長野市消防局では、救急の搬送ミスや救急車搭載の薬剤の期限切れ問題が、マスコミへの匿名投稿により発覚する中、「ミス公表の考え方」を9月中にまとめ、23日の市長記者会見で質問に答える形で明らかにしました。
消防・救急のミスの公表…当事者に多大な影響ある場合は原則非公表
「消防・救急活動等におけるミス発生時の公表の考え方」で、内容は次の通り。
「消防・救急活動等におけるミス発生時の公表の考え方」
第1 消防・救急活動において、市民の生命、身体及び財産に関わる市民の信頼を失わせるような事案が発生した場合、事案の再発防止と市民への説明責任を果たす観点から公表する。
第2 公表内容については、事案当事者(相手方)への影響を十分に確認の上、事情に応じて判断するものとし、原則として多大な影響が生じる内容については公表しない取扱いとできるものとする。
平成30年9月 長野市消防局
「市民の生命、身体及び財産に関わる市民の信頼を失わせるような事案」は公表とする一方、「事案当事者に多大な影響が生じる内容」の場合は、原則非公表にできるとするものです。
つまり、消防・救急に関するミスは原則公表とするが、公表内容については多大な影響が生じる内容について公表から除外するということのようです。
当事者がプライバシーの観点から公表を望まない場合は非公表とするということになります。
【参考】後述の市長記者会見の議事要旨
消防・救急という公益性の高い業務上のミスについて、こうした対処法で、市民への説明責任が果たされるのか、はなはだ疑問です。当事者が望まないことを理由に、ミスが隠蔽される危険性を内包していると考えます。
マスコミヘの匿名の情報提供によりミスが発覚した場合、市消防局が追認せざるを得ない事態が続けば、かえって市民の消防・救急に対する信頼を根底から失わせることにつながります。
当事者個人が特定されないように公表内容を吟味し「原則公表」とする対応が基本であると考えます。
マスコミ報道で発覚した救急の誤搬送など三つのミス
9月20日にマスコミ報道で発覚した救急のミスは3件です。
市消防局篠ノ井署(分署を含む)で、昨年以降、救急車が搬送先の病院を間違えたり、搬送中に使用期限切れの薬剤を投与したりするミスがあっもので、いずれも懲戒処分には当たらないとして口頭の厳重注意処分となっています。
一つは、今年1月下旬、心肺停止状態の女性を救急搬送する際に、搬送先の病院を間違え到着が7分遅れたとされる事案で、女性は1週間後に死亡されていますが、搬送中の処置で心臓が動き出したことや病状などから「到着の遅れが影響した可能性は低い」としています。
誤搬送ミスの原因は、「隊員間の意思疎通が不十分であったため」とされます。
この事案に関し、10月20日付の信濃毎日新聞で、この女性が妊娠中であったこと、胎児は搬送当日に死産し、女性が約1週間後に死亡していたと新たに報じました。
9月市議会定例会中に開かれた総務委員会では、搬送先を間違えたミスについて報道を追認する形で説明がされましたが、この際には女性が妊婦であったこと、胎児が死産していたことは明らかにされていませんでした。
二つは、5月下旬に発生した事案で、救急救命士が搬送中の患者に使用期限が約3箇月過ぎた薬剤を投与したもので、患者には影響がなかったとされています。
原因は、定期的な薬剤等の点検時にミスにより車内に残ったままになっていたもので、使用時にも期限の確認を怠ったことによるものです。
三つは、昨年7月中旬の事案で、行方不明者の高齢者情報を関係機関約300箇所にFAXする際、個人情報の一部を隠さずに送信したというものです。
一つ目、二つ目の事案は、ミスが致命的とはなっていないと判断されているものの、救急患者の生命の安全にかかわる重大な事案で、救急に対する信頼を揺るがすものにほかなりません。
さらに、10月19日には、非番の消防局職員が大型バイクの無免許運転及び無免許運転ほう助罪の疑いで、諏訪警察署に検挙、聴取を受けている事案がFAXで報告されました。
10日に発生した事案で、消防局では、行政処分が確定したのち、懲戒処分の指針に沿って厳正に対処するとしています。
3つのミス事案…「公表の考え方」では非公表扱いに
市消防局では、このほどまとめた「消防・救急活動等におけるミス発生時の公表の考え方」に照らすと前記の3事案は非公表となるとしました。
10月23日の市長定例記者会見で、消防局が記者の質問に答えています。記者会見の要旨より。アンダーラインは筆者。
Q4(記者)
今年1月に、救急車が搬送先の病院を間違えて、妊娠していた女性とその胎児が死亡するということがあった。このことに関して、市長はどう思っているか。
A4(長野市長)
搬送ミスはあってはならないことだと思っている。これについては、おわびを申し上げたい。このようなことが二度と起こらないよう、消防局には十分注意するよう指示した。
Q5(記者)
この件は公表していなかったが、こういうミスに対する公表の明文化は考えているか。
A5(長野市長)
早速、(これまでの公表の考え方を)明文化した。ミスを公表しなかったのは、家族の意向を最大限尊重した結果である。市民に対する説明責任を果たしているかという点もあるので、公表すべき事案のルールを定めるべきと考え、公表の基準をルール化(考え方を文章化)し、現在はそのルールに従ってやっている。
少し内容を説明すると、市民の生命、身体および財産に関わる市民の信頼を失わせるような事案が発生した場合、原則として公表する。ただし、公表内容については、当事者への影響を十分に確認の上、事情に応じて判断するものとし、多大な影響が生じる場合には、公表しないことができるという取り扱いとしたところである。
Q6(記者)
この基準は、いつから実施しているのか。
A6(消防局次長兼警防課長)
市長から指示があった(平成30年)9月20日以降である。それは、細かく文面化して、例えば5分遅れたら公表するのか、10分遅れたら公表するのかというような細かい規定ではない。それぞれがケース・バイ・ケースという場面もあるので、さまざまな事象に対しての大まかなルールというものを決めている。
Q7(記者)
基準は、9月20日から運用しているということでよいか。
A7(消防局次長兼警防課長)
そのとおりである。
Q8(記者)
その基準にのっとり運用した場合、1月の篠ノ井消防署の事案は、公表することになるのか。
A8(消防局次長兼警防課長)
ならない。相手の意向を最大限尊重した案件である。今後も、相手の心情に沿うという場面があれば、公表しないこともあり得る。
Q8(記者)
今回の事態を受けてルールを作ったが、母子が亡くなったという今回の事案は、公表対象にならないということか。
A8(消防局次長兼警防課長)
そのとおりである。相手の心情に沿うということを今後も尊重したいと考えている。
Q9(記者)
匿名でも、公表を望むか望まないかを遺族に確認したところ、望まないということだったのか。
A9(消防局次長兼警防課長)
そのとおりである。
すなわち、公表の考え方・基準は大まかなルールであり、ケース・バイ・ケースで判断するということです。
原則公表で、再発防止を確実なものに
これでは、前述したとおり、当事者の意向尊重を理由に恣意的な運用がされかねない問題を内包していると考えます。
相手の心情に沿うことは大切なことです。最大限の配慮が求められます。
しかし、市民の生命・身体・財産にかかわることだけに、当事者が特定されないよう配慮し、ミスの事実を公表することは、公益性の観点から適正に行われなければなりません。
ミスの事実、原因を公表することで、再発防止を確実にする消防・救急の業務の改善が着実かつ的確に進められると考えるからです。
市議会総務委員会で検証を
消防局がまとめた「消防・救急活動等におけるミス発生時の公表の考え方」については、市議会への説明はありません。
私から総務委員会委員長に委員会の開催を提案してきていますが、今日段階では、11月7日に予定される総務委員会・協議会(新たな委員会構成による勉強会)での質疑・確認となりそうです。
「公表の考え方」による対応で、市民への説明責任を十分に果たすことができるのか、再発防止に向けた業務改善が確実に進むのか、さらには、消防・救急業務におけるミスは、他にないのか、なぜ、篠ノ井消防署所管においてミス事案が連続して発生しているのか等々、しっかりと検証したいと考えます。
マスコミ等を通じて、ミスが発覚する事態を繰り返すよりも、自律的に情報開示することで、市民への説明責任と再発防止につなげられると考えます。