私鉄協力議員団会議…県の地域公共交通計画素案と松本市「公設民営型バスネットワーク」をテーマに

めっきり秋らしくなりました。議員を引退し”ノンバッジ”になって初のブログ更新です。比較的ゆったりした日々を送っているとはいえ、更新はままならずです。

10月19日、県内私鉄の労働組合でつくる私鉄県連が推薦する自治体議員に呼びかけ協力議員団会議が開かれ、長野県が策定中の「県地域公共交通計画(素案)」や、松本市の「まつもと公設民営バス」の取り組みについて学習し合いました。

私は私鉄組織内議員として協力議員団会議の団長を務めてきており、議員引退に伴い、団長の交代をお願いしてきましたが、当面、団長を続けることになりました。公共交通問題をライフワークとしてきたことから、イレギュラーではありますが、経験と知見を活かすことができればと引き受けた次第です。

この日の学習会には、県議6名、市町村議9名のほか、県内私鉄の労組役員など35名余が参加しました。参加いただいた議員の皆さんと各単組との連携を強め、各級議会での提言・提案につながることを期待したいものです。

長野県…全県的な公共交通サービス・ネットワークの品質保証をめざす

4月から新たに交通政策局を新設した長野県からは、企画振興部交通政策局・交通政策課長の丸山正徳さんが持続可能な社会を支える地域公共交通の実現に向けて策定中の「長野県地域公共交通計画(素案)」のポイントを報告。

県全域を対象とする県地域公共交通計画(素案)は、「特に通院・通学等の日常生活における移動や観光地への円滑な移動など、自家用車に頼らなくても大きな不安を感じずに安心して暮らせる持続可能な社会の実現」を「めざす将来像」として描き、「官民連携のもと、行政の主体的関与により、社会的共通資本である地域公共交通の維持・発展、サービスの品質保障を図る」ことを基本方針に、「持続可能な地域公共交通ネットワークの構築」「利用しやすい地域公共交通の実現」「地域公共交通分野における脱炭素化の推進」の3点を目標に設定、目標値として公共交通機関利用者数を2028年度1億人(コロナ前2019年度で9830万人)、SUIKAを利用できる地域連携ICカードを県内10圏域で導入することなどを掲げます。

年内に計画案をまとめ、来年1月~2月のパブリックコメントを経てR5年度内の策定を予定しています。

県版地域公共交通計画の特徴は、「最適な交通ネットワークを構築するとともに、地域公共交通において保証すべきサービスに関する品質」を示している点です。

例えば、交通ネットワークの品質では、市町村間を跨ぐ広域的なバス路線について、高校・病院へのアクセスと通院・通学の移動に必要な便数・ダイヤの確保(具体的な水準はこれから)を示し、決済環境の品質では、鉄道・バス・タクシーなど全県の公共交通機関で交通系ICカードが使える環境整備、公共交通情報の提供に関する品質では、Google等でバス路線の経路を検索できる環境整備、拠点に関する品質では、主要な交通結節点でシェアサイクルの整備を促進するとともに、快適な待合施設、デジタルサイネージやWi-Fi環境の整備があげられます。

品質保証により、最適な交通ネットワークの構築と公共交通への利用転換・利用促進を図るとする問題意識は共有するところですが、特に利用転換・利用促進を担保する政策誘導策の具体が必要であろうと考えます。住民のライフスタイル・行動様式の転換を促すには、インセンティブが必要です。

県内の公共交通網は市町村をまたいでいることから、広域な視点で公共交通計画が策定される意義は極めて重要であるとともに、市町村が策定する地域公共交通計画との整合性が問われることにもなります。

意見交換では、赤字ローカル線の維持や路線バスとの接続などJRとより連携する視点の打ち出しや、計画の策定・運用にあたっての住民参加の仕組みの重要性などの意見が出されました。

私的には、県計画を受けての長野市地域公共交通計画の検証、県内の重要な交通結節点であるJR長野駅を擁する長野市としての視点の検証が必要であると感じたところです。

まつもと公設民営バス…全国初のエリア一括協定運行事業への移行

また、松本市交通部公共交通課長の柳澤均さんからは「松本市の交通政策の取り組み」を提起してもらいました。今年4月からスタートした「まつもと公設民営バス」がポイントです。

「まつもと公設民営バス」=「ぐるっとまつもとバス」は、松本市が制度設計し、民間事業者が運営運行するスキームで、路線バスを社会インフラに位置付け、市が運行資金を担保し。路線バスのルート・運行本数・運賃を設定するもので市が強く関与し市民の足を確保するものです。

松本市では、アルピコ交通の自主運行路線、市が運行主体の市街地のタウンスニーカー、コミュニティバス、合併地域の市営バスなどが運行されてきていますが、これを基本的に市がすべて運行主体となりバス路線網を再編・維持することになります。

具体的には、エリア一括運行委託方式により、松本市及び山形村・朝日村を含むエリア全体で、アルピコ交通1社と一括協定を結び、運行を委託します。車両の保有は運行事業者となりますが、車両調達費と整備費等は市の委託料・負担金に含まれます。5年間の委託契約で、想定運行経費と想定運行収入を予め設定することで、運行事業者にインセンティブとリスク負担を与える設計とされます。

なお、経営改善により生じた収益及び想定運行収入を超える収益は事業者に帰属します。

自治体がバス車両等を購入・保有し、運行のみ民間に委託する「公設民営」方式ではなく、バス車両等の購入・保有と運行をまとめて民間に委託する「運行委託」方式を採用した点がミソなのでしょう。「運行委託」の方が車輛投資額や整備費の最適化や運行の効率化につながると判断したとされます。

地域公共交通確保維持改善事業において新設される「エリア一括協定運行事業」として国土交通省の補助採択を予定しています。本事業に関連して「共創プロジェクト」「交通・観光連携型事業」などの他の支援メニューを活用して関連事業を実施する場合は、優先的に採択されることになります。全国初の取り組みです。

4月からスタートした新事業で、路線数は35路線から38路線に3路線増、総走行距離は1,942千km/年から1,797千km/年に7.5%減とのことです。

再編に伴う路線バス運行に係る予算比較では、R4年度当初予算で1億7,800万円がR5年度当初予算では2億7,700万円で、約1億円の経費増とされますが、詳細はなお調査が必要です。

1,000人の利用者アンケートによるダイヤ改正に取り組むとともに、今後、毎年度モニタリングを実施し、新運賃体系の導入を検討するとされます。

松本市のバス路線の経営・運行の再編検討には、全国的にバス・鉄道の公共交通機関の経営再建に取り組む㈱経営共創基盤、みちのりホールディングスが関わっています。

エリア一括協定運行事業への転換は、先見的に国の新しい事業スキームを取り入れている点で評価すべきところでしょう。経営がひっ迫するバス事業者にとっては、車両購入費や整備費が市の負担で裏打ちされ、路線バス事業を安定的に維持できるメリットがあると思われます。一方で、利便性の向上度合いや将来的な新運賃体系への移行に伴う課題等は、もう少し取り組み状況を見極める必要があると感じるところです。

長野市内におけるバス路線網の維持・存続に関し、公設民営への移行を提案してきた一人として、注目し続けたいと思います。

10月25日~26日、私鉄総連の自治体議員団会議が愛知県犬山市で開かれます。全国幹事を務めてきましたが、最後のケジメとして参加する予定です。

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