人権停止法である「緊急事態基本法」の制定に反対

 総務部所管の請願審議で大きな論戦となったのが「緊急事態基本法の早期制定を求める請願」です。新友会と公明党の議員が紹介議員となっています。

 同法案はH16年(2004年)に民主党・自民党・公明党の3党により制定合意がされてきたもので、「3.11大震災」を口実にして急浮上してきた問題です。曰く「今回のような大規模自然災害時には非常事態宣言を発令し、政府主導の震災救援と復興に対処…」「尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件、ロシアの北方領土訪問、北朝鮮の核ミサイル脅威など、自然災害以外にも国民の生命・財産及び安全を脅かす事態が発生」「憲法には非常事態条項が明記されていない」等々、だから緊急事態基本法が必要との理屈です。
 
 基本的な問題は…、
 一つに、大規模自然災害と安全保障・外交上の有事は、「緊急事態」として一括りにできるものではないということ。
 二つに、「国民の権利を一時、特例的に制約できるようにする」とされるように財産権をはじめ基本的人権を制約する人権停止法であること。
 三つに、憲法に国家緊急権、非常事態条項等を明記する憲法改悪につながること。
 四つに、これまた急浮上している秘密保全法と合わせ、緊急事態を理由に思想・信条の自由、表現の自由を侵害する国家統制の強化に作用すること。

 以上の観点から、同法の制定にはきっぱりと反対します。
 
 審議の中で、大震災にあたり、「初動の遅れ、自衛隊・警察・消防が機動的・機能的に対処できない」との指摘がされましたが、この問題は災害対策基本法の課題であり、それ以上に政府の統治能力、危機管理能力の問題として考えるべきでしょう。

 災害対策基本法は、市町村が一義的に防災対策の責任を負い、市町村長に権限を集中させています。3.11のように庁舎が破壊され、行政機能を喪失する事態を想定しておらず、初動の混乱を招いたことは事実です。しかし、これは大規模災害時に指揮命令権が国に一時的に移譲され、一元的な管理ができるように災害対策基本法を見直すことで対応すべき問題です。

 また安全保障上の有事に対しては、残念ながらではありますが、自民党政権時代に強行可決された周辺事態法や武力攻撃事態法、国民保護法等により、緊急事態を含めて対処する強権的な法制がすでに図られてきています。

 また、原子力災害に対しては、安全神話が事実を持って覆された原発は制御不可能な技術であるとの認識に立ち返り、原子力エネルギー依存からの脱却、脱原発を目指す観点から、原子力利用の大綱を定める原子力基本法を抜本的に見直すことが最優先課題です。

 しかるに、大規模自然災害や人災である原子力災害に対応するには、災害対策基本法や原子力基本法、個別法の抜本的な見直しこそが不可欠なのです。にもかかわらず、「3.11」をいわば政治的に利用し、人権停止法となる緊急事態基本法の制定を求めることは、一日も早い復興、抜本的な減災対策、原発事故の収束、そして脱原発を願う災害犠牲者や被災者の心を踏みにじるものといわなければなりません。

 審議の中では、紹介議員が「緊急事態の定義」についても明確に応えられないまま…。「紹介議員の間ですら法の必要性について曖昧である以上、一旦取り下げて出直すことが、良識ある議員の選択でしょう」と促しましたが、取り下げや継続審査に応じず、新友会・公明党議員の賛成多数で可決されてしまいました。民主党系の議員は「継続審査」を提案、自らの政治的スタンスを鮮明にせず、逃げてしまうような姿勢はいかがなものかと思います。

 いずれにしても、未成熟で乱暴な議論がまかり通ってしまう…、何とも情けない、やりきれない思いが募ります。もっと議論を尽くすべきです。長野市議会の良識が問われる一件です。

 *お詫び…一部、事実誤認がありましたので訂正しました。(3月19日)

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