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2010年11月17日
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市議会公共交通対策特別委員会・視察報告…JR北海道「DMV」の詳報

11月10日、札幌市内にあるJR北海道苗穂工場でDMV(デュアル・モード・ビークル)を視察。DMV推進センターの今村氏から開発状況の説明を受け、試験線路での試乗を体験した。屋代線存続問題で、鉄路を活かした新しい交通モードの導入の可能性を模索する観点から視察テーマとした。【写真右は苗穂工場内で試乗したDMV920】第一報は11月14日付「徒然日記」に所感として。これは詳報版です。
DMVとは?
 DMV(デュアル・モード・ビークル)とは、道路とレールを双方向に走行可能な車両で「夢の乗り物」ともされる。JR北海道と日本除雪機製作所との共同開発で、現在はトヨタ自動車の協力を得て、試験車開発がされている。
 技術改良による特徴は大きく3点挙げられている。
 一つは、道路とレールの乗り換えが大幅に短縮され、僅か10秒~15秒で道路⇔レールのモードチェンジが可能になったこと。

二つに、既存のレールと道路をそのまま走行するので、大規模なインフラ整備の必要がなく初期投資が少なくてすむ。鉄道車両と比べ低コストでの運用が可能なこと。

三つは、後タイヤで駆動するシステムで、「後軸重配分制御」という方式を採用し、ゴムタイヤの摩耗を抑え、かつ走行安定性を向上させるなど、実用化に向けた技術的な工夫が行われていること。
           

開発から10年、2012年(H24年)3月までに実用化・営業運行をめざす
 JR北海道は2002年(H14年)10月にDMVの研究開発に着手、2004年(H16年)1月にマイクロバス(日産・シビリアン)を改造した第1次試験車が完成、2005年(H17年)には第2世代として2両を背中合わせに連結するプロトタイプを製造、現在はトヨタ製のマイクロバス・コースターをベースとした第3世代の試験車(DMV920、定員28人)で試験的営業運行が実施されている。また、H20年6月にNEDO事業に採択され、新型試作車(定員25人~29人)3両が製造されている。2両から3両による連結運転(順方向連結)の試験確認中で今後の課題とされる。
  *2005年10月、石北本線北見駅~西女満別駅から女満別空港間で走行試験
  *2006年11月、静岡県富士市の「岳南鉄道」でテスト走行(07年に実証実験)
  *2007年4月から「釧網本線」浜小清水駅発着で試験的営業運行
  *2008年3月、熊本県の「南阿蘇鉄道」で実証実験
  *2009年1月、静岡県の「天竜浜名湖鉄道」で試験走行(実証実験)
  *2009年11月、岐阜県恵那市の第三セクター「明知鉄道」で夜間試験走行
             (10年に実証実験)

  *現在は、今年度の試験的営業運行が終了し、夜間試験走行などによるデータ計測中。
 今村氏の説明によれば、「連結運転方式は技術的に間に合わず、5分間隔の続行運転方式によって、2012年(H24年)3月までに北海道内で本格的な実用化、営業運行をめざしたい」とする。また、「テスト走行を実施した本州内の路線では、北海道内での実用化から1年後の2013年導入に向け検討したい」とする。実用化への期待が膨らむ。
メリットとデメリット…大量輸送と安全確保が課題
 DMVの発想は「車をレールに走らせる」ことにある。線路と道路の両用車の開発の歴史は1932年のイギリスに始まり、ドイツ、オーストラリア、旧国鉄でも研究が試みられたが、コストがかかりすぎることや技術的なデメリットを克服できず、いずれも実用化には至っていない。試験的営業運行にまでこぎつけているJR北海道の技術開発は、実用化されれば「世界初」となる。
 DMVの《最大のメリット》は、車両製造コストが鉄道車両に比べ格段に安く、軽量(約7トン)であることから車両・保線等の維持費を低減できることだ。バス改造費は2,000万円、鉄道車両は約1億円で約2割程度とされるが、実用化に向けた試算では、運賃箱や整理券発行機、料金表示機などの改装費を加えると1台4,000万円を超える形となり、これを3,000万円前半までに下げることが課題とされる。軽油で動くことから変電所をはじめとする電気設備への投資が不要となる点も大きい。
 一方、《最大のデメリット》は、鉄道の利点である大量輸送が行えないことだ。またマイクロバスの構造上、バリアフリーに対応できない(車いす乗車が不可)ことも課題であろう。JR北海道は連結運転をめざしてきているが、現状では実用化の目途が立っておらず、それを補うために5分間隔の続行運転方式を検討しているようだ。
 また、運転保安システムや雪対策などの安全運行の確保も課題だ。実際、2005年11月には試験運転中に雪に乗り上げる脱線事故を起こしている。車両の軽さから踏切信号に対応する安全装置も現実的な問題となる。しかしながら、これらの課題は技術的に克服されるであろう。
 《DMVの実用化を考える》と、技術的な課題もさることながら、法制度上の課題も多い。鉄道は鉄道事業法と鉄道営業法で運行し、バスは道路運送法、道路運送車両法、道路交通法によって走行している。互いに共通する法律としてバリアフリー法があるが、それだけでは運行できない。また、DMV1台を旅客運行するためには、バスを運行するための大型2種運転免許を持つ運転手と鉄道を運行する動力車操縦者免許を保有する運転手2名、もしくは両方の免許を持つもの1名が最低必要となる。人件費や人材確保も課題とされる。
 例えば屋代線で考えると2両1編成で定員は260人、朝夕の通勤・通学利用で100人をマックスとすると4台の続行運転が必要となる。運転手数を考えると人件費を中心とする維持費は大きくなるざるを得ないところが課題となろう。
実際に試乗してみて
 試乗した車両は第3世代の「DMV920」でトヨタのマイクロバス・コースターを改造したもの、定員は25人。まさに感覚はマイクロバスだ。線路上では「ガタンゴトン」とレールからの音が響くものの、乗り心地は決して悪くはない。道路から線路へのモードチェンジは15秒、大変簡単なことには驚きである。ガイドウェイと呼ばれる専用ポイント【写真右・下】で、レールの幅に合わせ油圧制御で車輪をバス車体から降ろし、レールに乗っかる後ろのゴムタイヤの内輪が駆動輪となる。線路から道路へのモードチェンジは踏切の手前で車輪を格納し、そのまま踏切から道路に出る仕掛けだ。線路と道路がフラットになっていれば、どこでもバスモードへの転換が可能である。線路上では時速70キロまでは可能のこと、線路の上をバックできるのもDMVならではであろう。
 マイクロバスを活用するのは、後輪のバスタイヤの幅とレールの軌道幅が合致するからだそうだ。このマイクロバスを車いすに対応したり車内の座席を改良するためには数十億の開発費用がかかるとか、現実的には困難であるとされた。
 大量輸送の課題を残すものの、高速性、定時性は確保されそうなことは実感できる。

期待されるものの、実用化には課題多し
 DMVの実用化には期待は膨らむ。地域公共交通のネットワークが広がることは間違いないであろう。しかしながら、安全性の確保、保安システム、輸送人員、バリアフリーへの対応、法制度上の規制など、実用化に向けクリアすべき課題はまだ山積しているようにも思える。大量輸送の課題に関し「例えば、沿線学校の始業時間を遅らせてもらう(実際に北海道内では実施されている)ことでカバーできる」との話は興味深い。
 鉄道の既存ストックを活かし「車をレールの上で走らせる」発想は面白い。コストを考えると、経営の厳しいローカル鉄道の救世主となる可能性はあるかもしれない。鉄路が必要とされていること、そして鉄道とバスとの一体的な交通ネットワークの構築がカギであろう。
 屋代線の新しい交通モードとして、法定協議会においても一つの事例として取り上げられているが、実用化への見通しがネックとなっている。導入にあたっては、車両購入、免許の保有など人材確保、駅舎ホームの改良やガイドウェイの設置などの初期投資が必要となるが、軽油で動くことから変電所などの電気施設等への投資が不要となる。魅力的ではあるが、今のところでは、DMVの話題性を活かし観光ルートとしての活用には可能性があると思われるが、通学・通勤対応には実用化の目途がどのように立つのかを見極める必要がありそうである。

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