テロを想定した国民保護図上訓練の中止を県に申し入れ

12月19日、県が国及び松本市と共同で実施する国民保護図上訓練について、県護憲連合と県憲法会議の連名で、県危機管理部長に訓練の中止を申し入れました。

狙いは想定される実動訓練の実施に対して警鐘を鳴らしたいということです。

県護憲連合の事務局長の立場で段取りしたものです。県内のニュース報道でも取り上げられました。
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図上訓練は年明け1月26日に予定するもので、国内でのテロの危険性が高まったことによる厳戒態勢の中、県内でテロ撲滅シンポジウムが予定されていることに対し、国際テロ組織「X」が、松本市内の総合球技場・アルウィンややまびこドームなど県公共施設を爆破、死傷者が多数発生、「X」は逃走中、公共施設で人質を取り、立てこもるという「緊急対処事態」を想定しています。

「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」、いわゆる国民保護法第42条と長野県国民保護計画に基づき、実施されるものです。

県民を巻き込んだ実動訓練も見据えた「対テロ戦争」を想定する「軍事訓練」に他ならないとの原則的な視点に立ち、図上訓練と言えども、テロに対する危機を煽り、県民統制を強め、人権侵害につながることを憂慮し、訓練の中止を申し入れるとともに、計画時から情報の全面公開を徹底するとともに、県民及び自治体、指定地方公共機関等に対し強制に及ばないよう厳格に対処するよう求めました。

対応した池田秀幸・県危機管理部長は、「不断の外交努力により、武力攻撃事態等の発生を未然に防ぐことが何よりも重要であるとする県国民保護計画の基本理念は重々承知しているが、国民保護法と県国民保護計画に基づく訓練であり、理解願いたい」と述べ、図上訓練は予定通り実施する考えを強調しました。

県民を巻き込んで実施される実働訓練については「決まっていない」としましたが、、10年サイクルでの図上訓練・実動訓練という計画があるものと考えなければなりません。既に水面下では国と調整しているものと思います。

また、図上訓練は報道に公開するとともに、参加する機関は内閣官房、消防庁、自衛隊、県警察、松本市、日本赤十字社長野県支部(Dmat)などで、「協力をいただく形で強制には及んでない」としました。

図上訓練は10年振りの実施となります。
2008年1月に図上訓練を行い、同年11月には、武装グループ・テロリストによる化学剤散布という緊急対処事態を想定し長野市内のJR長野駅やビッグハットを会場に実動訓練が行われました。

10年前の実働訓練に対する県護憲連合の取り組み、実働訓練の様子は、下記の私のブログを参照してください(過去のHPでの記事で一部リンクエラーがありますが)。
➡【関連記事】081118県護憲連合で「国民保護訓練の中止」を求め、県に申し入れ
➡【関連記事】081127初めての「国民保護」訓練という名の有事訓練

北朝鮮による弾道ミサイル発射、Jアラートの発令等によって、恐怖感、危機感を抱いている市民の皆さんが多いことは承知しています。また、テロに対する漠然とした不安が強いことも然りです。私もテロ行為は許されざる犯罪であり防止することは必要な対応だとは思っています。でも、テロ行為には飢餓や貧困、宗教対立など超大国の支配的姿勢に対する憎悪が背景にあります。背景の根幹を除去する国際努力こそ求められるのです。テロを想定した図上訓練の中止を求めることについて、正直、躊躇がないわけではありません。しかし、我が国の対応が、北朝鮮への軍事的制裁や対テロ戦争を否定しないトランプ大統領に追随し、「不断の外交努力」に背を向ける安倍首相であるだけに、テロ対策を理由に「対テロ戦争」を正当化する、軍事力の行使が「普通のこと」となる情況は看過できないと考えます。何故、中止を求めるのか、後述する申し入れ書の内容を参照していただければ幸いです。

年明け1月26日の図上訓練に対する監視、さらに実働訓練実施に向けた警戒と監視を強めたいと思います。

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【申し入れの内容】

2017年12月19日

長野県知事  阿 部 守 一 様
長野県危機管理部長  池 田 秀 幸 様

                      長野県憲法擁護連合 代表委員 村 山 智 彦
憲法改悪阻止長野県各界連絡会議 代表委員 山 口 光 昭

国及び松本市と共同で実施する国民保護図上訓練の中止を求める申し入

県は、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」、いわゆる国民保護法の第42条及び長野県国民保護計画に基づき、国及び松本市と共同で、国民保護図上訓練を1月26日に実施すると発表しました。
「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」に定める「緊急対処事態」のための措置訓練の一環として行われる訓練となるものです。

国際テロ組織による県公共施設の爆破、犯人グループの人質・立てこもりという「緊急対処事態」を想定した訓練は、「武力攻撃の手段に準ずる手段を用いて多数の人を殺傷する行為が発生した事態」(国民保護法)に対応する訓練であり、国民保護法の根拠法である「武力攻撃事態対処法」に照らせば、住民の避難・誘導を主たる目的としているといえども、「戦争」または「戦争に準ずる事態」に対応する「軍事訓練」に他ならないと考えます。

そもそも「テロ」は犯罪であり武力行使及び戦争行為ではないとされる国際法上の常識を逸脱し、「対テロ戦争」を正当化し戦争を継続する米国の世界軍事戦略に追随し制定されてきた一連の有事法制を根拠とする「訓練」に他なりません。

災害対策基本法における自治体の役割・責務とは異なり、基本的に国の判断が最優先される「国民保護法」のもとでは、一連の有事法制の基本法である武力攻撃事態対処法が「武力攻撃が発生した場合には、これを排除しつつ、その速やかな終結を図ること」(法3条)を目的とする以上、侵害排除が優先され、国民の生命及び身体、財産の保護はないがしろにされかねない、基本的人権の侵害に及ぶ深刻な矛盾をはらんでいることは、日弁連をはじめとする法専門家からも指摘されているところです。

住民の生命及び身体、財産の保護に責務を持つ自治体としては、国民保護法がその名称とは裏腹に「国家の安全」を「国民の安全」に原理的に優先させるように制度設計されていることを注視する必要があると考えます。

今日、特定秘密保護法、組織犯罪処罰法に加え、新たな安保法制が強行されるとともに、大災害など有事に備えるため、国民の人権や財産権を制限し首相の権限を強化する緊急事態条項を創設するとした憲法改正案が俎上に上りつつあります。

私たちは、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とした我が国の最高法規である日本国憲法の理念に照らし、今次の「国民保護図上訓練」は、県民を巻き込んだ実働訓練も見据えた「対テロ戦争」を想定した「軍事訓練」に他ならず、図上訓練と言えども、テロに対する危機を煽り、県民統制を強め、人権侵害につながることを憂慮します。

国民保護図上訓練について、下記事項により誠意ある対応をとられるよう要請します。

1.「県国民保護計画」の基本理念に盛り込まれた「…武力攻撃事態等について、わが国の平和と国民の安全を確保するには、政府の平常時からの不断の外交努力により、これらの発生を未然に防ぐことが何よりも重要である…」との認識に基づき、「国家の安全」を優先する「軍事訓練」となる国民保護図上訓練を中止されたい。少なくとも、住民等を動員する実動訓練は実施しないよう対応されたい。

2.今回のテロを想定した図上訓練及び今後計画する実動訓練等において、計画時からの情報の全面公開を徹底するとともに、県民及び自治体、指定地方公共機関等に対し強制に及ばないよう厳格に対処されたい。

3.「大規模テロ」「対テロ戦争」を想定する「緊急対処事態」において、県知事が要請する自衛隊出動は、治安出動にあたるのか、警護出動にあたるのか、自衛隊法に基づき、その根拠を明らかにされたい。

以  上

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