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08年1月7日記
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アルピコグループ「経営不振」の激震…公共交通、暮らしの危機に直面

 
 12月25日、松本電鉄(松本市)を中核とするアルピコグループが、約182億円の債務超過に陥り、取引金融機関に債権放棄を含む再生支援要請を行ったことが明らかになりました。「私的整理に関するガイドライン」に沿った事業再生とは言いますが、事実上の「倒産」であり、破たん処理に他なりません。

 29日には飯田市に本拠を置く信南交通が、路線バスの直営からの撤退、運行主体の自治体への移管を表明し、一挙に県内公共交通網の危機が浮上してきました。
  

 今回のアルピコ再建問題は、長野市民にとっては、「生活の足」である川中島バスをはじめ、市民の台所を支えるスーパー・アップルランドなどが対象となります。生活の危機、公共交通の危機に直面する激震ともいうべき大問題です。

 私は26日に、川中島バスの青柳社長と一緒に市長に面談、経過報告するとともに「市民の足を守るため、公共交通インフラが縮小されないよう力を尽くす」ことを表明、市長は「公共交通の再生は長野市が抱える大きなテーマ。事業の再生にしっかり取り組んでもらいたい。この危機を最大のチャンスととらえ、市行政としてもしっかりと取り組んでいきたい」と述べました。また28日には、市長に「市民の皆さんにバス公共交通を利用しようとのメッセージを機会あるごとに発信してもらいたい」と要請もしてきました。

 川中島バスに籍を置く一人として、市民の皆さんに大変申し訳なく思うとともに、危機感をもって、市民の足と暮らしを守るために力を尽くしたいと思います。
(写真は、市民の重要な足であるアルピコ川中島バス、アップルランド・デリシア安茂里店の様子)

■182億円の債務超過、152億円の債務免除を求め企業再建へ

 報道等によれば、昨年9月にグループ企業の連結決算をしたところ、グループ26社のうち松本電気鉄道や川中島バス、アップルランドなど19社で182億円の債務超過に陥っていることが判明、「自助努力では返済できない」(滝沢徹・松本電鉄社長)と判断し、メインバンクである八十二銀行をはじめとする取引金融機関8行に対し、事業の再生に向け支援を要請。会社更生法や民事再生法など法的な整理ではなく、金融機関との債務整理を柱とする私的整理で会社再生を図ろうとするもので、1月8日に開かれる第1回債権者会議で事業再生計画が検討され、3月中の第2回債権者会議ですべての金融機関の同意のもとに、再生計画が動き始めることになります。グループ経営陣トップは更迭され、銀行団を代表する八十二銀行と投資会社リサ・パートナーズが経営に乗り出すことになります。

【私的整理に関するガイドライン】このガイドラインが想定している企業の再建は、会社更生法や民事再生法などの手続によるのが本来であるが、これらの手続によったのでは事業価値が著しく毀損されて再建に支障が生じるおそれがあり、私的整理によった方が債権者と債務者双方にとって経済的に合理性がある場合のみ、このガイドラインによる私的整理が限定的に行われる。債権者と債務者の合意に基づき、債務(主として金融債務)について猶予・減免などをすることにより、経営困難な状況にある企業を再建するためのものであって、多数の金融機関等が後述の主要債権者又は対象債権者として関わることを前提とするものであり、私的整理の全部を対象としていない限定的なものとされている。また、このガイドラインによる私的整理は、債権者に債務の猶予・減免などの協力を求める前提として、債務者企業自身が再建のための自助努力をすることはもとより、その経営責任を明確にして、株主(特に支配株主が存在する場合にはその支配株主)が最大限の責任を果たすことを予定している。対象企業が債権放棄を受けるには、事業再生計画に、3年以内の実質的債務超過の解消や経常利益の黒字化、経営者の原則退任といった基準を盛り込む必要がある。全国銀行協会などが2001年にまとめたもの。衣料メーカーの市田(東京)に初適用され、ハザマや西武百貨店もガイドラインに沿った支援を受けている。


■アルピコグループの事業再生計画の骨子(信濃毎日新聞より
(1)約610億円の有利子負債のうち、8金融機関に152億円の債権放棄を要請。メインの八十二銀行は85億円の債務を放棄、30億円の債務を株式化する。
(2)減資後、八十二銀行とリサ・パートナーズ(東京)などに総額50億円程度の増資引き受けを依頼する。
(3)持ち株会社を設立し、グループ全体として経営戦略を立案する。
(4)主要事業の交通事業は不採算路線を見直し、関連会社を統合する。
(5)小売事業は不採算店舗を閉鎖、既存店舗を改装する。
(6)松電本社の常勤役員は、4月上旬の臨時株主総会で退任する。
(7)3年以内に債務超過を解消し、経常利益を黒字とする。


■企業統治の欠落…経営責任、企業としての社会的責任問われる

暮らしに密着する企業体であることから、市民の暮らしや地域経済への影響を考えれば、法的な整理を避けて私的整理という手法で経営を再建する道はやむを得ないと思いますが、経営陣の放漫経営ともいうべき責任は非常に重いと言わざるをえません。残念ながら、報道機関等が指摘するように、グループ企業を束ねて全体で経営していくガバナンス(企業統治)の視点が欠落していたといえるでしょう。

雇用問題も非常に心配なところです。グループ全体の従業員はパートも含めて約6000人、家族も含めれば2万人を超える人々の暮らしを直撃する問題ともなります。

滝沢徹・グループ代表は、「人員整理はしない。公共交通事業では利用客に不便をかけないよう対処する」と発言していますが、このことが新しい経営陣にもしっかりと引き継がれることが、企業体としての社会的責任です。

■労働組合も雇用堅持で動き出す

 グループの中には、5つの産別労働組合が存在し、グールプに対応して「アルピコ労連」が組織されています。交通事業分野は私鉄総連、アップルランドは全繊同盟、自動車学校は全国一般といった具合で、しかも労働組合が組織されていない企業もあります。

 アルピコ労連では12月28日に1回目の団体交渉をもち、29日には私鉄県連内に「アルピコ対策委員会」がつくられました。

 職場の中では「働き続けられるのだろうか、退職金は支払われるのだろうか」との不安が広がり始めています。だからこそ、労働組合として、①雇用を守る ②賃金・労働条件を守る ③労働協約を堅持させる ④公共交通インフラ、住民の足を守る ⑤徹底した情報開示を求めることなどを基本に、危機感をもってしっかりと対応していくことも求められています。

■厳しい再建の道のり、市民生活への影響を最小に

 新しく経営に直接乗り出すことになる八十二銀行にしてみれば、多額の債権を放棄して臨む企業再建となります。また支援する投資会社リサ・パートナーズは、ホテルや観光部門では企業再建の実績をもっているものの、公共交通事業の再建は初めてといいます。3年間で債務超過を解消し黒字経営に転換させるために、徹底した効率化・合理化を図るであろうことは明らかです。

 明日1月8日に開かれる第1回債権者会議で、アルピコがまとめた「事業再生計画」の全容が判明することになりますが、極めて厳しい内容となることが予想されます。

 地域の公共交通は、その地域の経済社会活動の基盤です。すなわち都市のインフラであり、公共財なのです。少子高齢化・人口減少時代の到来、地方分権、地域の自立・活性化、地球温暖化をはじめとする環境問題などへの対応を考えたとき、地域公共交通の活性化・再生は喫緊の課題となっています。

都市インフラ、公共財としての公共交通を整備することは、行政・自治体の大きな責任です。同時に、市民と事業者が当事者意識をもち主体的に役割分担、財源分担していくことも不可欠です。

こうした視点から、アルピコの再建、川バスの再生が進むことを望まずにはいられません。

 川バスの不採算路線は維持されるのか。市内に5店舗あるアップルランドは継続されるのか。暮らしに直結する課題だけに、グループ本体・松電の動きを注視し、川バスの労使と連携しながら、また市行政とも連携して、暮らしを直撃しないようしっかりと取り組みたいと思います。


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