改革ネット視察報告【その3】は7月4日に訪問した前橋市におけるマイナンバーカードを活用した取り組み、母子健康情報サービスの展開です。
人口336,154人、面積311.59㎢、人口密度1,074.74人/㎢。赤城山のふもと、群馬県の中央部に位置する中核市。明治時代には製糸業・「糸のまち」として栄えた市制125周年の歴史を誇る県庁所在地である。
隣接する高崎市と比べ、「行政や文化の中心は前橋、交通や商業の中心は高崎」とよくいわれるところである。
母子健康情報サービスの試験導入開始
前橋市では、H25年度から総務省ICT街づくり推進事業の委託を受けて、様々な実証実験に取り組んでいる。
その中の一つが、子育て環境の向上に寄与し、ニーズの高かった、母子健康に係る情報をインターネットを通して閲覧することのできる「母子健康情報サービス」である。
運用試験において、H28年1月から交付の始まった個人番号カードの公的個人認証を使い、インターネット上で本人確認及び申込み手続を行うことで、サービスを受けることができるもの。
運用は、実施主体を前橋市として、一般社団法人ICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構(TOPIC)に委託する。
サービス内容は、妊娠期~未就学児を持つ親を対象に、市からの母子健康に係るお知らせ等の情報配信、妊婦に係る健康診査結果情報の入力、乳幼児に係る健康診査結果情報の閲覧、予防接種のスケジュール通知機能、状態の記録及び成長の記録の入力、妊娠週数・子どもの月齢に合わせた情報配信などで、一度登録すれば、スマホ等で情報閲覧ができる。
通常は、薄井健康手帳の情報は市が、健康診断情報は病院や学校が別々に管理しているが、この事業により、市が保有する各種情報(妊婦検診・乳幼児健診・予防接種・健康診断等に係る情報等)と、市内の病院(産婦人科・小児科等)や学校が保有する情報を一元的に管理し、マイナンバーカードの電子証明書機能を“鍵代わり”として、パソコンやスマホ等で閲覧できる仕組みとなっている。
また、母親のアカウントで父親にメールで知らせることもでき、子どもの成長・健康情報を保護者間で共有できる。
事業費は委託料が主で年間約200万円。
利用者からは、「自分で入力しなくても、自治体から健診結果の情報が提供されるのは便利」「申し込みにマイナンバーカードを使うことでセキュリティに不安がない」「休祝日にはトップ画面に本日の休日当番医が表示されるので助かる」「夫が予防接種の日にちを気にしてくれるようになった」といった声が寄せられ、好評を得ているとされる。
こうした母子健康保険情報サービスは、群馬県内の沼田市・渋川市・藤岡市・富岡市をはじめ、福島県会津若松市、静岡県焼津市、宮崎県都城市、千葉県浦安市など、全国への展開が広がっているとされる。
マイナンバーカードの多目的利用…地域経済応援ポイント制度、でまんど相乗りタクシー「マイタク」へ
マイナンバーカードの多目的利用・普及促進が様々な分野で取り組まれている。
一つは、H30年1月から、前橋市でまんど相乗りタクシー(マイタク)制度における利用登録証及び利用券の機能への導入。
マイタク制度は、移動困難者を対象にタクシー運賃を補助する市独自のサービスで、登録者が複数でタクシー乗車の場合は一人1乗車につき最大500円、単独で乗車した場合は運賃の半額で上限1000円までを補助する仕組み、1人1日2回、1人年間120回まで利用できる。全国でも注目される取り組みの一つだ。
マイナンバーカードを利用証及び利用券として活用し、利用者はタクシー内車載タブレットにマイナンバーカードをかざすだけで「マイタク制度」を利用できる。
今年5月から本格運用に移行し、6月までに1642件の申し込み状況だそうだ。
二つは、H29年9月から総務省がスタートさせた「地域経済応援ポイント制度」への参加である。
マイナンバーカードを活用しマイキーIDの設定により利用できる仕組みである。
地域経済ポイントは、各種クレジットカード会社や携帯電話会社・電力会社のポイント、航空会社のマイルなどを自治体で使えるポイントに移行・合算できるもので、「自治体ポイント」に姿を変えた地域経済応援ポイントが、その地域内の美術館や博物館などの公共施設や商店街の買い物に利用できるため、眠っていたポイントが動き出すことで地域経済の活性化が期待されるとされている。
課題はマイナンバーカードの普及
前橋市におけるマイナンバーカードの普及率は10.5%。全国平均は11.3%で、宮崎県都城市の20%を目指しているとする。
市民のマイナンバーカード取得を促進するため、郵便局と連携し市内46か所の郵便局に申請端末を設置し、局員による申請操作の支援を行う仕組みを構築するほか、市役所1階ロビーでのマイナンバーカード手続き総合カウンターを開設している。
とはいえ、マイナンバーカードの普及は大きな課題といえよう。
国は、公的サービスにおけるマイナンバーカードの活用分野を拡大し、カードの普及を図ることに躍起となっているが、セキュリティをはじめとする安全性への疑念が大きな壁となり、普及は進んでいない。
私自身、マイナンバー制度には国による個人情報の管理の危うさという観点から懐疑的である。
マイナンバーとマイナンバーカードの違いを強調
前橋市の担当者からは、マイナンバーとマイナンバーカードの違いについて強調された。
確かにマイナンバーとマイナンバーカードは利用目的が基本的に異なっているのだが、マスコミ等でも二つのことが混同されて報じられている例はかなりある。
マイナンバー(12桁の個人番号)は、マイナンバー法により税・社会保障・災害対策の特定事務に限定して利用されることになっている。
一方、マイナンバーカード(個人番号カード)は、個人の申請により交付される顔写真入りのプラスチック製カードで、マイナンバーと本人確認をカード1枚で行うことができる。裏面のICチップ内には電子的に個人を認証する機能(電子証明書)を搭載していて、電子証明書の利用にはマイナンバーを使用しないため、民間事業者を含め様々な用途に利用可能となる。
つまり、マイナンバーカードの活用とはマイナンバーを使うことではないということだ。マイナンバーカードの活用により市民サービスの向上、まちの魅力アップにつなげたいというのが、前橋市の担当者が力説された点である。
カード裏面にマイナンバーの記載はあるものの、カードの内蔵ICチップに搭載された公的個人認証(JPKI)を利用する場合、マイナンバーそのものは利用しないとされる。JPKIは民間企業が既存のIDやパスワードの組み合わせよりも安全で強力な本人確認の手段として使えるとし、マイナンバーカードを使うという場合は、一般にJPKIを使うことを指すとされる。
違いが分かってもカード普及が進むか
自治体におけるマイナンバーカードの活用という施策分野の一端を知る機会を得たことは、マイナンバーカードの是非を横においても、成果ではある。魅力を全く感じないわけではないが、個人の特定情報をはじめ、民間サービスの利用の拡大に伴う個人認証及び個人情報のセキュリティの確立は今なお課題であると考えるものである。
国は、個人認証にマイナンバーは紐づけされていないとするのだが、すべての情報の一元管理が進めば芋づる式に個人情報がつながってしまうリスクが残るし、万全のセキュリティを強調するが、その保証はないともいえる。
前橋市の取り組みは、ICTの活用推進事業の中にマイナンバーカードの活用を位置付けている点が特徴といえよう。
利便性ある市民サービスの展開という利点の一方、その普及率故に公平な市民サービスの提供という点では課題を残しているのではないかと考える。
スマホが暮らしの中に絵ける重要な情報ツールとなっている今日、スマホを使った母子健康情報サービスの展開という点では大いに参考になる施策である。
マイナンバーカードによる公的個人認証の活用は、慎重に見極めたいと考える。