31日~1日、私鉄総連自治体議員団の総会と私鉄交通政策自治体議員懇談会の総会のため、広島市を訪問しました。
バスや鉄道、交通産業に働く労働者でつくる労働組合の連合体である私鉄総連の組織内議員は全国で55人。
ピーク時に比べると約4分の1、平成の大合併を機に減少し、なかなか回復基調に至らない状況にあります。
そこで、私鉄交通政策の実現に向けて、交通政策に理解のある議員を幅広く結集しようと作ったのが交通政策自治体議員懇談会です。
懇談会には56人の議員が参画しています。
国段階の交通政策基本法の制定を踏まえ、地方では地域公共交通活性化再生法による地域公共交通網形成計画及び再編実施計画の策定が大きな課題となっています。
それぞれの総会では、「網計画」策定の意義と課題や公共交通利用促進条例の取り組み、貸切バスの安全確保、広がりを見せているライドシェアに対する取り組みなどが論点となりました。
2日目は、広島電鉄㈱の取締役を講師に「広島市のバス活性化」について勉強するとともに、赤ヘル軍団のマツダスタジアムを視察して来ました。
バス車両に安全基準無し?!
軽井沢での貸切バス事故を踏まえ、バス事業者の安全対策を強化するため、悪質業者に対する罰金の引き上げを中心とする道路運送法の改正案が臨時国会に上程されています。
小豆島自動車出身の森崇・小豆島村議から、貸切バス事業者に対する厳しい対応策とともに、「大型バスの車体強度に法的な安全基準を設けることが必要」と問題提起がありました。
道路運送車両法の保安基準では「車枠及び車体は、堅牢で運行に十分耐えるものであること」「車体は車枠に確実に取り付けられ、振動、衝撃等によりゆるみを生じないようになっていること」(同法18条)と規定されているだけで、明確な安全基準になっておらず、これを厳しく見直すことが必要であるとの提起です。
国交省もバス車体の強度を高めるための安全基準の設置を検討し始めているようですが、実効性のある基準設定に向け対策が急がれなければなりません。
白タク行為の合法化図るライドシェアに警戒
過疎地や交通空白地域で白タク行為の合法化を図る自家用ライドシェアの動きが広がっていることも課題となっています。
2015年10月、国家戦略特区諮問会議で安倍首相が「観光客の交通手段として自家用車の活用を拡大する」と述べ、自家用車のライドシェアを特区で実施する意向を示したのをうけ、16年5月、国家戦略特区法改正が自民・公明・おおさか維新の賛成で可決・成立、特区内で観光客運送を名目にした自家用有償運送が従来より簡単にできるようになりました。
改正法では、自家用有償運送はあくまでバスやタクシーがない地域での特例という枠がはめられてはいますが、既に実施している京都府京丹後市や計画をしている兵庫県養父市などでは、ライドシェア企業ウーバーのアプリシステムをつかって自家用車による運送を行うことにしており、これを足掛かりにしてライドシェアの認知、全国的な展開が狙われています。
また、国内企業ではリクルートが、過疎地における高齢者の移動手段の確保に向け、「あいあい自動車」のシステムを開発、現在、三重県菰野町(こものちょう)で実証実験が行われています。
同システムの利用について昨年、リクルート側から小布施町に提案されましたが、見送りになった経過があります。
さらに、経済産業省は、産業競争力強化法に基づくグレーゾーン解消制度により、仲介事業者から申請のあったレンタカー等のドライバーマッチングサービスにかかる道路運送法上の取り扱いについて、「利用者に対して仲介事業者がクルマとドライバーを一体的に斡旋しない限り道路運送法に抵触しない」との判断を、国交省との協議の上、示すに至っています。
この仲介事業者は、沖縄県の「ジャスタビ」とみられ、「ジャスタビ」がWEB上で行っているレンタカーへのドライバー紹介事業が合法であるとしたもののようです。
ところで、長野市長は、このライドシェアに「簡便かつ低廉で地域の交通を確保できるのでは」と関心を示していると聞き及びます。
利用者の安全確保が自己責任とされるライドシェアの仕組みは、公共性を保持する地域公共交通網整備の仕組みの一つとするには、危険が多すぎます。
監視を強め、持続可能な地域公共交通網の整備に向け、対案を提示していくことが重要となっています。
ライドシェアとは?(全自交HPより)
ライドシェアは、一般ドライバーが自家用車を使って他人を輸送するもので、ドライバーと利用者をつなぐスマートフォンのアプリが開発されたことで、世界中で急速に拡大しています。アメリカ・サンフランシスコ発祥のウーバー(Uber)とリフト(Lyft)などの企業が激しい競争を繰り広げています。両社は、グーグル、GM、トヨタなど名だたる大企業からの出資を受け、巨額の利益を上げています。
利用者がスマホで配車を依頼すると、近くにいる登録ドライバーが自家用車で迎えに来て、目的地まで乗せていきます。利用者はクレジットカードでライドシェア仲介企業に料金を支払い、同企業からドライバーに距離等に応じた報酬が支払われます。これは、わが国では、道路運送法に違反する「白タク」行為と規定されています。
広島市のバス活性化の取り組み
二日目は、広島電鉄㈱の仮井康裕取締役・バス活性化推進本部長から「広島市のバス活性化の取り組み」について報告を受けました。
人口120万の政令指定都市である広島市では、利便性の高い公共交通ネットワークの構築や公共交通サービスの充実・強化を図るため、都市づくりの長期的展望に立った、都心部をはじめ市域全体の公共交通のあり方や機能強化策の基本的な考え方などの公共交通体系づくりの基本方針、アストラムラインの延伸計画の見直し、バス活性化策など具体的な機能強化策などを盛り込んだ「公共交通体系づくりの基本計画」(H27年8月)を策定しています。
同時に、利用者の減少が著しいバス交通について、鉄軌道系公共交通と同様に都市の骨格を形成する基幹的な役割から、地域の活動を支える生活交通としての役割まで幅広く担うものであり、公共交通の体系づくりを考える上で、欠かすことのできない公共交通機関と位置づけ、将来にわたりバス交通を持続可能な交通手段として維持していくために「バス活性化基本計画」(H27年8月)を策定しました。
バス活性化基本計画の目標は、「1日当たり1万人のバス利用者増」です。
資料は、広島市バス活性化基本計画より抜粋したものです。
➡広島市公共交通体系づくりの基本計画【広島市HP】
➡広島市バス活性化基本計画【広島市HP】
この日は、「バス活性化基本計画」の策定に携わったバス事業者の側からの問題意識をお聞きすることができました。
広島市内で路線バスを運行するバス事業者は、広島電鉄㈱や広島バス㈱をはじめ12社もあるそうで、市内中心部では主に広島電鉄と広島バスが競合、郊外部ではエリアにより2社から4社で競合しているそうです。
そこで、新しいバス交通づくりの基本的な考え方として、事業者サイドからは➊乗りやすいバス、➋わかりやすいバス路線、➌利用しやすいバス運賃の三つを基本方針として「利用者の需要に応じた運行・運賃の確立」を目指したいとします。バス活性化基本計画の柱となっています。
そのうえで、➊広島都市圏(デルタ内市街地)や市域周辺部等の時間帯別によるバス路線の再編、➋ハスターミナルや交通結節点の拠点整備、車庫や待機施設の確保、バスロケの整備などのバス関連施設の環境整備、➌都市圏における運賃の均一化、バス乗り継ぎ運賃への直通運賃の適用、時間帯別運賃・上限運賃(プライスキャップ制)の制度化、通学定期券の割引率の引き上げ、共通定期券の導入などバス運賃の見直しなどを検討課題としています。
また、バス事業者運営体制の改革に向けた検討項目として、①同一路線複数事業者運行の実施と清算方法の確立、②運賃制度の統一化、③PASPYカード(交通ICカード)の統一、④施設の共同利用や購買の一元化、➄乗務員教育の一元化が挙げられます。
さらに、行政に対しては、①継続し安定した支援方法の確立、②広島市周辺市町との共同支援体制の調整、③マイカー規制や高齢者利用促進などの公共交通利用促進策の実施、④他モードの公共交通機関との調整、➄走行環境の整備と関連機関との調整などを求めるものとなっています。
今年の1月から3月にかけて、「都心部における重複系統のドッキング」の施策の一環として、デルタ内市街地において重複系統の一本化。新規路線の運行の社会実験が行われました。
実験で、路線を統合した結果、中心部の運行便数を50%、走行キロを10%削減し、従前と比較して費用を約13%削減、収支改善につながったとされる一方、路線中心部の繁華街を境にした区間利用者に差があり、需給バランスが整わず、区間別の需給バランスの検討が必要とされているようです。
商業施設であるイオンモールとアルパークを結ぶ新規路線では、利用者からは好評で、乗り継ぎの利用率が高かったことから、路線単体の収支では赤字となったが、公共交通ネットワークとしては新規路線のルートは有益であり、停留所や営業時間帯の見直しで利用者増を図る必要があると結論付けています。
仮井取締役が、「中心部の路線の統合により、空いたバスを周辺部や中山間地域に回すことができ、公共交通ネットワークの形成に資することができる」「競合他社との調整にはエネルギーを要するが、バス交通の活性化に向けて乗り越えるべきハードルだ」と述べていたことが印象に残ります。
長野市では、廃止された長電バスの保科温泉線をアルピコの大豆島線と一体化し、事業者2社による共同運行方式で、路線の維持存続が図られることになりました。
3月市議会定例会で、共同運行方式の拡大によるバス路線の再編の必要性を質してきましたが、広島市の試みは、大変参考になるものでした。
広島電鉄㈱では、路面電車やバスのロケーションシステムにいち早く取り組みむとともに、外国人観光客にむけた「多言語通訳サービス」や「周遊乗車券」の販売に取り組んでいます。
さらに、広島市では、広島駅前のメインストリートに立体交差の橋を整備し、路面電車を広島駅構内に連結する計画が進められています。流石、政令都市という受け止めですが…。
広島市の「公共交通体系づくりの基本計画」、「バス活性化基本計画」をもっと勉強し、今後に活かしたいと思います。
マツダスタジアムを視察
勉強会の後、広島市民球場「マツダスタジアム」を視察。
広島東洋カープの本拠地です。
日本シリーズで日本ハムに負けた直後とあってか、街中はいたって静かでした。
広島市都市整備局の職員の皆さんから説明をいただきました。
マツダスタジアムは広島市が整備した新球場です。
市がカープ球団とフランチャイズ協定を結び、将来にわたって広島を本拠地として活躍し球団の安定的な運営を可能にするとともに、カープ球団を球場の指定管理者に指定、さらにマツダ㈱と年間2億2000万円の命名権契約を結んでいます。
スタジアムの事業費は、JRからの用地取得費と合わせ約145億円。広島市の建設費負担分は23億円。
建設費90億円のうち、約36億円を市債で賄っていますが、この返済財源は、指定管理者である広島カープからの利用料金と施設占用・広告表示料などの目的外使用料で充当できているとされます。
指定管理費は約2億.6千万円で協定していますが、これを大きく上回る納付金が、市債の償還財源になっていることになります。
また、マツダ㈱の命名権料が、施設の大規模修繕経費の財源になっているとのことです。
こうしたことから、145億円の巨額を投じた施設建設において、広島市の持ち出しは23億円という安上がりな施設建設・維持になっているのです。これはビックリです。
また、左右非対称の球場の観客席には、バーベキューパーティをしながら観戦できる客席や畳敷きお座敷客席、ソファ備えの客席など、集客に工夫が凝らされています。なかなか予約が取れないそうです。
球団側の整備になっているそうですが、伝統ある市民球場ならではの創意と工夫といったところです。
スポーツ施設の維持管理、集客といった観点から学びたいものです。
南長野運動公園総合球技場(サッカースタジアム)の命名権契約は頓挫したまま…厳しい経済環境にあるとはいえ、企業等への大胆なアプローチが不可欠でしょう。
10年間に31億円もの維持経費がかかる冬季五輪ボブスレー・リュージュ競技場(スパイラル)の今後の在り方も問われています。
広島平和記念公園に
31日夕刻、会議か予定より早く終了したことから、広島駅前から路面電車に乗って平和記念公園を訪問、平和記念資料館も駆け足で回ってきました。
1945年8月6日午前8時15分の原爆投下から71年。私自身は25年ぶりの広島平和記念公園です。
「安らかに眠ってください。二度と過ちは繰り返しませんから」…ヒロシマの心である核兵器廃絶と世界の恒久平和を改めて誓ってきたところです。
交流会後には、地元市議の案内で、広島のお好み焼きとカキ焼きを堪能してきました。