滋賀県湖南市…「福祉のまち」で進むエネルギー地産地消・分散型エネルギーインフラプロジェクト

福祉環境委員会の行政視察報告3弾は、5月25日の滋賀県湖南市です。今頃ですが…。

人口54289人、面積70.40㎢、人口密度747.38人/㎢。滋賀県の南部(甲賀地方)に位置する。琵琶湖の南にあることから「湖南市」と命名。江戸時代には東海道51番目の宿場町として石部宿が栄えた。

県内最大の湖南工業団地への企業立地により機械系を中心に工業集積が進むとともに、京阪神のベッドタウンとしての性格も有する。

また、日本の障がい者福祉の第一人者であり「社会福祉の父」とも呼ばれる糸賀一雄氏らが設立した近江学園が立地する。乳幼児期から就労期まで一貫して行う発達支援のシステムを全国に先駆けて立ち上げるなどの取り組みを続けている「福祉のまち」として有名である。

湖南市のテーマは、地域の自然エネルギーを活用した持続可能なまちづくり=分散型エネルギーインフラプロジェクトの取り組みである。

環境×福祉=地域自立・循環システムの構築へ

H9(1997)年に障がい者共同作業所である「なんてん共働サービス」に全国初の事業性を持った太陽光パネルによる市民共同発電所を稼働させるという環境における先進的な取り組みと障がい福祉における先駆的な取り組みをベースに、福祉を軸とした地域自立・循環システムの構築=誰もが自立した生活を送ることのできるモデルの構築が目指され、地域にある資源を地域内で循環させる取り組みがスタートする。

湖南市地域自然エネルギー基本条例の制定

湖南市はH23年度総務省の「緑の分権改革」を受託し、地域の環境・福祉資源(ヒト・モノ)を活かした「障がい福祉」「観光・特産品」「自然エネルギー」の3つのプロジェクトを軸として、地域循環システムの構築に取り組んできている。

体系的な施策展開のスタートとなったのが、太陽光発電の固定価格買取制度の成立に合わせH24(2012)年9月に制定された「湖南市地域自然エネルギー基本条例」である。

「自然エネルギーは地域のもの」を基本理念とし、地域の自然エネルギーの活用について、市、事業者および市民の役割を明らかにするとともに、地域が主体となった取り組みによる地域社会の持続的発展に寄与することを目的にした理念条例である。

エネルギーの地産地消により地域内経済循環を生み出すことを目的とした条例は湖南市が全国初で、先駆的な取り組みとして注目を集め、地域自然エネルギー条例の制定が全国的に広がっている。

長野県内では飯田市が制定している。

湖南市地域自然エネルギー地域活性化戦略プラン…6つのプロジェクト

湖南市では、この条例に基づき、地域を主体にした再生可能エネルギー普及に取り組んでいる。条例を具現化するために、H27(2015)年2月に「湖南市地域自然エネルギー地域活性化戦略プラン」(以下、戦略プラン)を策定、①エネルギー・経済の循環による地域活性化の推進、②自立分散型のエネルギー確保、③地球温暖化防止への貢献を基本方針に掲げた。

市外に流出しているエネルギー費用(化石燃料費)は約153億円と試算し、エネルギーの地産地消で流出の最小化を図るとされる。数字による見える化が面白い。

さらにH27(2015)年10月に策定した総合戦略の中で政策パッケージに位置づけ、地域の自然エネルギーを活用した地域活性化の推進を具体的な施策としている点もポイントである。

戦略プランは6つのプロジェクトを設けている。

➊小規模分散型市民共同発電プロジェクト
市民や事業者の出資や寄附により、太陽光パネルの「コナン市民共同発電所」を4基設置、売電益を活用し、商工会と連携した地域商品券を配当する仕組みである。H28年度では商品券の累計発行額は2480万円余となる。

➋公共施設への率先導入プロジェクト
学校や市営住宅などに太陽光発電設備152kWを設置、街路灯のLED化を進める。

➌小水力発電導入プロジェクト
地元企業の㈱マツバと京都大学及び九州大学の共同で小水力発電の「ダリウス式ピコ発電装置」を開発、農業用水路を活用し約4Wを出力、外灯LEDを点灯させる取り組みが進む。

➍バイオマス製造燃料プロジェクト…イモ発電
実用化に向け研究開発中の取り組みが「イモ発電・熱利用」である。
太陽光発電では、ハンディを抱える人たちの参加が困難であることから、障がい者も参加できる発電システムを考えたもので、近畿大学の鈴木高広教授の「イモが日本を救う」との出会いをきっかけに、サツマイモの空中栽培、イモの販売と規格外品のイモやつた・はっぱを活用したメタンガスの利用を目指すものである。

空中栽培方法により、障がい者や高齢者が参加できるというところがミソである。
農福連携推進事業にも位置付けられる施策となっている。

サツマイモの空中栽培の拡大に力点が置かれている段階で、メタンガスの実用化はこれからの課題となっているようだ。

➎スマートグリッド街区のモデル的整備プロジェクト…コナンウルトラパワー㈱の設立
地域で作られた地元産電力を地域で利用しようと設立されたのが地域新電力会社「コナンウルトラパワー㈱」である。

市や地元企業の出資により設立し、市民共同発電や市内太陽光発電から電力を調達し、公共施設や企業、一般家庭に電力を販売する仕組みを構築したもの。

コナンウルトラパワー㈱は湖南市と包括連携協定を結び、2016年10月から市の60施設への電力供給をスタートさせている。市ではこれにより公共施設の電気代として年間1000万円程度の削減を見込む。電力調達は市内の市民共同発電所や太陽光発電施設を中心に市場調達と常時バックアップを組み合わせて行っており、市内調達分の割合は55%程度になる。

今後は2017年度には供給対象を民間企業に広げるとともにモニター家庭での試験的供給を行い、2018年度から一般家庭への本格販売を実施していく予定とされる。また、一般家庭の太陽光発電からの電力買い取り、一般需要家獲得のためのふるさと納税の特典として湖南市産の電力を供給する新たな事業展開や、市民ファンド出資者への電力サービス事業等を予定している。

➏可能性検討プロジェクト
森林の木質バイオマス資源を活用した再生可能エネルギーの供給を検討する。また、太陽熱利用や中小規模の風力発電導入の検討も進められる。

こうした湖南市の取り組みは、「第1回自治体政策評価オリンピック」(環境首都創造NGO全国ネットワーク主催)のエネルギー分野での先進事例として評価され、H29年度の新エネルギー大賞・新エネルギー財団会長賞(一社・新エネルギー財団主催)を受賞している。

分散型エネルギーインフラプロジェクト・マスタープラン策定事業へ

先の戦略プランに基づき、新たなプロジェクトが動き始めている。

H27年9月、総務省のモデル事業として始められた分散型エネルギーインフラプロジェクト・マスタープラン策定事業である。

木質バイオマス発電所の導入、バイオエタノール製造設備の導入、地域エネルギーセンターの設置などを構想し、市街地住宅団地や火葬場・湖南工業団地、湖南エネルギーパーク(仮称)の3つの地区におけるエネルギー地産地消を進めようとする事業計画づくりである。

壮大な事業という印象だ。今後の事業展開の具体が注目される。

湖南市のエネルギー政策…学びたい点

(1)「緑の分権改革」や「分散型エネルギーインフラプロジェクト」など総務省のモデル事業を積極的に受託し(選定を受け)、事業展開を図っている点。国のモデル的事業へのアンテナの高さを痛感する。

また、こうした取り組みを可能にしている背景に、市の担当責任者の継続的配置があげられよう。総合政策部・地域創生推進課・地域エネルギー室が担当するもので、まちづくりの横串機能が確立されているように思われる。担当室長は勤続8年間のプロパーだそうだ。部局横断的な施策展開には、リーダーシップを発揮できる人材配置と継続的な人材育成がポイントであることも併せて痛感するところである。

(2)地域自然エネルギー基本条例の制定に始まる地域自然エネルギー地域活性化戦略プランの展開は壮大である。

理念条例とはいえ、地域自然エネルギーの活用の条例化は検討に値する。しかしながら、条例のもとにいかなる施策展開を具体化するのかという中身が重要であるとこは言うまでもない。問題意識としては後段部分を重視したいところである。

(3)エネルギーの地産地消の仕組み構築は大いに学びたい点だ。また、農福連携の観点からの取り組みも重要である。

(4)長野市は再生可能エネルギーの促進に向け、一般家庭への太陽光発電導入に対しH11から市単独事業で助成し、これまでに9704件、10億8400万円を助成、1メガワットに換算し44基分に相当する地産地消エネルギー供給に資する事業を展開、H33年度まで12000件への助成を目標としている。太陽熱利用では、H24年度からで295件、21450万円を助成、またH28年度からのモニタリング事業(3年間で34件、340万円)でエネファーム(家庭用燃料電池システム)への助成を始めている。

また、バイオマス・エネルギーでは、キノコ廃培地や選定枝葉の利活用や、廃油利用、ソルガムきびの健康食品化とメタンガス発電の事業化に向け信州大学との共同研究を進めている。

一つ一つの施策では、長野市も湖南市に引けを取らない事業展開がなされていると受け止めているが、市域全体で地域特性を生かしつつ、包括的なエネルギー自給自足・地産地消の仕組みづくりという点では、湖南市の取り組みを参考に長野市版を検討したいところである。