4月1日から一泊二日で、私鉄出身の議員たちと一緒に愛媛県松山市を行政視察してきました。私鉄中部地連(愛知・岐阜・長野で構成)の議員団としての企画で、愛知県議の渡辺雅司氏を団長に9人の一行です。視察のメインテーマは交通政策、特に全国で12番目に指定されたオムニバスタウン計画の現状です。その他、市施設視察を織り込みながら、密度の濃い視察となりました。
新年度で異動がある中、快く視察を受け入れていただいた松山市議会事務局、都市整備部総合交通課の皆さんには本当に感謝です。また、地元として計画を立て案内いただいた松山市議の大亀康彦氏(伊予鉄道労組出身)にも大変お世話になりました。ありがとうございました。写真は松山城と桜。
1.松山市の概要
2.全国でもいち早く、ワンストップサービスを導入
3.全国で12番目のオムニバスタウン、バス中心の公共交通体系の整備
4.中央公園や坂の上の雲ミュージアム、ロープウェイ街、道後温泉本館など
市有施設の視察
1.松山市の概要
(1)四国一の人口を有し、道後温泉を代表とする「国際観光温泉文化都市」。松山城を中心に発展して来た旧城下町。俳人正岡子規ゆかりの町であり、小説『坊っちゃん』『坂の上の雲』や俳句で知られる文学の街でもある。2005年1月1日、北条市、温泉郡中島町を編入し、人口50万人を突破した。中心市街地は旧温泉郡に属する。愛媛県の県都で中核市。人口51万3,038人、面積429.03?、人口密度1,200人/?。
(2)人口50万強という人口規模としては比較的公共交通の利便性を有しており、市内の主だった拠点の多くに公共交通だけでたどり着くことができる。しかし、近年、電車バスの利用者は減少し、自動車の利用が増加しているが、住宅の50%が幅員4m未満の道路に接しているなど、道路整備は遅れ渋滞が問題になってきている。
(3)JR予讃線松山駅は、中心市街内のやや西寄りにある。むしろ伊予鉄道の松山市駅が中心駅となっている。ここから郊外線が3方向に伸び、市内電車(軌道)の拠点停留所も松山市駅前にあり、都市間高速バスを含む路線バスの発着点ともなっているなど、公共交通の面でも中心となっている。これには、松山市駅が明治21年(1888年)に開業したのに比べ、予讃本線(現・予讃線)の到達が遅く、昭和2年(1927年)になってようやく松山駅が開業した、との経緯もある。国鉄延長の際、松山市駅はそれまで名乗っていた「松山駅」の名を国鉄に奪われ、現駅名を名乗るようになったとのこと。(?写真は伊予鉄・道後温泉駅で給油中の坊っちゃん列車、ディーゼルで走っている、なかなか見られないシーン)
(4)現在、高次な都市機能と豊かな自然、伝統ある歴史・文化等を活かし、司馬遼太郎の作品に因み「『坂の上の雲』をめざして」をまちづくりの基本理念とし、「憧れ 誇り 日本一のまち 松山」をめざす将来像に、市民とともに日本一のまちづくりを進めているとのことだ。
2.全国でもいち早く、総合窓口=ワンストップサービスを導入
◎松山市役所、総合受付窓口(ワン・ストップ・サービス)が出迎え
(1)市役所に入ったとたんに目を引くのが、1階にある総合受付窓口の案内とカウンターだ。H12年度から導入されたワン・ストップ・サービス(1箇所で必要な行政手続きが行えるサービスのこと、担当課をたらい回しになるような不便さを解消するシステム)で、長野市も市庁舎建て替えに合わせて検討している仕組みである。
(2)例えば、「届出受付コーナー」では、戸籍届出・住所異動に合わせて、印鑑登録はもとより、国民健康保険、乳幼児医療助成、国民年金、児童手当、市立小中学校の転校手続きなどが1階の同じ窓口で行えることになる。因みに長野市の場合では、第一庁舎2階の市民課で戸籍や住民票の手続きをした上で、国民健康保険課、児童福祉課、国民年金課、教育委員会等の担当課を回り手続きをとることになる。担当課でそれぞれ案内はしてもらえるものの、市庁舎に不案内な市民にとっては大変煩わしく「お役所仕事」と揶揄される所以ともなっている。建物の構造的な制約があるとはいえ、すべての市民にやさしく、分かりやすく便利な市役所への改革は待ったなしといえよう。
(3)さらに、「母子・健康コーナー」では、母子健康手帳の交付、予防接種手続きの交付、母子等の健康相談も同じ窓口でできる。市役所入口に案内係のフロアーマネージャーが置かれ、ベビールームやキッズコーナーも置かれている。すべてのカウンターが車いす対応となっている。
3.全国で12番目のオムニバスタウン、バス中心の公共交通体系の整備
◎「地球にやさしい日本一のまちづくり~環境的に持続可能な交通体系の構築」を基本理念…市役所議会棟で松山市都市整備部総合交通課から松山市の交通政策の概要について説明を受ける。
(1)全国で12番目のオムニバスタウン計画
松山市は、平成17年3月に四国で初めて、全国で12番目に『オムニバスタウン』の指定を受けている。オムニバスとは乗合バスの語源で、「何の用にでも役立つ」という意味、バスには、一度に多くの人を運べるとか、自動車と比べて二酸化炭素の排出量が少ないなど、さまざまなメリットがあり、このようなバスの持つ魅力を最大限に生かした交通体系の確立を目指す取り組みだ。(?写真は説明した頂いた総合交通課副主幹の石井朋紀さん)
(2)公共交通でも日本一をめざす
松山市の交通施策の基本理念は、総合計画の中で「地球にやさしい日本一のまちづくり~環境的に持続可能な交通体系の構築」としている。これを実現するために①自動車交通の円滑化②自転車の利用促進③公共交通の利用促進の3本柱で「過度の自動車交通から他の交通手段への転換を促し、バランスがとれた持続可能な交通体系をめざす」とする。
H16年度に、地球温暖化防止のための「環境的に持続可能な交通(EST=Environmentally Sustainable Transport)モデル事業」の選定を受け、このESTモデル事業にオムニバスタウン計画を位置づけ、総合的な交通施策を展開している。
こうした施策は路面電車とバスを運行する伊予鉄道と連携・一体化して具体化が図られている。唯一の民間交通事業者である伊予鉄道の市内3方向に走る路面電車の存在があってこそ可能にしている交通施策ともいえよう。
*松山市オムニバスタウン施策の概要
(3)オムニバスタウン計画の主な事業
■バスの利便性・安全性の向上
?快速バスの増便、鉄道駅からのフィーダーバスの運行
*中心市街地への向かう2ルートで快速バスを運行、6分~8分の時間短縮が可能に
?ICカードの導入(電車・バス共通運賃制度の導入検討)
*H17年から電車・バス・タクシーで利用サービス開始。プリペイド&チャージ式カード
*JALや愛媛FCと連携、また高島屋カードとの一体化も図る。カード発行等は伊予鉄
グループの関連会社がおこなっている。
*H19年12月でICカードの発行枚数が15万枚を突破
*H20年度でバスから電車への乗り継ぎを通し運賃とするゾーン運賃制度の導入を検討
?バスロケーションシステムの拡充
*バスの運行状況をリアルタイムに情報提供するシステムでH19年度までに111箇
所に整備
*H20年度で5箇所増設
?ノンステップバス・低公害バスの導入
?体系的な旅客案内システムの構築
*路線図を中心とする案内板の整備
■交通施設等の整備・改善
?サイクルアンドバスライドの導入(駐輪場の整備)
?パークアンドバスライドの導入
?ハイグレードバス停の整備
*国・県・市の各道路管理者とバス事業者が協力して上屋やベンチ等を設置
*H19年度で市が3箇所、伊予鉄が2箇所を整備、トータルで県が3箇所、市が5箇
所、伊予鉄が2箇所
?交通結節点の整備(電車駅とバス停)
(写真上は歩道に整備された自転車道とマーク、中心市街地で)
■交通安全に配慮したバス走行環境の改善
?公共車両優先システム(PTPS)の導入
*H18年4月から運用開始。市内で最も運行回数の多い国道33号線を中心とした
区間、約5.7kmで実施
*バスの車載器(1器100万)を市が補助
?バス優先レーンのカラー舗装化
?トランジットモールの導入検討
*ロープウェイ通り。従来の幅員7mの2車線一方通行・歩道両端2.5mを幅員5m
1車線一方通行(路肩1mに自転車)・歩道2.5~4.5mに転換。シャッター街であ
った通りに賑わいが戻ってきているという。
?道路整備・交差点改良の促進
■バスの社会的意義の認識高揚
?公共交通利用促進のための普及啓発活動
*公共交通利用促進を呼びかけるテレビCM、ラジオCM、広報ビデオの作成
*児童・生徒を対象にバスの絵募集
*小学校でのバスの乗り方教室や親子での公共交通の乗り継ぎ体験などを事業化
(4)総事業費21億8千万円、オムニバスタウンの事業費と負担割合
オムニバスタウン計画は5年間の事業計画でH17年度からH21年度までを期間としている。計画上の総事業費は21億8千万円で国が7億1千万、県が1400万、市が運輸補助と直営事業で5億3千万、事業者が10億5300万だ。負担割合でみると国が26.5%、県が0.7%、市が24.5%、事業者48.3%で、松山市の場合、全体的には事業者の負担割合が高い事業となっている。
ICカードの導入では、一式で7億円。国と市がそれぞれ5480万、事業者が5億9000万を負担。バスロケーションシステムは、5年間で30カ所整備する計画で、4500万、国・市が900万ずつ、事業者が2700万とされている。また、公共車両優先システム(PTPS)の導入は23両に探知機を設置、1840万で国・市・事業者で3分の1の負担割合。ハイグレードバス停の整備では、25カ所整備する計画で、総事業費8100万、国が約2分の1の4200万、県が6分の1の1440万、市が4分の1の200万、事業者が600万だ。
さらにバス利用促進キャンペーン等では5年間で1500万、国・市・事業者が3分の1ずつの負担割合で計画されている。
因みにまちづくり対策特別委員会で視察した岐阜市のオムニバスタウン計画は、総事業費16億くらいで、市の負担割合は28%で4億4千万を投入する。また、松江市は7億で市が46.5%、事業者は8.9%で、市の負担割合が高い自治体例だ。金沢市は総事業費31億で、市が28.4%の8億7千万、事業者は20.4%となっている。
松山市ではこの他、赤字路線への補助等として約6,000万を投入している。
(5)パーソントリップ調査に加え、プローブパーソン調査を実施
パーソントリップ調査とは、交通の主体である「人(パーソン)の動き(トリップ)」を把握することを目的とし、調査内容は、どのような人が、どこからどこへ、どのような目的・交通手段で、どの時間帯に動いたかについて、調査日1日の全ての動きを調べるもの。都市計画マスタープランの策定や交通計画の策定に活用される調査だ。長野市も実施している。
松山市ではこの調査に加え、GPS携帯電話で人や車の移動状況を記録する調査=プローブパーソン調査を実施、有効データで3000件、トリップ数で1万件を集約し、よりきめ細かな移動を把握し、道路整備、自転車道の整備、バス路線の検証に活かされつつある。交通需要マネージメントの手法が進められている事例といえよう。もうちょっと研究し、長野市で活かせるかどうか検討したい課題だ。
4.中央公園や坂の上の雲ミュージアム、ロープウェイ街、道後温泉本館など市有施設の視察
◎松山中央公園では市営競輪場と県立武道館
松山市の郊外に位置する松山中央公園は、3万人を収容する「坊っちゃんスタジアム」(118億円)、2000人収容の「マドンナスタジアム」(12.8億円)、テニスコート16面(5億円)、屋内運動場・アリーナ(6.7億円)、プール(49.4億円)、そして多目的競技場(写真左下)という名の市営競輪場(135億円)など総事業費608億円(内地方債420億円、他は基金等一般財源)をかけ、H5年からH17年の8年間で整備された総合運動公園である。この敷地内に愛媛県武道館(写真右下)が隣接する。
市営競輪場はもともと松山城の近くで営業していたものだが、この計画の中で移転、多目的競技場として整備し、もっぱら競輪場として運営されている。競輪事業は特別会計で193億円余の財政規模で年間1億円の収益を上げているという。
H15年に開館した愛媛県武道館は県産材の杉などを豊富に使った建物でMウェーブを彷彿させるイメージだ。138億円をかけて整備され、愛媛県スポーツ振興事業団が指定管理者として管理している。国からの補助金はなく地方債100億と一般財源で建設。主道場(アリーナ)に加え柔道場(3面常設)と剣道場(3面常設)、トレーニング室等が整備されている。主道場は世界初の「浮上式柔道用床転換システム」(写真右)を採用し最大で8面の柔道場を機械的に設営できるものとなっている。通常はアリーナとして活用されている。年間の総量者数は29万人で月平均24,000人、柔剣道などの武道としての利用率は概ね50%という。武道利用はほとんどが大会関係となっているようだ。したがって基本設計はアリーナということになるのかもしれない。訪問した4月1日は、春休み中で中学生や高校生がバドミントンや卓球を楽しんでいた。一般利用は1時間100円とのこと。武道館の収支予算は2億1千万で収入の内1億5800万が県からの委託料だ。
◎まちづくりの中核施設=坂の上の雲ミュージアム
坂の上の雲ミュージアムは、松山のまち全体を「屋根のない博物館」=フィールドミュージアムとする構想の中核となる施設である。2007年4月開館、30億円の事業費。司馬遼太郎の小説「坂の上の雲」にちなんで命名されたもので、松山出身の正岡子規、秋山好古・真之兄弟の3人が持った高い志を多くの市民と共有しながら、官民一体となってまちづくりに取り組むシンボルとなっている。松山市の市営施設で四電ビジネスが指定管理者となっている。
◎ロープウェイ通りから松山城、ロープウェイ街の整備
路面電車が走るメイン通りの大街道から松山城にのぼるロープウェイ駅舎に至る道がロープウェイ通り。フィールドミュージアム構想でセンターゾーンの玄関口に位置づくロープウェイ街の整備は商店街が主体となって進められたという。かつては閑古鳥が鳴くような商店街を抜ける2車線一方通行の道路と街並みを、建物のファサード整備、電柱の地中化等により、1車線一方通行とし歩道を広くとり、蛇行する形で道路景観整備がされた。今日、新たに開業する店もでき賑いが戻っているという。統一感のある街並みとなっている。2億9千万の総事業費で地元商店街が5千万を負担したというから、商店街の意欲もかなりのものと言える。松山城にのぼるロープウェイも市営で、駅舎を新しくしたという。駅舎は8億3千万、内5億3千万がまちづくり交付金だそうだ。この4月から伊予鉄道が指定管理者となっている。ロープウェイと一緒に一人乗りリフトも動かしている。因みに松山城も市の管理である。
◎市直営の道後温泉本館、1日2,000人の入浴者
3000年を超える歴史を持つという日本最古の道後温泉。この中核施設である「本館」は、明治27年に約20か月の工期、13万5千円(当時)という破格の予算で建造されたもので、三層楼の壮大な建物は築後100年を経たH6年に国の重要文化財の指定を受けている。一般に開放されている入浴施設で1日に2000人が入浴に訪れている。ゴールデンウィークには5,000人を超えるという。朝6時から夜11時までの営業、利用時間は1時間に規制され、大人で400円から1500円(休憩室利用で料金が違う)の利用料が設定。市の産業振興課の出先として道後温泉事務所が管理運営にあたっている。従業員は50人、2交代制。
◎公共交通網の整備と一体のまちづくり
松山市は、夏目漱石「坊ちゃん」ゆかりの地でもあり、多彩な市施設を保有している。指定管理者に移行している施設も多いが、市直営で頑張っている施設が意外に多いことに率直に驚いた。公共交通網の整備と合わせ、いで湯と城と文学のまちが一体となったまちづくりが進められていると感じた。
国が支援するバス交通を中心としたオムニバスタウン事業は、2003年の1回目の質問から長野市に具体化を求めてきた課題である。事業のメニューの中から選択して、地域公共交通活性化法の支援の枠組みの中で具体化を図りたい。
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