行政職から登用する新教育長…同意したものの前途多難

長野市議会3月定例会は22日、1,552億8,000万円の2021年度当初予算案をはじめ市側から提出された77の議案すべてを原案通り可決し閉会しました。

私が幹事長を務める改革ネットは市側から提出された全議案に賛成しました。

新年度当初予算案については、改革ネットを代表して鈴木洋一議員が賛成討論しました。

最終日の焦点は教育長人事でした。

新教育長の任命人事案に賛成多数で同意

2期6年間務めた現職・近藤守教育長の任意満了・辞職に伴う人事で、商工観光部長の丸山陽一氏(59歳)を登用するものです。

教員経験者など教育現場の課題に明るい人材の登用ではなく、教育行政経験のない行政職から登用することの是非が問われる人事案です。長野市では行政職からの登用に前例がありますが、功を奏したかは意見が分かれるところです。私自身は否定的評価です。

議会は賛成多数で教育長の任命に同意したものの、懸念と不安が残されています。

一番の懸念は、教育経験のない行政職からの登用で、学校施設の在り方、小中学校の上からの統廃合が優先され、発達段階に応じた子どもたちの多様な学びの保障が疎かになりはしないのかという点です。

なお、教育長職務代理者である坂口昌夫教育委員の一身上の都合による辞任に伴い、近藤守氏を新たに教育委員に任命する人事案は全員賛成で同意可決しました。

「無条件同意ではない」…賛成討論で課題を正す

改革ネットでは、行政職からの登用について懐疑的な意見が大勢であったものの、最終的な議決態度について、同意すべきか、不同意とすべきか、退席を含めて真剣に協議を重ねた結果、会派としての統一的対応を図る観点から、同意することで合意しました。ただし、賛成討論の中で、人選過程における課題、子どもたちの学びの保障を最優先する教育行政の課題を指摘することにし、私が賛成討論を行いました。

賛成討論では、冒頭に「今回の教育長人事案に対し、改革ネットとして、残念ながら、無条件にもろ手を挙げて同意・賛成するものではない」とスタンスを明確にしたうえで、「教育現場、すなわち、主役である子どもたち、学校長をはじめとする教職員、PTA保護者との揺らぐことのない信頼関係に基づき、長野市教育が築かれることが不可欠」と強く指摘し、「小中学校の上からの強引な統廃合等を指向するものではなく、あくまでも教育現場の関係者の深い理解と丁寧な合意形成に基づいて、笑顔あふれる豊かな学びの場の創造につながるよう、力が発揮されなければならないこと、長野市教育の根幹である教育大綱・教育振興計画やしなのきプラン、活力ある学校づくり答申を踏まえ、多様な子どもたちの学びの保障、子どもたちにとっての最善の利益を第一義とする長野市教育の実現にこそ力が注がれなければならないことを、任命権者である市長、そして新たに任命されるであろう教育長がしっかり肝に銘じ、実践されること」を厳しく要請しました。

苦言を呈し釘を刺しつつの賛成討論です。実質的には「反対討論」との声もありましたが…。

長野市教育の根幹の意義が語られない任命意図

行政職からの登用の意図について市長は「人口減少や超少子高齢化が進む中、GIGAスクール構想によるICT環境の整備や学校施設の長寿命化など喫緊に解決すべき課題に対応できる人材」と強調しましたが、一番大切であり重要な課題が抜け落ちていることに、より懸念が募ってしまいます。

すなわち、「長野市教育大綱」=教育振興基本計画や第二期しなのきプランの実践、さらに「少子化に対応した、子どもたちにとって望ましい教育環境のあり方」の答申・まとめの具体化など、子どもたちの学び、育ちに関する長野市教育行政の根幹が語られないことです。

一言でいえば、新教育長の任命に、主役である子どもたちの姿が全く見えないことです。市長の認識、任命責任が問われると同時に、新教育長の認識が問われることになります。

教育現場によって立つ教育次長をはじめ教育委員会全体のサポートが必要となるでしょう。行政運営に偏り、教育理念なき教育長とならないことが大きなカギであると言っておきます。

討論の中で厳しく正した点です。

長野市議会インターネット中継(録画配信)のページ

前途多難…6月議会で論戦挑みたし

市長は、「学校支援官」(課長級・任期付職員、教育指導主事から)を新設し、教育現場へのサポート態勢を強化する考えを示しましたが、前途多難といわなければなりません。

6月定例会の経済文教委員会(教育委員会を所管)で新教育長と相まみえることになります。厳しくチェックする所存です。

参考:賛成討論の内容

賛成討論の内容を次に掲載します。ただし、実際の討論は演壇で補強しながら行いました。

市議会HPインターネット録画配信にアップされた段階で改めて紹介します。


31番 改革ながの市民ネットの布目裕喜雄です。

議案第68号、教育長の任命について、賛成の立場で討論します。

まず最初に申し上げたいことは、今回の教育長人事案に対し、改革ネットとして、残念ながら、無条件にもろ手を挙げて同意・賛成するものではないということです。

地方教育行政組織法は、その第4条で、「教育長は教育行政に関し識見を有するもののうちから、地方公共団体の長が、議会の同意を得て、任命する」と規定しています。行政職からの登用を排除するものではありませんが、常識的に、まずは教員経験者等からの登用を想定しているものと受け止めます。

市長は、任命議案提案の説明にあたり、直接、教育委員会所属の経験はないものの、「公共施設マネージメントや市長公室長など行政事務全般にわたり必要な識見を有している」としましたが、教育行政組織法の規定から考えると、教育現場からの教員経験者の登用ではなく行政職から登用する理由・根拠としては、説得力に欠けるものであると言わざるを得ません。

少子化に伴う活力ある学校づくりに向けた答申まとめの具現化が、中山間地域にとどまることなく喫緊の課題となっている今日、子どもたち一人一人の発達段階に応じた学びの保障を第一とする教育内容、教育環境の整備が問われているということです。そのためには、上から行政からの押し付けではなく、教育現場、すなわち、主役である子どもたち、学校長をはじめとする教職員、PTA保護者との揺らぐことのない信頼関係に基づき、長野市教育が築かれることが不可欠だと考えます。

しかも、GIGAスクール構想の具体化において、教員の資質の向上はもとより、子どもたちの自学自習の資質・能力の向上が大きな課題となり、またICT教育による新たな学びの格差、学力格差の解消も課題となっているところです。

さらに、コロナ禍のもと、子どもたちが抱く閉塞感に、しっかり寄り添い続け、知・徳・体、一体となった学び、つながりの大切さを実践することがより重要となっています。

こうした、子どもたちを取り巻く課題山積の環境を、子どもの視点で把握・認識し、子どもたちとともに成長を共有することが、より重要であることを強調したいと考えます。

行政内部の教育長選考・選定の過程において、そもそも教育長を教育現場から登用する問題意識が希薄だったのではないですか。結果、行政職ありきの対応が独り歩きすることはなかったのでしょうか。教育現場の課題を子どもたちの学びと生活の実相の中からくみ上げ、課題解決にあたるという視点が希薄だったのではないでしょうか、こうした苦言は禁じえませんし、懸念と不安が募ります。

「少子化に対応した 子どもにとって望ましい教育環境の在り方について」の答申まとめの副題は「笑顔あふれる豊かな学びの場であり続けるために」です。

この度の教育長の新たな人事が、小中学校の上からの強引な統廃合等を指向するものではなく、あくまでも教育現場の関係者の深い理解と丁寧な合意形成に基づいて、笑顔あふれる豊かな学びの場の創造につながるよう、力が発揮されなければならないこと、多様な子どもたちの学びの保障、子どもたちにとっての最善の利益を第一義とする長野市教育の実現に資する人事となることを強く願うものです。任命権者である市長に強く申し上げます。そして、新たに任命されるであろう教育長が、今、申し上げてきたことをしっかり肝に銘じ、実践されるよう議会として厳しくチェックすることを、当たり前のことですが改めて強調するとともに子ども第一の提案を続けることも宣言し、苦言を呈しつつの賛成討論とします。

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