視察2日目、11月12日は旭川市を訪問。北海道旭川市は、道のほぼ中央部、大雪山連峰を源とする石狩川など4河川が市内を貫流、丘陵に囲まれた上川盆地の中心に位置する。面積747.6?、人口353,289人の中核市。札幌市に次ぐ道内2位の人口を有する北北海道の拠点都市。動物の自然な生態が見られる行動展示方式を導入し一躍有名となった旭山動物園で知られる。
視察目的は、地域公共交通活性化再生法の施行に先立ち、2008年(H20)6月に策定されたバス交通活性化計画を中心とするバス公共交通の活性化についてである。総合政策部まちづくり推進課、品田幸利課長補佐から説明を受ける。【写真右は手前が市役所、奥に市民文化会館】
2事業者による生活バス路線の運行、利用促進が喫緊の課題
旭川市における路線バスの輸送人員は、S42年度を100(約5,000万人)とした場合、H18年度では32(約1,600万人)と約3分の1にまで減少し、マイカー利用の増大によるバス交通の利用減⇒バス減便・路線廃止⇒さらなる利用者減という全国共通の「負のスパイラル」に陥る中、都市機能全体のレベルダウンを防ぐ観点から、H20年6月に「バス交通活性化計画」を策定、H21年3月には「活性化計画」を推進するために「アクションプラン」(H20~H27)を策定し、バスの利用促進を図っている。
旭川市内のバス事業者は、旭川電気軌道㈱と道北バス㈱の2事業者で、地域生活の足を担う。H18年度でのそれぞれの輸送人員は旭川電気鉄道が約1000万人、道北バスが約600万人。長野市の2事業者体制とほぼ同様である。【写真左が旭川電気鉄道、右が道北バス】
バス交通活性化計画とアクションプランの概要(全体像は別掲の資料を参照)
《バス交通活性化計画》では、目標を「地域の誰もが利用できる移動手段の確保」「利便性向上による利用促進」「環境への負荷を軽減」の三つに設定し、9の課題のもとに具体的な施策を位置づける。
主なものは次の通り。
?運行サービスの改善…利用者本位のダイヤ設定とパターンダイヤの実施/運行時間帯の拡大/市内路線でのフリー乗降
?利用しやすい路線の新設・再編…環状路線を検討中
?利用しやすい料金・乗車券…乗継割引・共通乗車券/非接触ICカード乗車券/学生サービス定期/ゾーン制運賃の導入/バス料金の買い物割引
?バリアフリー化の推進…低床車両の導入
?バス待ち環境の改善…シェルターやベンチ設置/店舗一体型バス停の新設/携帯電話等での情報伝達
?乗降・乗り継ぎ利便の向上…バス停除雪・排雪の向上/サイクル&バスライド
?わかりやすい情報提供…共通バスマップ/バス運行情報の提供
?バス走行環境の整備…優先レーン・専用レーンの設置/バス路線の優先除雪
?意識啓発や教育・キャンペーン
《アクションプラン》ではH20~23年度を期間とする前期の目標を設定し、4つのプランを位置づけ。
?市内全路線バスマップの配布…H21年に「くる~りバスマップ」を作成、全戸配布
?サイクル&バスライド…H21年は歩道に自転車ラックを設置するモデル事業、H22年は店舗の一部や市有施設を利用し5か所に設置
?バス利用者への買い物割引・助成制度…他都市等の調査・関係団体との意見交換
?効果的な啓発事業の展開推進…バスの日イベント、バスの無料乗車(小学生以下)
課題や具体的な施策は、「長野市バス交通再生プラン」と共通するものが多いが、全体的な進捗度としては「これから」といった印象が強い。公共交通への利用転換を促すインセンティブとして「買物割引・助成制度」は関心を持っていた施策の一つだが、「なかなかうまく進まず」とのこと、バスマップはわかりづらいとの意見が多く改訂版を検討中だ。
運行サービスの改善や路線新設等は、基本的にバス事業者による自助努力で取り組まれているようで、旭川駅の高架化と駅南の忠別橋への橋の新設に伴い、路線等の再編の検討に着手する考えのようだ。交通空白地域への対応等、バスによる公共交通ネットワークづくりは、今後の課題とされている。
ICカード乗車券は事業者により部分的に導入
道北バスがH11年11月から「Doカード」という」非接触ICバスカードを北海道で初めて導入、H12年3月からは定期券にも導入している。
チャージ式のカードで、1000円から13000円の範囲でチャージする。一般Doカードは1000円で1100円分、5000円で5800円分、10000円で12000円分の利用が可能となる。また、回数券のプリペイドカード=「My card」(カードリーダーを使用)が発行されている。
一方、旭川電気軌道は、専門店会発行のクレジットカードによるポストペイ(後払い)方式の「シャトルカード」(バス専用カード)をH3年4月に導入。乗車時と降車時にカードリーダーを通す仕組みで、全国的には珍しいシステムを採用している。
バス事業者に基礎体力が温存されていた時代で導入されたものと思われる。双方のシステムに互換性はなく、共通カード化は将来的な課題となっている。
ICカード乗車券は、長野市バス交通プランで導入されることになっている。小銭での支払いの煩わしさがなくなり、乗降時間が短縮されるため、定時運行の確保が期待されているもので、2事業者への共通ICカード導入は他社乗継割引の実施をはじめ、利便性が大きく向上される。旭川の事例を一つの教訓としながら、システム設計が求められるところである。
市単独事業で生活交通路線維持対策費補助金
国や県の補助制度の交付対象とならない路線への補助金で、年間約500万円が助成されている。国・県の補助金が入っている路線は少なく、総じて生活バス交通路線の維持への行政支援は少ないとの印象を持つ。しかし、市単で助成制度を持っている点は注目である。
高齢者バス料金助成事業
長野市の「お出かけパスポート」に相当する事業で、70歳以上の高齢者を対象に市内バス路線を100円で利用できる「寿バスカード」を交付する。交付する際に、対象者は2000円の負担(毎年更新)が必要となっている。バス運賃の差額は行政が全額負担する仕組みで、対象者28,176人、事業費は年間2億4,600万円に上る。(因みに、長野市は事業市負担があることから事業費は1億9千万円)
総括的に
旭川市の視察は、ICカード乗車券の導入状況、バス交通のネットワーク、公共交通利用転換の経済的インセンティブ策などに関心を持って臨んだが、試行錯誤の途上との印象が強い。
長野市でも「バス路線網再編基本計画」(H17年)を策定し、交通不便地域の解消に向け、地域循環バスやデマンドタクシー運行を順次実施に移し、アルピコグループの私的整理による川中島バスの不採算路線の見直しを機に、地域公共交通活性化再生法に基づく、抜本的な再生計画として「バス交通再生プラン」(H22年)を策定、その具体化に取り組んでいることを考えると、地域公共交通の再生は地方都市共通の喫緊の課題になっていることを改めて痛感する。
旭川市のバス事業者の経営状況などを詳細に把握しなければならないが、北海道という地域性を考えると、その深刻さは長野市と同様、或いは長野市以上に厳しいものと思われる。そうした中での生活交通維持確保に向けた市単独事業の実施や、高齢者バス料金助成事業のあり方は、参考に値する取り組みといえる。
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