京丹後市の公共交通施策【その2】…ウーバー社アプリを活用する自家用車有償運送

今頃になってしまいましたが、2月に会派で行った行政視察、京丹後市の公共交通施策の【その2】です。

京丹後市内で、日本海側の旧合併3町で民間タクシーが相次いで撤退する中、丹後町に導入されたのが、地元NPO法人による公共交通空白地有償運送=「ささえ合い交通」です。

民間タクシーが撤退しタクシー空白地となった網野町と久美浜町では、小荷物や買い物代行等の新たな輸送サービスを提供する「EV乗合タクシー」を導入し、丹後町(過疎地域指定)ではNPOによる「公共交通空白地有償運送」を導入したものです。

➡【関連】170502「京丹後市の公共交通施策【その1】…200円レールと200円バス」

H28年5月に運行が始まったもので、米国ウーバー社の配車アプリを活用したことから、ウーバー社の国内進出の先例となり、白タク合法化への懸念とともに、俄然、注目を集めています。

まずは市営デマンドバスをNPOが受託

丹後町域では、H26年7月に、NPO法人「気張る!ふるさと丹後町」が受託する市営デマンドバス(10人乗り)の運行を始めました。

主に幹線道路を運行する民間の丹海バスの路線・バス停にフィーダーする支線運行を基本とし、2路線の隔日運行、運賃は100円・200円です。

NPO法人「気張る!ふるさと丹後町」は、H20年12月に、まちづくり協議会の提言により組織化されたもので、丹後町区長会と丹後市民局(=支所)との連携で、地域住民自身によりまちづくりを進めることを目的としています。

市営デマンドバスを受託するにあたり、NPO法人に安全運行管理者(専務理事)を置き、住民からドライバーを採用しています。

しかし、市営デマンドバスは、地域(丹後町内)をまたいでの移動ができず、また隔日運行であること、そして運営のためのマンパワー(運行管理者およびドライバー)に限界があることから、その解決策として導入されたのが「ささえ合い交通」とされます。

「ささえ合い交通」とは

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道路運送法第78条2号に基づく「公共交通空白地有償運送」として位置づけるもので、地元のNPO法人(気張る!ふるさと丹後町)に登録されるボランティアドライバー(18人)の自家用車を活用し、移動したい人とドライバーをUber(ウーバー)社製のスマートフォンアプリを介してマッチングする仕組みとなっています。

*運行主体…NPO法人 気張る!ふるさと丹後町
*運行区域…乗車は丹後町のみ。降車は京丹後市全体(帰りは路線バス民間タクシーを利用)
*料  金…最初の1.5㎞まで480円、以遠は120円/km(タクシー運賃の2分の1)
*運行時間…午前8時~午後8時(365日)
*配車方法…スマートフォンアプリで配車依頼
*運賃払い…クレジットカードによる自動決済(現在、現金決済も可となる)

NPO法人「気張る!ふるさと丹後町」のサイト…「ささえ合い交通」ブログも掲載

コストやマンパワーの抑制などのメリットを強調

京丹後市側は、➊システム力により遊休資産(住民と自家用車)を無理なく活躍させることができる、➋ウーバーアプリ=ICTの導入は世界的な時代の潮流でコストが抑制される、➌クレジットカードの自動決済で支払いが楽、インバウンド対策ともなる、➍運行状況や内容の透明性が極めて高い、などと胸を張るのですが、利用状況は1日当たり5人に満たない情況のようです(視察時には詳細が不明)。

この点に関し、5月26日に運行1周年を迎え、NPO法人のページでプレスリリースが行われていました。利用状況の実績や今後の課題等が示されています。
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また、アプリ使用によるウーバー社への手数料(運賃の2割程度と言われていますが)、ドライバーに対する運賃の収受状況も、市側からは明らかにされませんでした。透明性はイマイチって感じです。

高齢で車を持たない市民の買い物や通院の移動をサポートし、観光客の二次交通を確保することを目的としていますが、利用者側からとしては、スマホを持たない高齢者への対応(例えば、民生委員が申し込みを代行しているそうですが限界があります)や、クレジットカード決済への抵抗感は課題として残っているように思われます。

ウーバー社アプリを活用した公共交通空白地有償運送の導入は、地域公共交通会議で全会一致(タクシー事業者を含めて)により承認されていますが、運行管理に伴う安全講習やドライバーや車両の安全管理などには、国土交通省大臣認定講習会や、京都運輸支局による安全講習会など、国交省としても安全管理を重視し対応しているようです。

保険関係では、保険会社(東京海上火災)と協議し、車両保険(対人・対物)は無制限に加入、NPO活動に対する保険(高齢者の誘導中の事故対応など)を2次的保険として加入しているそうです。

運行管理者を置いてはいるものの、運行管理や車両整備管理等における事故防止対策、安全性の確保や、運行責任や事故発生時の賠償責任はドライバーのみが負うことによる安心の確保には、疑問を禁じえません。

ライドシェア特区提案で白タク解禁の震源地

京丹後市は、ライドシェアの国家戦略特区に提案した自治体で、白タク合法化の震源地となった経緯があります。

公共交通空白地有償運送は、道路運送法で認められた過疎地における輸送サービスの一つで、京丹後市が「ライドシェアではなく合法的な輸送サービス」と強調するのですが、ライドシェアを推進する米国ウーバー社のアプリを活用している点が“カギ”というか、今後の展開にグレーさを感じさせるものとなっています(担当者の熱意、意気込みはさておいて…)。

タクシー業界では、ライドシェア=白タク解禁の突破口になるのではとの警戒感を強めている現実があります。

実際に、京丹後市内では、タクシー空白地となった網野町や久美浜町にタクシー会社が新たに営業所を進出させ、公共交通空白地有償運送の拡大に歯止めをかけています。

白タク行為の解禁につながりかねないライドシェアの導入は、タクシー業界にとっては死活問題です。

シェアリングエコノミーの一形態とされる「ライドシェア」の導入については、国交省は「極めて慎重な検討が必要」としていますが、訪日外国人をはじめとする観光客を対象に特区法による自家用有償運送の規制緩和が図られ、過疎地域等での自家用車ライトシェアの拡大が政府部内で検討が続いています。

ライドシェアの問題点については、改めて整理したいと思います。

公共交通空白地の交通ネットワークの可能性

公共交通空白地有償運送は、過疎地域での輸送や福祉輸送といった、地域住民の生活維持に必要な輸送について、それらがバス・タクシー事業によって提供されない場合に、例外的に市町村やNPO法人等が自家用車を用いて有償で運送できるとされる「自家用車有償旅客運送」の種別の一つ。

登録要件として、➊運行管理体制、運転者、整備管理体制、事故発生時の連絡体制等、必要な安全体制を確保していること、➋バス・タクシーによることが困難であり、かつ地域住民の生活に必要な輸送を確保するため必要であることにつき、地域の関係者(地方運輸局または運輸支局、地域州民、NPO等、バス・タクシー事業者及びその組織する団体、運転者の組織する労働組合)が合意していることが挙げられています。

地域公共交通会議や運営協議会での審議・同意が必要とされているものです。

道路運送法78条の「自家用自動車有償運送」について…国交省中国運輸局のページ

長野市域においても、中山間地域の公共交通ネットワークを如何に再構築していくのかが喫緊の課題となっています。

ウーバー社製のアプリ活用はさておき、法律の定めるところにより、様々な視点から公共交通ネットワークの可能性を探らなければなりません。

しかしながら、運行責任や安全性がしっかり担保されている公共交通ネットワークが大前提です。

パブコメが終了し策定される「長野市地域公共交通網形成計画」の可能性・実効性と結び付けて、しっかり検討・検証したい課題です。

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