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09年6月13日
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福井市内で路面電車に…福井県中央部・福井鉄道福武線の調査報告


 *大分遅れましたが、6月2日、長野地区公共交通対策で訪問視察した福井鉄道福武線
  の報告です。まずは6月3日付の「徒然日記」をご覧ください。
1.福井鉄道福武線の再建とは(総論として)
    
(1)
福井県中央部の越前市の武生新駅から鯖江市を経由し、福井市中心市街地を結ぶ鉄道路線。総延長21.4km、うち福井市内の3.3kmは軌道(路面電車)で運行する。全区間でJR北陸本線と並行して走っている。利用者数は昭和39年の971万人をピークに、H17年度で163万人、H元年度の292万人に対し4割減と減少し続ける中、H18年(2006年)8月、「負債28億円を抱え、自主的な経営再建は困難」とて、実質的な上下分離方式案を提示しながら、県及び沿線自体3市(福井市・鯖江市・越前市)に支援を求めるとともに官民協議会(=福井鉄道福武線協議会)の設置を提案したのが、再建の発端。
   *福井鉄道は明治45年創業の「武岡軽便鉄道」に始まる。さまざまな鉄道会社と合併
    し、昭和20年に福井鉄道として設立。以後バス会社を吸収合併し、現在、鉄軌道と乗
    合バス・高速バス・貸切バス、不動産賃貸・商品販売等を経営する。

(2)H20年(2008年)5月に官民協議会を母体に市民の存続サポート団体も加わり法定協議会が設置、今年H21年2月に地域公共交通活性化再生法に基づく「地域公共交通総合連携計画」をまとめ、「鉄道事業再構築実施計画」の認定第1号となる。「公有民営」「上下分離」方式の変形、福井市・鯖江市・越前市の沿線3市が福井鉄道㈱から鉄道用地(レールは別)を取得し、同社に無償貸与することで資産保有に伴う費用負担を軽減するとともに、福井県と沿線3市で鉄道インフラの更新や維持管理費用を一定期間負担するスキームが特徴である。H21年3月からH30年3月までの10年間(実質9年間)の総合連携計画で、鉄道用地の取得に県8億・沿線3市で4億、計12億、維持修繕経費を沿線3市で12億、設備更新に県が21億負担する。利用者数200万人の達成と収支均衡による安定運行を目指し再建がスタート。ここでも注目は行政の支援と「サポート団体」という形で形成されている住民の支援運動、12万人に及ぶ存続署名の取り組みなど、住民の底力と熱意が県や沿線自体を動かしたといえる。
(3)武生新駅から福井駅前及び田原町まで22駅(越前市3駅、鯖江市6駅、福井市13駅)。福井市内で一部複線、直流600V、最高速度は65km/h(鉄道線)、40km/h(軌道線)。運賃は180円から390円。現在の利用者は160万人、通学定期49万人(3割)・通勤定期21万人(1割)・定期外90万人(4割)の割合。今後、4つの新駅設置とP&Rの整備、女性・子供をターゲットとしたフリー券の販売、遠足利用、ダイヤ改正などで、1年間に4万人ずつの利用者増をめざしている。

 

2.調査行程
(1)8:30-9:00福武線武生新駅で運転指令室・運輸管理区の視察
        
       ▲武生新駅前のコミバス        ▲指令室で。CTCは更新計画あり
(2)9:00-9:30武生新駅~西武生駅、西武生駅でP&R・車両工場を視察
        
       ▲西武生駅舎と工場、老朽化は長電とどっこいどっこいか?
(3)9:30-10:30福井鉄道本社で事業者と意見交換
   ◎福井鉄道からは村田治夫・代表取締役社長、佐々木常雄・専務取締役、今枝孝司・
    鉄道部長、岡山和市・総務部長ら
       ▲村田社長はじめ幹部の皆さん
(4)10:30-12:00福井鉄道労働組合、沿線議員、越前市福武線を応援する会と
   ◎労働組合からは為沢和憲・委員長、前田美津雄・書記長、坂本外喜徳・私鉄北陸地
    連書記長他

   ◎野田富久・県議、玉村和夫・県議、福井市・越前市・鯖江市の沿線市議ら6人
   ◎越前市福武線を応援する連絡協議会からは大柳登・会長、伊藤藤夫・事務局長

   ◎行政は越前市政策推進課公共交通対策室から西野茂生・室長と奥山茂夫・室員
(5)13:00-15:00西武生駅~福井駅前電停~田原町駅(えちぜん鉄道接続駅・
   変電所)、福武線で視察
        
       ▲終点の田原町駅前の変電施設、ここで「えちぜん鉄道」と駅舎がつながる

3.名鉄資本の福井鉄道、28億円の債務処理を巡り、経営陣一新で再スタート
(1)鉄道事業者である福井鉄道は、「自主的な経営再建は無理」としながらも「廃止」を打ち出さず、行政の支援を受けて「存続」する道を選択し、事業者自らが「上下分離方式」を行政に提案した点は一つの注目点である。しかし、県や沿線自治体からは「財務体質の改善」を強く求められ、28億円の債務の圧縮、名鉄資本の経営からの撤退と名鉄の増資、新経営陣への移行、安全性への投資が事業者としての課題となる。
(2)結果、名鉄は10億円を増資し経営から撤退、新たに福井銀行が経営に参画、福井銀行常務執行役であった村田氏が社長に就任。村田新社長のもとで福井鉄道所有の24万株のうち、8万株を沿線3市、5万株を商工団体に、3万株をサポート団体に譲渡し、行政・民間・任意団体が福井鉄道を支える仕組みもつくる。
(3)鉄道用地を12億円で沿線3市に譲渡。12億円は固定資産評価額の7割だそうで、えちぜん鉄道の三セク化時の前例を踏襲したとする。これらにより、28億円の債務は名鉄増資10億と鉄道用地売却12億で6億円に圧縮される。福井鉄道は従来から鉄道の赤字をバス部門(高速)の黒字で補うとともに資産売却で経営を維持してきたが、H12年の規制緩和以降、バスから鉄道に補てんできず、借入金が増大してきたという。バス部門の赤字2億は行政からの補助金で補っている。今後、さらに遊休資産の売却等で10年間で借入金を返済する計画とする。
4.福井鉄道再構築事業の目標とスキーム
       
       ▲右上がP&R             ▲福井新駅を過ぎて路面になる瞬間
(1)
10年間の事業計画期間とし、計画最終年度のH29年度に輸送人員を利用促進策により200万人に増加(125%増)させるとともに、増収・経費減による収支の均衡を図り安全・安定した運行を継続させることを目標とする。
(2)鉄道用地は県が8億、沿線3市が4億負担し取得、福井鉄道に無償貸付する。福井鉄道は第1種鉄道事業者としてレールや車両、駅舎・変電所施設を保有し、運行・維持管理を行う。
(3)10年間にわたり設備更新の投資に31億円を投入(国が10億、県が21億)、維持修繕に沿線3市が12億円を投資する。鉄道用地の取得費と合わせ、55億円の資金が投入される仕組みである。
(4)税金を投入することから、協議会に「管理部会」が設置され、年2回、議会報告が義務付けられている。
(5)10年間の事業内容と進捗状況
 [事業内容]
   ①安全対策の強化(設備更新と維持修繕)
   ②営業の強化とソフト面での利便性向上(企画乗車券や高齢者割引制度の導入、
     サポート団体との連携、カーセーブデーや法人利用の推進、終電の繰り下げ、駅
     や車両の改善)

   ③ハード面での利便性向上(4駅の新設とパークアンドライドの新増設)

 [進捗状況]
   ①P&Rは既に9駅・292台分が確保、内7駅237台分は無料、また2駅は県営駐
     車場である。

   ②新駅は越前市内に2駅、福井市内に2駅を計画、1駅はH21年度中に、3駅はH
     28年までに設置としている。
   ③ダイヤ改正は今年10月までに実施する。
5.沿線住民「サポート団体」の取り組み

(1)福井鉄道の自治体への支援要請直後から、沿線住民の存続に向けた活動が活発化する。12万人に及ぶ存続署名の取り組みがあって行政と議会を後押しし、この流れが福井市福武線サポート団体協議会、福井鉄道福武線利用促進鯖江市民会議、越前市福武線を応援する連絡協議会などの沿線3市でのサポート団体の立ち上げにつながっている。現在、それぞれの団体の事務局は行政におかれているが、行政サイドからの仕組みづくり、住民への種まきと連携があったことが一つのカギであろう。【写真は左から越前市福武線を応援する連絡協議会の大柳会長と伊藤事務局長
(2)例えば、2007年11月、越前市と越前市地域公共交通会議が主催する「福武線利用促進市民フォーラム」の開催、また2008年2月には区長会連合会・自治振興連絡協議会・連合福井南越地域協議会・NPO市民自治研究センターの共催で「残そう福武線、電車は地域の財産だ」と銘打った市民フォーラムが取り組まれている。福武線でも「ラブ電」が実行委員会方式で取り組まれていた。こうした運動の積み上げでサポート団体が立ち上げられていく。交流した越前市福武線を応援する連絡協議会の大柳登会長が「利用促進は、大勢の市民を巻き込んで継続していくことに尽きる。リーダー自身が自覚し福武線を利用すること。区長会の会合には全員が福武線を利用している。こうした積み上げが大事だと思う。また、乗りやすい条件づくり、そして乗せる運動を生活密着型で強めていきたい」と指摘されたことが印象に残る。県や沿線3市、そして議会も当初は、福井鉄道への支援に慎重だったが、住民の関心の高まりと運動に押されて、支援を決定した経過もあるとのこと。住民サイドの「残したい。残さなければ」との熱意と運動が行政と議会を動かし、乗ることで事業者を支援している。鉄路存続運動のカギがここにある。
(3)旧経営陣での経営不振、そして新経営陣の再建事業のもとで、当該の労働組合も厳しい条件を受け入れざるを得なかったようだ。7年間に及ぶ賃上げゼロ、過去2年間は一時金支給ゼロを受け入れ、福武線の存続を支えてきている。「よく凌いできたな」と思うが、こうした労働組合の取り組みが市民に共感を広げる一因となっているのではとも思う。連合長野の地域協議会が「公共交通に乗ってWii(ゲーム機)を当てよう」キャンペーンなどを展開し、利用促進を後方支援している点も参考になる。
6.まとめ的に
(1)福井鉄道福武線は県都福井市の中心市街地と隣接する2市の住宅地を結ぶ路線で、しかも一部、路面電車となっていることから、長野電鉄屋代線と単純に比較はできない。中心市街地に結ぶ路線の在り方、例えば長野駅に直結する運行路線、料金設定は検討課題となろう。福武線では沿線の公共施設、ショッピングセンターとも「駅」で連携している。「駅」の使い方・あり方も検討されていいだろう。イベントだけでない企画乗車券の在り方にも知恵を絞る必要もある。ヒントはたくさんありそうだ。
(2)福武線調査の成果は、第一に、鉄道用地を自治体が取得し鉄道事業を存続させるスキームと行政の支援、財政投入である。とりわけ、県の存在・役割が大きい。第二は、ここまで行政を動かしたのが、住民パワーであったことだ。ただし、自然発生的に住民運動が盛り上がるわけではなく、裏方として行政がいろんな種まきをしてきたことを見逃してはならない。行政と住民の連携の在り方は大いに学びたいところだ。三セク方式で存続させた「えちぜん鉄道」の経験が引き継がれているのであろう。住民が主体的に関わり利用促進につながる存続運動をどのようにつくり上げていくのか、大きな課題である。鉄道がなくなってしまったら生活はどう変わるのかを具体的にイメージできることが必要だと思う。鉄道がもつ役割や公共交通利用促進の意義、まちづくりの課題を住民のものにしていくために、区単位ごとの住民勉強会・懇談会などの取り組みがまず必要であろう。ここにおいて住民自治協議会がどのように取り組むのか、行政がどのようにサポートするのか、方向性を早期に見出す必要がある。屋代線の場合、法定協議会が設置されているとはいえ、27人の大所帯ではなかなか突っ込んだ議論になりにくいのではと思われる。沿線の住民の声を拾い、生かしていく仕組みが必要である。これはアンケートだけで集約されるものではない。法定協のもとに、沿線の皆さんの懇談会的なワーキンググループとか、勉強を兼ねた住民公聴会とかが位置づけられる必要があると考える。それこそ、福武線の「サポート団体」を展望してである。
(3)因みに、キャンペーンビラしかないのだが、福井県は「カーセーブ・ふくい」というキャンペーンに取り組んでいる。運動不足・健康、交通事故・渋滞、環境問題、家計という観点から、車の利用を控え公共交通機関への乗り換えを促すものだ。長野県・長野市の「ノーマイカー運動」キャンペーンはどうか、検証したうえで、具体的な取り組みとして進めたいものである。
【下がキャンペーンのビラ】
       

       

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