長野県地域公共交通計画(案)に対するパブコメ

長野県では、地域公共交通計画を策定中で、先週5月24日締め切りで計画(案)に対するパブコメの募集が行われました。意見を提出しました。

長いですが、参考までに掲載します。

長野県地域公共交通計画(案)に対する意見

地域公共交通をめぐる状況は、運転手不足によるバス路線や鉄道の減便、廃止、利用客の減少による交通事業者の収益悪化など厳しい状況が続いています。

公共交通の危機、すなわち県民の暮らしを支える公共的・社会的基盤の危機が深まる中、県が率先して「長野県地域公共交通計画」を策定し、県全域をエリアとした計画の策定ならびに10地域ごとの地域編の策定を行い、地域公共交通の維持・再生、活性化に大きな役割を果たそうとしていることを評価します。

計画が県民の共有財産となり、県民をあげて地域公共交通の維持・存続につながることを願い、何点かにわたり意見を提出します。

1.公共交通に係る情勢、地域公共交通を取り巻く現状と課題の整理に関連して(P47~P50、P62)

「運転手をはじめとした担い手の不足」が「喫緊かつ最重要の課題」と位置づけ、「あらゆる手法を検討し官民連携で取り組む」とされているが、実効性のある施策展開が重要。

(1)運転手の採用活動支援や専門の相談窓口の設置など就労につながる環境整備として必要であるが、運転手の待遇改善や働きやすい環境の整備が進まなければ就労につなげることは難しい。担い手不足はバス運転手に限らず、バスの整備者、鉄道の乗務員はじめ技術職にまで至っている。安全運行を確保するためには運転手のみならず、そこで支える技術職・事務員(運行管理者など)がいてこそ安全確保が果たされる。公共交通に従事する全ての職務の人材確保策が必要であることから、交通運輸産業を魅力ある産業にしていくため、県全体の産業政策の重要な柱として位置づけ、必要な支援策を講じること。

(2)他都道府県からの移住者に対するドライバー等人材確保支援事業に期待するところであるが、担い手不足は全国的課題であることから、ドライバー移住者に公営住宅をはじめとする住居確保の支援策をプラスし長野県への移住の魅力を付加する施策を講じること。

(3)退職自衛官や消防吏員へのアプローチを具体化するとともに、2種免許取得の支援策をセットで講じること。

2.第3章 公共交通等リ・デザイン(再構築)方針について(P51~P53)

(1)基本方針において「行政の主体的な関与により『社会的共通資本』である地域公共交通の維持・発展、利便性の向上を図る」と強調されているが、まさに「行政の主体的関与」が肝であり、市町村と問題意識を共有し、県としての財政的支援のメニューの豊富化を図り、市町村の施策展開と合わせ、県全体で整合性のある施策展開となることを求めたい。

また、「目標達成に向けて実施する施策・事業」において「公共交通に対する公的関与の在り方検討・研究」(P72)が示されているが、先送りすることなく着実な「関与の充実」を図られたい。

(2)目標1「日常生活における自家用車から公共交通への利用転換」、目標2「通院・通学・観光に必要な移動の保証」について。通院・通学といった移動制約者に注目している点は最低限保証という意味合いで理解できるし不可欠であるが、利用転換を図るためには通勤の手段としての公共交通の役割は避けて通れない。移動における脱炭素化を推進するためにも、マイカー通勤から公共交通利用通勤への転換を図ることが重要な要素であり、明示が必要であると考える。併せて、事業者に対する利用転換促進のためのインセンティブ、政策誘導が必要と考える。

(3)目標3「公共交通におけるサービスの品質保証」について。目標2の「最低限保証が必要な移動」と関連し、「移動に必要なダイヤ・便数の水準、決済環境や情報提供の充実、拠点整備など…保証すべきサービスの品質」は、木曽地域を例にイメージが示されているところであるが、速やかに10圏域ごとに「保証すべきサービスの品質」がまとめられ、明示することが望まれる。県計画を県民に分かりやすく示すことにつながるとともに、策定されている市町村の地域公共交通計画との整合性を図っていくことにつなげられると考える。

(4)「施策の方向性」=「持続可能な地域公共交通ネットワークの構築」に関連して。

JR赤字路線とされる大糸線・飯山線・小海線・辰野~塩尻間において、国と連携して鉄路のネットワークの維持を図られたい。バス代替輸送の試行も検討されているようであるが、JRをはじめ、しなの鉄道線・北しなの線、上高地線、別所線と合わせ、緊急時(災害時)への対策にも鑑み、鉄路の重要性を明確に位置付け、維持・存続を図る方向性を明示されたい。

3.「目標の達成に向けて実施する施策・事業」⇒「広域的・幹線的なバス路線の維持・確保」について(P66)

(1)県計画であることから複数市町村をまたがる「広域的・幹線的バス路線の維持・確保」が位置付けられることは理解するが、市町村の生活圏域における路線バスの維持・確保についても、圏域ごと計画に盛り込み、市町村の取り組みを支援されたい。

(2)「広域的・幹線的なバス路線の維持・確保」について、継続的な財政支援を講じられたい。

4.「目標の達成に向けて実施する施策・事業」⇒「施策2:持続可能な地域公共交通ネットワークの構築」⇒「(4)交通空白地域や観光地における輸送の確保」に関連して(P70)。

(1)「日本版ライドシェア」の導入が始まっているところであるが、コロナ渦によりタクシー運転手の離職が相次いでいるとはいえ、安易に運転手不足であるから「ライドシェア」導入へと舵を切るべきではない。改正タクシー特措法において、特定地域計画により供給制限とタクシーの活性化を進め、さらには運転手の賃金・労働条件の改善を目的としていることからも、協議会や地域協議会を通じ、まずはタクシー事業の安定化を目指すべきである。

(2)「日本版ライドシェア」においてはタクシー事業者が運行主体に限定されているところであるが、この限定の枠内での運用にとどめることに留意し、運転手・利用者の安全確保、適正な運賃、適性な賃金・労働条件の確保を第一義に県タクシー協会との協議にあたられたい。

5.「まちづくりと連携した取り組みの推進」について(P71)

(1)中心市街地への自家用車の乗り入れ規制、トランジットモールやパークアンドライド用駐車場の整備について、まずは長野市・松本市及び代表的観光地において具体的な検討を着手するよう指導を強められたい。

6.「地域公共交通計画のマネジメント」について(P78~P83)

(1)「計画の指標及び目標値」について、県計画であることから県域全体の目標値の設定を理解するものの、圏域ごとの目標にまで落とし込み、圏域全体での事業促進を図ることが必要であると考える。

(2)また、「目標の達成に向けて実施する施策・事業」について「評価検証と改善のサイクル」が示されているが、単年度ごとの実施計画、ロードマップの作製により評価検証を進めていくことが必要である。

7.県内地域公共交通の維持・確保に向けた全般的な課題として

(1)計画策定後に、10地域ごとに説明会など開催し、地域公共交通の現状と課題、住民ニーズの把握、公共交通への利用転換と利用促進を促されたい。本来であれば、計画策定の過程で、素案に対するパブコメだけでなく、素案についての住民説明会・意見集約の場が設けられることが望ましかったと思うが、計画を県民の共有とするため、市町村と連携し、策定後に企画されたい。

(2)脱炭素化という形で環境保全の観点から公共交通の維持・確保、利用転換が示されているが、加えて、公共交通を利用して歩いて暮らすまちづくり、健康増進という観点からのアプローチ、県民周知が必要と考える。

(2)県をはじめとする「行政の主体的関与の強化」に関し、系統的で継続的な財政支援を充実させること、市町村計画と整合性がとられ、住民にわかりやすい計画とし、よって県民・住民を挙げて公共交通の役割と重要性が共有され、公共交通への利用転換に向けた県民運動の展開へとつながる政策・施策効果をあげられるよう尽力されたい。

以  上

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