会を守るために、有権者がいま一度立ち止まり、自身の一票を大切に行使することを願います。
2025年7月15日
一般社団法人日本ペンクラブ 会長 桐野夏生 理事会一同
【参議院選挙にあたり排外主義の煽動に反対するNGO緊急共同声明】
私たちは、外国人、難民、民族的マイノリティ等の人権問題に取り組むNGOです。 日本社会に外国人、外国ルーツの人々を敵視する排外主義が急速に拡大しています。NHK等が先月に実施した調査では、「日本社会では外国人が必要以上に優遇されている」という質問に「強くそう思う」か「どちらかといえばそう思う」と答えた人は64.0%にものぼります(1)。
外国人、外国ルーツの人々へのヘイトスピーチ、ヘイトクライムが止まりません。例えば2023年夏以降、埼玉県南部に居住するクルド人へのヘイトデモ、街宣が毎月のように行われ、インターネット上は連日大量のヘイトスピーチであふれる深刻な状況となっています。
6月の都議会選挙では、選挙運動として「日本人ファースト」等のヘイトスピーチが行われました。また、外国ルーツの候補者たちが「売国奴」などのヘイトスピーチによって攻撃されました。
来る参議院選挙でも「違法外国人ゼロ」「外国人優遇策の見直し」が掲げられるなど、各党が排外主義煽動を競い合っている状況です。政府も「ルールを守らない外国人により国民の安全安心が脅かされている社会情勢」として「不法滞在者ゼロ」政策を打ち出しています。
しかし、「外国人が優遇されている」というのは全く根拠のないデマです。日本には外国人に人権を保障する基本法すらなく、選挙権もなく、公務員になること、生活保護を受けること等も法的権利としては認められていません。医療、年金、国民健康保険、奨学金制度などで外国人が優遇されているという主張も事実ではありません。
「違法外国人」との用語は、「違法」と「外国人」を直結させ、外国人が「違法」との偏見を煽るものです。「不法滞在者」との用語も、1975年の国連総会決議は、全公文書において「非正規」等と表現するよう要請しています(2)。難民など様々事情があって書類がない人たちをひとくくりで「違法」「不法」として「ゼロ」すなわち問答無用で排斥する政策は排外主義そのものです。
本来政府、国会などの公的機関は、人種差別撤廃条約にもとづき、ヘイトスピーチをはじめとする人種差別を禁止し終了させ、様々なルーツの人々が共生する政策を行う義務があります。社会に外国人、外国ルーツの人々への偏見が拡大している場合には、先頭に立って差別デマを打ち消し、闘うべきなのに、偏見を煽る側に立つことは到底許されません。法務省もヘイトスピーチ解消法に則り、選挙運動にかこつけて行われるヘイトスピーチは許されないとの通知を出しています(3)。
ヘイトスピーチ、とりわけ排外主義の煽動は、外国人・外国ルーツの人々を苦しめ、異なる国籍・民族間の対立を煽り、共生社会を破壊し、さらには戦争への地ならしとなる極めて危険なものです。
私たちは、選挙にあたり、各政党・候補者に対し排外主義キャンペーンを止め、排外主義を批判すること、政府・自治体に対し選挙運動におけるヘイトスピーチが許されないことを徹底して広報することを強く求めます。また、有権者の方々には、外国人への偏見の煽動に乗せられることなく、国籍、民族に関わらず、誰もが人間としての尊厳が尊重され、差別されず、平和に生きる共生社会をつくるよう共に声をあげ、また、一票を投じられるよう訴えます。
(1)NHKウェブニュース「『外国人優遇』『こども家庭庁解体』広がる情報を検証すると…」(2025年6月28日)
(2) 「移住者と連帯する全国ネットワーク」HP「在留資格のない移民・難民を不法と呼ばず非正規や無登録と呼ぼう!」の頁参照。
(3) 法務省「事務連絡」(2019年3月12日)選挙運動,政治活動等として行われる不当な差別的言動への対応について
【呼びかけ団体】 特定非営利活動法人 移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)/「外国人・民族的マイノリティ人権基本法」と「人種差別撤廃法」の制定を求める連絡会(外国人人権法連絡会)/外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)/人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)/全国難民弁護団連絡会議(全難連)/一般社団法人 つくろい東京ファンド/一般社団法人 反貧困ネットワーク/フォーラム平和・人権・環境(平和フォーラム)