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05年8月3日記
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もはや「アスベスト公害」!抜本対策が求められている!(その1)

「静かな時限爆弾」…工場従事者だけでなく、家族や周辺住民へと広がりを見せるアスベスト被害。一般住民への被害が広がる中、「アスベスト公害」というべき事態に直面している。1986年には横須賀の米軍基地でのアスベスト廃棄物のずさんな処理をきっかけとして、学校施設の石綿使用、子どもの安全が問われ「学校パニック」といわれる一大社会問題が引き起こされた。翌87年には旧文部省が学校施設の石綿使用実態を調査、30校に1校の割合で石綿使用教室が見つかり、除去対策は講じられたとされてきた。同年旧建設省は国有建物の「非アスベスト化」方針も決定していた。
 そして90年代、アスベストが原因となる労災認定、中皮腫死亡者の急増にもかかわらず、国は場当たり的な対応に終始し、法規制に踏み込まず、問題は放置され続けてきた。今日、危険性を知りつつ抜本対策に乗り出さなかった行政の不作為責任と、石綿を使い続けた事業所には「企業の社会的責任」が重く問われている。
 周辺住民や家族にアスベスト被害が及んでいることを明確にした「クボタ」の衝撃的な発表から1ヶ月、政府は7月29日、アスベストによる中皮腫や肺がんで労災認定を受けた労働者が所属していた事業社名を公表(労災235事業所)するとともに、関係閣僚会議を開き、被害の拡大防止や被害者救済に関し約50項目にわたる当面の対策を打ち出した。しかし、アスベストの即時全面禁止を08年までに棚上げ、焦点であった労災補償から漏れた従業員や家族、工場周辺の住民の救済策は9月末まで結論を先送りするなど、不安の解消には程遠いものとなっている。
 アスベストは、吸い込んでから発病するまでに15年から40年と長い潜伏期間があることから「静かな時限爆弾」と呼ばれてきた。日本はカナダや南アフリカからアスベストを輸入、その量は1960年代に急増、年間20万トンを超え、ピーク時の74年には35万トンを超えている。輸入総量は988万トンに及ぶ。今、時限爆弾が爆発し始めた状態といえよう。
 厚生労働省は人口動態統計で95年から中皮種の死亡者数を集計しているが、その数は年々増加し2003年には878人に達している。早稲田大学の村山武彦教授(リスク管理)は、2040年まで10万人が中皮腫で死亡すると予測する。また世界11カ国のアスベストの消費量と中皮種の死亡者数を解析した研究では、アスベスト170トンにつき1人が中皮腫で死亡していたとする。この結果から日本の動向を予測すると、中皮腫の死亡者数は年間2000人を超えることも予想されるという。
 1970年から90年にアスベストが多用されたビル等の改修・解体が増加するのは2010年以降といわれる。学校や病院など身近な施設は大丈夫なのか。アスベストを使った建物の解体工事は本当に安全なのか。健康被害者の労災認定・救済措置は万全なのか。対処療法ではなく抜本的対策が求められている。

■行政の不作為が被害を拡大…「公害の危険性」認識から原則使用禁止まで33年
旧労働省は1971年、作業現場でのアスベストの飛散防止を盛り込んだ「特化則」を施行した段階で、公害をもたらす危険性を指摘したにもかかわらず、公害対策としての規制措置を見送る。72年にはWHO(世界保健機構)が赤面の発がん性を指摘。
旧労働省は1976年にアスベスト取扱工場労働者の家族や周辺住民の健康被害に関する通達を発令しつつも十分な対策を怠る。
1986年、国際労働機関(ILO)における石綿使用安全条約の採択を受け、石綿対策全国連絡会議が前面使用禁止の政府申し入れを繰り返すが、一貫して誠意ある対応を示さず。
旧建設省は1987年9月、各省庁の庁舎や公務員宿舎など国有建物の「建材の非石綿化」を方針決定、危険性を認識しながら抜本対策に踏み出さず。建築物全般に当てはまる建設省所管の建築基準法の「告示」では、厚生労働省が石綿使用を原則禁止した04年10月まで、石綿製品を耐火性建材として認知し続ける。
1992年、社会党(当時)がアスベスト規制法案を提出したが、業界団体が「今後作業従事者の健康障害は起こり得ない、一般環境において健康問題は発生していない」と主張、政府は沈黙を通し廃案に。94年に社会党は再提出を検討したが、石綿建材メーカー8社の労働組合が雇用不安を理由として反対し、連合も難色を示したことから、法制化を断念。
アスベストに替わる建材として使用されているロックウール(岩綿)といえどもアスベストを含むものが流通してきており、90年代まで使用され続けてきている。

1971年

労働省

特定化学物質等障害予防規則の制定(石綿など危険な化学物質取扱を規制)
特化則の解説書の中で、「大気中に放出すると労働者への中毒や障害のみならず、公害をもたらすことになる」と指摘。

1975年

労働省

石綿の天井などへの吹き付け作業を原則禁止(特化則の改正)

1976年

労働省

アスベスト取扱工場労働者の家族や周辺住民の健康被害に関する通達を発令作業環境評価基準を「空気1?中、2000本以下」と規定

1987年

文部省

公立小中学校校舎の石綿の使用状況を実態調査

建設省

国有建物「非アスベスト化」方針決定

1989年

環境庁

大気汚染防止法改正で工場の敷地境界線基準値を「1?中、10本以下」と規定

1995年

労働省

青石綿と茶石綿の製造・輸入・譲渡・提供または使用の禁止(労働安全衛生法施行令改正)

2004年

厚生労働省

建材・摩擦材等の石綿含有製品の製造・輸入・譲渡・提供または使用の禁止[石綿使用の原則禁止](労働安全衛生法施行令改正)

国土交通省

建築基準法の「告示」から石綿製品を除外

2005年

厚生労働省

7月、石綿の有無の調査や除去計画を義務付けた「石綿障害予防規則」を施行
作業環境評価基準を「1?中、150本以下」に変更


■海外における全面禁止の状況

1955年イギリスでは、吸い込んだ石綿と肺がんの因果関係が疫学的に立証。しかし、日本での発がん物質指定は20年後の75年。
米国では80年代、年間に約4000人が中皮腫で死亡する事態が続き、石綿製品を製造・使用した企業への提訴が急増、賠償金などの負担が巨額に膨らむ。1986年にはアメリカ環境保護局が、主要なアスベストの使用禁止と96年までにすべてのアスベスト製品の製造全面禁止を提案。
全面禁止は83年アイスランドを皮切りに86年スウェーデン、93年ドイツ及びEU(青石綿・茶石綿)、96年フランス、99年イギリス。2005年にはEUで全面禁止に。

■国と企業は責任を明確にし、即時全面禁止と実態調査・救済措置の確立を急げ
 社民党は「アスベスト対策プロジェクト」を設置、7月22日「6項目の緊急提言」をまとめ発表した。
 提言の柱は①政府の責任で下請け労働者や家族、周辺住民を含む全国的な事態調査を行うこと②調査結果をすべて情報公開すること③住民検診を実施するとともに検診や治療に関する費用負担は国及び関係企業が責任を持つこと④アスベストの08年全面禁止を前倒しし、即時禁止とすること⑤労災申請の5年の時効を見直すこと⑥行政と企業責任を明確にした上で、国と企業の責任で被害者補償を行う特別立法措置を検討することの6点。さらに「労災の枠から漏れる周辺住民の補償の問題や労働者を媒介とした2次被害の問題等について国に救済制度がないことから、新たな救済の仕組み、補償制度の確立の検討を掲げている。

 さらに、①解体等における飛散防止策の早期確立。「石綿障害予防規則」の厳格な実施 ②関連する下請け会社や工場を含めた石綿製造業の情報開示。石綿吹きつけ業に従事した会社が保有する石綿吹きつけ建築物台帳の公開 ③悪性中皮腫、石綿関連肺がん患者への救済措置の早期確立。中皮腫登録制度の導入なども対策が急がれる。
 *参考「社民党アスベスト対策プロジェクトの提言」
    「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」…アスベストに関する10項目対策
       http://www.asbestos-center.jp/

■86年学校施設調査の問題点(調査箇所・対象品目の限定とロックウールの放置)
1986年に旧文部省が行った「学校におけるアスベスト使用」の全国調査では、長野県教育委員会が調査、高校の14校、公立小中学校の30校の計44施設で使用が判明。98年の追跡調査で3校が対策未実施校として報告集約。3校は大岡小学校・中学校(灯油タンク室)及び坂城小学校(空調用機械室)で、今日現在、施錠等による飛散防止策をとり「対策済み」とされている。本年度中に当該自治体で除去する方針を決定。
そもそも当時の調査は、調査対象が「校舎・体育館・寄宿舎」に限定され、校舎といえども給食室や廊下は十分に調査されていない問題を残していた。調査方法も、設計図書の特記仕様書から吹き付け石綿が使用されているかどうかを判断する、設計図書がない場合は目視で判断するもので、吹き付け石綿3製品(トムレックス・プロベスト・コーベックス)の調査にとどまる不十分なものであった。旧文部省は、わざわざ「吹き付け石綿ではない」とする15製品も挙げたが、その後、内11製品はアスベスト製品であること(環境庁)が判明、これらの製品使用調査は行われていないことになる。今回の文科省の再調査にあたり、宮城県は旧建設省が88年にアスベスト含有の可能性を示した23品目を付加して調査することを明らかにしている。8月1日現在、長野県は新しい指針を示していない。
もう一つの問題は、吹き付けロックウール(岩綿)である。1975年の吹き付け石綿の禁止に伴い、吹き付けロックウールへと移行したが、75年から95年までは「石綿=石綿を5%以上含有するもの」とされたことから、5%以下の石綿を含むロックウールが吹き付け建材として使用されてきたのである。90年代のロックウールは石綿を含有していないが、70年代のロックウール吹き付けは石綿を混ぜたものが多く、80年代まで続いたといわれている。練馬区の調査では、石綿含有率は1%から20%であった。このロックウールの調査がアスベストの含有率を含めて、調査対象から除外されていることが問題である。
ロックウール工業会は、「過去にアスベストが混ざっていた製品は、工業会指定認定製品の吹き付けロックウールとロックウール吸音天井版」であるとし、「吹き付けロックウール(乾式)は80年(S55)以前に、吹き付けロックウール(湿式)は88年(S63)以前に、ロックウール吸音天井版は88年(S63)以前に施工されているものにはアスベストが混ざっているものがある」としている。
したがって、今回の再調査(文部科学省の教育施設調査と厚生労働省の病院・社会福祉施設調査)にあたり、何を調査するのかを明確にさせ、調査を実施することが重要である。
7月29日付けで文科省が示した学校施設再調査の概要が判明した。「学校施設等における吹き付けアスベスト使用実態調査要領」で11月15日までに集約しようとするもの。調査対象建材は96年度(H8年度)以前に竣工した建築物(改修工事も含む)に使用されている「吹き付け石綿等」(いわゆる「吹き付けアスベスト」「吹き付けロックウール」及び「吹き付けひる石(バーミキュライト)」等と呼ばれているもので、含有する石綿の重量が1%を超えるもの)と「折板裏打ち石綿断熱材」の二つ。具体的判断基準として30品目(吹き付けアスベスト9品目、石綿を含有する吹き付けロックウール17品目及び湿式石綿吹き付け材4品目)を示している。30品目は別紙参照。施設の設計図書に品目名が記入されている場合は特定しやすいが、記入されていない場合、目視による判断になると思われる。調査は大変なものになるが、完全実施を強く求めていくこと、そして調査結果の情報公開および対策と実施計画をはっきりさせることが大切である。また、この文科省基準を、他の公的施設の調査の基準にしていくことも重要だ。
調査対象で「1996年度以前」に注目すべき、従来は「1955年~1980年」とされてきている。

文部省が参考としてあげた対象製品(87年通達)

吹き付け石綿の商標の例 トムレックス、プロベスト、コーベックス
次の製品は吹き付け石綿ではないので注意すること ○プロベストR、△プロベストR-S、○コーベックスR、コーベックスNS、○スプレークラフト、○スプレーテックス、○スプレーエース、○サーモテックス、○ニッカウール、○アサノスプレーコート、○バルカロック、○ヘイワレックス、○オパベスト、△ベリーコート、タイカコート

○は調査後にアスベスト製品とされたもの、△は疑いのある製品


[参考資料]アスベストとは?その危険性とは?(全国安全センター作成)

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