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08年1月10日記
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新テロ特措法案=参議院否決、衆議院再議決へ…問題点を考える


 福田内閣が今国会の最重要法案と位置づけている新テロ特措法案(補給支援特別措置法)は、明日11日の参議院本会議で否決されることから、与党は衆議院本会議で再議決し、3分の2以上の賛成で可決することになりました。
 一旦は勝手に「継続審議」を決め、社民党など他の野党からの反対で方針転換した民主党の「ブレ」は、野党共闘を進めていく上で民主党の危うさを浮き彫りにしました。ともあれ「反対・否決」でまとまったことは良としたいと思います。
 しかし、成立する新テロ法は、補給支援活動に限定したとはいえ、米国の先制攻撃・武力支配に協力し、戦争に加担することに他なりません。武力ではなく、民生支援による平和秩序の構築を、私たちは世界に先駆けて率先すべきであると考えます。
 国民世論は新テロ法案に反対が賛成を上回っています。再議決で法案成立強硬は民意を裏切るものといわなければなりません。新テロ特措法の問題点・危険性を考えてみました。

■民意は新テロ法案反対にあり
 この間の新聞世論調査では、毎日新聞で新テロ法案に「反対」が50%。「賛成」が41%。日経新聞では「反対」が44%、「賛成」が39%などと、いずれも反対が賛成を上回っています。憲法第9条の原点に立ち返り、日本という国の国際協力のあり方を抜本的に見直すときなのです。私は、衆議院再議決・法案成立強行に異議あり!の声を大にして訴えます。

■文民統制逸脱する国会承認の削除

テロ特措法(旧)では、海上自衛隊の活動は①協力支援活動(燃料・水などの補給)、②捜索救助活動、③被災民救援活動――の3つでしたが、新テロ特措法では補給支援活動の1つになりました。また自衛隊の行動地域が、インド洋に限定されました。しかしこれらは、活動実態にあわせて条文を変えたのであり、自衛隊の活動が制限されたわけではありません。

より重要な問題は、国会承認が無くなったことです。テロ特措法(旧)では、自衛隊が活動を開始した日から20日以内に国会で承認を得ること、国会が承認しない場合は活動を終了させることを定めていました。ところが新テロ特措法案からは、国会承認が削除されたのです。

 ではなぜ新テロ特措法案からは、国会承認が削除されてしまったのでしょうか。与党が多数の衆議院では新テロ特措法が可決しましたが、野党が多数の参議院では否決される見通しです。その際に与党は衆議院での再可決によって、法案を成立させようとしています。

ところが国会承認には、衆議院での再可決という制度がありません。野党が多数の参議院で海上自衛隊のインド洋派遣を承認しなければ、自衛隊は撤退しなければならないからです。

 自衛隊法を始め、PKO法・周辺事態法・イラク特措法など、自衛隊が出動する法律は全て、国会承認を必要事項にしています。自衛隊が出動する際の国会承認は、自民党の側が作ってきたシビリアン・コントロールの原則でした。しかしそれを今回は、党利党略で削除してしまったのです。このままでは参議院は、自衛隊に対するシビリアン・コントロールを行うことができなくなるのです。

●海上自衛隊補給艦「ときわ」。イラク戦争に参加する米空母「キティーホーク」に対して、違法な燃料補給を行ったが、その詳細は「防衛機密」の中。(海上自衛隊のHPより)








   ★海上自衛隊の活動実績★

    出動した艦船 補給艦1 9 隻・護衛艦4 0 隻(延べ)

    燃料補給回数 7 94 回(約4 9. 3 万kl)

    補給対象   1 1 カ国

    燃料の総額  約2 2 5 億円

    負担総額   約6 0 0 億円


■私たちにできること
 アフガニスタンは今年も旱魃で、大凶作を向かえそうだとのことです。また首都カブールには、戦争被災民が集中しているそうです。いまのアフガニスタンに必要なことは、緊急的な食料・医療の支援、灌漑用水の建設や農業援助です。こうした支援は、NGOの手に担われています。そのNGOの人々は、支援拡大のためには米軍の撤退が必要であること、米軍による戦闘が激化すれば外国人NGOも人々から敵対的に見られるようになることを訴えています。私たちがすべきことは、まず新テロ特措法を止めることです。次に、日本政府が米軍に注いできた予算を、食料・医療・農業援助に向けさせることです。そうした上で、和解のテーブル作りのために、国際社会を動かすことです。


★政府に抗議の声を

 新テロ特措法を強行成立させ、自衛隊による米軍支援を行おうとする日本政府に、抗議の声を送りましょう。住所・FAX・メールアドレスは、以下の通りです。


  ●内閣総理大臣 福田康夫 様

    〒100-0014  東京都千代田区永田町2-3-1 総理大臣官邸

    FAX   03-3581-3883

    Eメール  首相官邸HP www.kantei.go.jp/ にアクセスし、「ご意見募集」に記入。

  ●外務大臣 高村正彦 様

    〒100-8919  東京都千代田区霞ヶ関2-2-1 外務省

    FAX   03-5501-8430

    Eメール  外務省HP www.mofa.go.jp/mofaj/ アクセスし「各種手続き・ご意見」に記入。

  ●防衛大臣 石破 茂 様

    〒162-8801  東京都新宿区市谷本村町5-1 防衛省

    FAX   03-5269-3270  

    Eメール  infomod@mod.go.jp


■重大問題1 燃料はイラク戦争に転用された

横須賀を母港とする空母キティーホークは、03 年3月に始まったイラク侵攻に参加し、5月に帰港しました。帰港時の記者会見で、「海上自衛隊から補給は受けたか?」と質問されたキティーホークの司令官は、「海上自衛隊から米海軍の補給艦を経由し間接的に約80万ガロンの燃料補給を受けた」と答えました。テロ特措法は海上自衛隊による補給の対象を、アフガニスタンでの「不朽の自由作戦(OEF)」に参加する艦船に限っています。キティーホークがイラク作戦に参加していれば、自衛隊は、違法は補給を行っていたことになるのです。

この問題は国会でも取り上げられました。しかし当時の小泉政権は、①間接補給した燃料は20 万ガロンでキティーホークの1日の消費量、②間接補給を受けた当時のキティーホークはOEFに参加していた―を理由に、テロ特措法の違反はないとしたのです。

ところが07年9月、市民団体ピース・デポが米海軍の航海日誌を調査し、①間接的に給油された燃料は20万ガロンではなく80万ガロン、②当時のキティーホークは対イラク「南方監視作戦(OSW)」に参加しおり、対アフガニスタン「不朽の自由作戦(OIF)」には参加していない――などを明らかにしました。

政府はピース・デポの調査と野党の追及を受け、間接補給した燃料は80 万ガロンだったが、事務手続きのミスで20 万ガロンと報告されていたことを認めました。しかし、キティーホークが対イラク作戦に従事していたことは証拠が出てきた後も認めていません。


■重大問題2 航海日誌の隠ぺい
  野党は、防衛省に、海上自衛隊補給艦ときわの航海日誌の開示を求めました。しかし、ときわの航海日誌は、廃棄されていました。海上自衛隊の内規では、航海日誌は艦内1年・陸上3年・計4年保管することになっていますが、この時点では保存期間を過ぎていたのです。ところが野党の厳しい追及に、防衛省は、航海日誌のうち、各所に黒塗りがある1ページだけ公開したのです。

衆議院予算委員会で石破茂防衛大臣は「隠ぺいとか、かくしていたとか、それは一切ない」と答弁しました。しかし、廃棄されているはずの航海日誌が、追及によって出てくるのは、隠していたとしか考えられません。またその後の調査で、やはりインド洋に派遣されていた補給艦とわだの航海日誌が保存期間内に廃棄されていたこと、保存期間内の廃棄は他艦船でも起きていたこと、海上自衛隊艦船のうち250隻で航海日誌保管内規が守られていないこと――が明らかになりました。

海上自衛隊のインド洋派遣は、戦後の日本が初めて参加した戦争です。戦争はいまも続いています。戦争に参加した艦船の航海日誌が廃棄されているなど、考えられません。航海日誌が廃棄されているとすると、自衛隊も防衛省も、戦争が終わった後に戦争の中身を検証することすらできなくなるからです。
  ●防衛省が公開した「黒塗り」の資料。

■重大問題3 制服組の情報隠し
 海上自衛隊は、補給艦ときわから米海軍の補給艦ペコスに給油した量が、80万ガロンであるとを認めました。しかし意図的な隠ぺいではなく、給油量をパソコンに入力する際のミスというのです。

問題は、その後の自衛隊の対応です。海上幕僚監部では、80 万ガロンが20 万ガロンと誤って報告されたことを認識しながら、幹部自衛官の判断で、政府に報告しなかったのです。そのために政府は、「給油量は20 万ガロン」を前提に、20万ガロンは1日の消費量であり、ペルシャ湾まで行けない―イラク戦に参加していないと言い訳を考えたのです。 

海上自衛隊が、現場判断でキティーホークに燃料補給したこと、補給量の数値が間違っているにもかかわらず政府に報告しなかったことは、文民統制を覆す一大事件です。

●イラク爆撃準備中の米空母キティーホーク。(0 3 年3 月2 0 日)(米海軍のHPより)



■重大問題4 防衛省と商社のゆ着

防衛省は、米同盟軍の艦船に提供した燃料を、「元売り」から、商社「A社」「B社」の2社を通して購入していました。燃料の総額は225 億円にも上る取引ですが、「A社」「B社」の2社が独占していたのです。野党は国会質問で、「非常に高収益の商取引。為替で手数料を取り、原油の売買で利益を取る。合計は平均で5.5%と言われ、300億円で5.5%、16億円の利益が出ている。この取引になぜ2社しか応募しないのか、非常におかしい」と述べて、契約の背景にある防衛省と商社との関係を追及しました。

また野党は独自の調査から、「元売り」は米国政府の軍事関連機関「DESC(国防エネルギー支援センター)」ではないかと指摘しました。「DESC」のホームページの顧客リストに日本政府の口座が3件掲載されており、その一つがテロ特措法施行後に開設された「OEF(不朽の自由作戦)」という名称の口座だったからです。

国会議論の中で野党は、「元売り」「A社」「B社」の名前を明らかにするように求めましたが、防衛省は「公になることにより正当な利益を害する恐れがある」という理由で、明らかにしていません。
  ●アフガンではいまも戦争が続く。(0 7 年8 月)(米国防総省のHPより)


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