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06年9月19日
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06年9月議会の焦点・論点(その3) 犀川浄水場の民間委託問題

犀川浄水場の民間委託、水の安全は大丈夫か


 犀川浄水場の運転管理業務を民間委託する議案は、第107号で水道事業会計の補正予算として3年間で1億5千万円(年間5千万円)の債務負担行為を設定する議案として提案されています。

*債務負担行為とは?国・地方自治体の会計は「単年度会計」のため、1年限りで歳入・歳出を定めることが原則です。この原則の例外として、数年度にわたる歳出を事前に認める制度が債務負担行為です。債務負担行為には議会の承認が必要となります。

 
 
本会議で直営維持を求める

 本会議では、市民ネットの私の他、2人(市民ネット・池田議員、共産党・小林議員)がこの問題を取り上げました。質問の内容と答弁の趣旨は後述。保守系の議員の皆さんは一般質問では取り上げませんでした。

 委員会で「継続審査」を提案、賛成少数で否決に

 この議案は、私が所属する建設企業委員会に付託、14日に審議されました。最終的には公営企業管理者を兼務する市長を、議案の説明員として出席要請し、市長の「議会における貴重な意見は真摯に受け止め、安全・安心を第一に取り組む。今回は全面的な委託ではなく、当面、浄水場の一部を委託するもの、委託業者には水道技術管理者の常駐と水道施設管理技師の資格を持った職員配置を求めていく。こられにより水の安全は現在の同等以上に保つことができる」とする答弁を経て採決となり、賛成多数(賛成7・反対3)で可決しました。私は、水の安全に関わる市民への説明不足や水道局内における職員の皆さんとの合意形成など、もっと時間をかけて審議すべきと「継続審査」を提案、また水道局現場の声を委員会として把握するため、参考人として市民への署名に取り組んだ「市水道労組」の委員長を呼ぶことも提案しましたが、いずれも賛成少数で実りませんでした。最後の採決では、この議案に反対しました。20日の本会議では残念ながら賛成多数で可決される見通しとなっています。

 異例の市長の委員会出席…市長の弁で安全を担保か
 委員会に市長の出席を求めることは長野市議会では異例のことらしいです。市長の弁をもって安全を担保した格好です。本会議でのやり取り、委員会審議を通じての論点・問題点を整理してみました。皆さんのご意見をいただきたいと思います。



1.本会議のやり取りから


■質問の主旨(9月8日)…コスト削減で安全が切り捨てられる恐れ、直営維持を

(1)水道事業はあくまでも公営が基本。水は命を支える必要不可欠な資源であり、安全でおいしい水をより安く豊富に供給することが水道事業の使命である。しかも、運転管理業務は水道事業の中枢であり生命線。安全な水と技能の継承は、長い経験とノウハウが蓄積されている水道局の職員・プロの仕事によって担保されている。委託担当さえ配置すれば大丈夫、事足りるとは到底思えない。

(2)今回の提案は、「直営でいかに工夫改善するのか」といった基本的な検証がないまま、しかも市民の声を聞くこともないまま、余りにも拙速、性急になされている。少なくとも補正予算で提案すべきものではない。効率の名のもとに『安全』が切り捨てられてはならない。したがって、水道局職員・プロの仕事による直営を維持することを求める。現場からも「果たして安全が守れるのか」との不安の声が上がっていると聞く。少なくとも議案を取り下げ、再検討することを強く求める。懸命な判断を示すべき。


■水道局長の答弁主旨…「民間委託は業務の一部だから安全」

(1)水道事業の経営を取り巻く環境は、市民の節水意識の定着、経済情勢による企業のコスト削減などにより、水道の使用水量はH9年度をピークに年々減少。水道料金から見ると、旧豊野町水道事業の統合による影響分を除いて、H17年度ではH9年度に比べ約5億円の減収。施設や設備の更新などを計画的に実施し、安全で利用質な水を安定供給していかなければならない。そのためには、行政改革大綱に沿って事務事業全般の見直し、民間委託の推進、職員定数の削減などを実施しながら、更なる経営の効率化を図っていきたい。

(2)犀川浄水場・管理運営業務の一部である浄水システムの運転管理業務を来年4月から民間に委託するのは、経営の効率化の一環である。今回の委託は浄水場管理運営の一部である運転管理業務だけを委託するものであり、十分な引継ぎ、指導を実施して、新たに委託担当1名を配置し万全を期す。また安全面に一層配慮して、現在の水道局職員と同等以上の技能、経験、ノウハウを持っていること、さらに「水道技術管理者」の資格を持った職員が常駐できることなどを条件として委託先を決定するものである。

(3)いずれにしても、水の安全を第一に考えながら、経営の効率化を進め、市民に安全で良質な水を安定供給していく。


■「コスト削減ありき、安全は二の次」が明らかに

 答弁を聞いて議論がかみ合っていないと率直に思いましたが、はっきりした事は、経営の効率化の一環=コスト削減が第一で、「浄水場管理運営の一部の委託だから安全」という「コスト削減ありき、安全は二の次」という重大問題をはらんでいることです。なぜなら、本会議の答弁からは見えない問題が隠されているからです。一つは委託担当職員の配置を「3人」から「1人」に減らし、初年度からコスト削減できるとする提案にいつの間にか変更されたこと、二つに「当面、一部の委託」(市長の弁)であり、将来的には浄水場の全面的な民間委託が検討されているということです。


2.問題点を検証

問題点1=提案の骨格が変更、場当たり的な検討で安全が後回し

 議会は8月4日に、浄水場運転管理業務の民間委託の議案の説明を受けた。この時には、運転管理業務の「一部」とは説明されていない。さらに、初めての委託であり「業務の指導監督のほか、委託内容の検証などを行う職員の配置が必要なこと」から、水道局職員と同等以上の技能・技術・ノウハウを持つ委託業者であることを前提にしても、委託担当は19年度=3人、20年度・21年度は2人体制とする。3年間は約2千万円のコスト増だが安全性の確保のためには止むを得ないとされていた。しかし、本会議ではいつの間にか「初年度から1人体制」とすることで年間1千万円のコスト削減と答弁されたことだ。提案そのものの骨格が変更されたのである。議案説明から1ヶ月の間で「精査した結果」とされるが、では当初案は精査された案ではなかったということなる。いかにも場当たり的な提案であり、「3人または2人で安全を守ることができ、ノウハウを継承できる」とされたことが「1人で十分」になったプロセスは、コスト削減だけが目的で、安全性の確保への認識が根本的に欠落しているといえよう。このことは委員会の審議でも明らかになっている。14日の建設企業委員会の冒頭の議案の説明では「職員の削減、民間委託を促進しコスト削減を図ることが目的」と強調され、「安全」の「あ」の字もない説明になっていること、さらには「運転管理業務委託の範囲は犀川浄水場の他、川合新田水源、松ヶ丘配水池の2施設」と委託の範囲が変更・拡大されたこと、「初年度は指導期間を設けるため経費の削減は少ないが2年目以降は年間1000万円程度の経費削減」とされたことなど、二転三転の提案となっている点である。これでは「安全軽視」の不安は拭い去ることができない。


問題点2=浄水場の仕事は水質の管理や施設の維持・点検などチームワークで
      一体化。「一部だから安全」は詭弁。

 運転管理業務の民間委託が、答弁では「運転管理業務の一部の民間委託」と表現されているが、現実的には、浄水機器の監視、水質の監視、施設の維持管理は電気技師や水質検査担当、中央操作室でデータを管理する職員、それぞれのチームワークで成り立っている。「一部」と表現し「事を小さくしよう」との企ては、浄水場の運転管理に関しては、余りに詭弁である。

委員会審議の前日の13日に個人的に浄水場を視察した。中央操作室におけるデータ管理と3時間に1回の施設内巡回点検が委託される業務内容とされている。確かに中央操作室の機器はオートメーション化されているとはいえ、水質管理と直結しており、監視カメラのモニター確認、あるいは3時間に1回の巡回点検など、最後は人間の判断によっていること、すなわち経験に基づくノウハウが生きていることを痛感した。
 とくに犀川浄水場は、犀川からの取水が9割。上流に5つの発電ダムを持ち、放流の度に濁度が異なり、日常的な監視と対応が必要となっている。まさに犀川流域特有の安全確保の経験と経験に基づく判断が、安全な水を守る鍵となっている。こうした技術・ノウハウは短時間で継承できるのか、一般的な危機管理マニュアルだけで対応できるのか、疑問は深まるばかりである。

 さらに、委託業者に水道技術管理者を常駐させるとの事であるが、休日・夜間の体制はどうなるのかということも明らかにはなっていないのである。1人配置される委託担当職員の責任が過重となるのではとの心配もある。
写真は犀川浄水場・中央操作室(上)、水質管理室(下)


問題点3=浄水場の管理運営全体を第三者委託する突破口に

 水道局長は「一部の民間委託だから安全、ご理解を」と繰り返すだけだが、問題は、そういいつつ、「民間委託のガイドライン」として「運転・保守管理委託」から「包括委託」への段階的な移行を示している点だ。市長が「今回の委託は全面的な委託ではなく、当面、一部を委託するもの」と合致する。「当面」が曲者といえよう。「一部だから安全、ご理解を」との論理はまったくの詭弁である。今回の民間委託は浄水場の全面包括委託への突破口であることが、明確に示されていないのである。市水道局ではH20年度までに安全・安心・安定の水道水の供給事業のビジョンとして「地域水道ビジョン」の策定に着手している。であるならば、この「地域水道ビジョン」の策定過程で、水道事業のあり方=直営なのか、民間委託なのかについて根本的に検討されるべき課題であろう。将来のあり方を隠し、当面の対応で、しかも場当たり的な対応で議会の承認を得ようとする姿勢こそが問われている。


問題点4=決定的に不足している市民への説明責任

 一番の問題は水道水の安全に関わる重大な問題であるにもかかわらず、市民にはまったく知らされていないことである。市水道労働組合の皆さんと一緒に街頭署名を求める活動に参加したが、市民の皆さんは一様に「えっ!大丈夫なの」と驚き不安の声をあげている。水は不可欠なライフライン。保育園の民営化、学校給食センターの民間委託の問題など、市民への説明責任が問われたと思うが、この経験が生かされていないといわなければならない。民営化・民間委託はコスト削減だけが目的ではない。市民サービスの向上が不可欠である。浄水場の民間委託で、どのように市民サービスが向上されるのか、命に関わることだけに、十分な市民への説明責任が問われるのである。

しかも、水道局の中で十分な労使協議を経て提案されているのかということもはなはだ疑問である。職員の皆さんは民間委託により配転となるが、安全な水の供給に誇りと自負をもちながら変則2交代・24時間・365日、いわばきつい仕事をお願いしているのである。そうした水道水のプロである職員の皆さんとの間で「安全な水の確保」について十分な「職員間の合意」がなされていないのだ。だからこそ、短い期間とはいえ、2772筆の反対署名が議長・市長宛に提出されることになっているのではないか。水道局内部における合意形成とともに、市民に対する合意形成が必要であり、より十分な時間をかける必要がある。将来的に全面包括委託を考えているのであればなおさらである。


私自身は、指定管理者を含め民間委託すべてがダメだとのスタンスには立っていません。しかし、埼玉県ふじみ野市のプール事故をあげるまでもなく、民間委託業者による安全性への認識が極めて希薄になっているが故の事故が相次いでいる危ない状況があるからこそ、とりわけ命の支えとなる「水」に関する民間委託には強い不安が残ります。将来に禍根を残さない対応をしなければならないと考えています。



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