井戸水で地中熱利用ヒートポンプ…冷暖房に活用する長野信金本店

23日、長野市子ども議会を終えた後、長野信用金庫本店(長野市居町・東通り沿)で導入されている「地中熱利用ヒートポンプ」を長野市環境部の面々と視察して来ました。

長野市信用金庫の吉澤常務をはじめとする役員の皆さんや、設備・技術を担う㈱HOXOHの大石社長らに対応いただきました。

信金本店では、「CO2の排出ゼロへ」を掲げ、本店本部棟と営業棟の冷暖房施設に地中熱利用ヒートポンプ施設を導入、年間冷暖房費を738万円から391万円に約半減させる見通しで再生可能エネルギーの活用を進めています。

昨年12月から本格稼働させているものです。

また、本部棟屋上には太陽熱を利用する施設を設置、電気もバイオマス発電を行う飯綱の「お山の発電所」を利用し、事実上のCO2排出ゼロをめざしています。

信金本店の地中熱利用設備のポイントは、地中熱として地下水=井戸水の熱を利用し、利用後は地中に還元しているところにあります。

灯油に換算して月13000ℓに相当するエネルギーを供給しています。

灯油に換算して月13000ℓに相当するエネルギーを供給しています。

実は、井戸水を利用した地中熱利用ヒートポンプのシステムを独自に開発し信金本店に納入された事業者が、地元小市の「HOXOH(ホクソー)」という会社で、大石社長から「ぜひ見学してもらいたい」との提案をいただき、実現したものです。

大石社長は小市にある会社でも井戸を掘り「地中熱利用ヒートポンプ」を使い冷暖房を賄っています。

地中熱利用とは

地中熱とは地表から凡そ200mの深さまでの地中にある熱のことで、深さ10メートル以深の地中温度は季節にかかわらず14℃~16℃でほぼ安定しているんだそうです。夏は外気温度よりも地中温度か低く、冬は外気温度よりも地中温度が高くなる、この温度差を利用します。

この安定した熱エネルギーを地中から取り出し、冷房、暖房、給湯、融雪などに利用することを「地中熱利用」と呼んでいます。

「地中熱利用」は、CO2を排出しないことが大きな特徴です。再生可能なクリーンエネルギーということです。

信金本店の施設は、地中熱利用による水冷式ヒートポンプにより冷暖房や給湯を行っています。

地下水に恵まれた立地条件

HOXOHさんの説明によると、地中熱利用は用途に合わせいろんな利用方法があるそうですが、もっとも効率よく熱利用できるのが地下水(井戸水)であり、➊地下水の水量が適当にあること、➋地中熱利用のための性能の良い装置(ヒートポンプ)を選定すること、➌地下水とヒートポンプが各々最大限帰農する組み合わせをつくることがポイントとされます。

信金本店では、以前から敷地内にある井戸水を屋上にポンプアップしてトイレの排水等に利用してきていますが、新たに取水井を2本、還元井を2本、計4本の井戸を掘削し、地下18mくらいの深さにある井戸水を利用しています。

本店駐車場の井戸。取水用の井戸です。3m離れて地中に還元する井戸があります

本店駐車場の井戸。取水用の井戸です。3m離れて地中に還元する井戸があります

本店の近くにある国道事務所も井戸水を利用しているそうで、しかも水質が非常に良いそうです。地中熱設備に使用した後の水も51項目の水質基準をクリアーしているとのこと。地中18m程度の掘削工事で導入時のコストが軽減されています。地下水脈に恵まれているところがカギです。

地中熱利用ヒートポンプの仕組み

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ヒートポンプとは熱を移動する仕組みで、家庭のエアコンや冷蔵庫はこの技術を用いて空気との間で熱のやり取りを行っています。

ヒートポンプのシステムでは、水・不凍液を循環させるクローズドループ方式と、地下水を利用するオープンループ方式に分けられるそうです。

クローズドループ方式は、深度100m程度までの地中熱交換機に不凍液などを循環させ、ヒートポンプで熱交換させるもので、原則として設置場所を問わないとのことです。因みに長野市の新庁舎では、この方式の地中熱利用システムを導入しています。

一方、オープンループ方式は、井戸から揚水した地下水をヒートポンプで熱交換させるもので、水質がよく、水位の低下や地盤沈下などの地下水障害のない場合に適用できるそうで、前述したように、熱交換の効率が良い地下水を使用するため、オープンループ方式の方が掘削工事も少なく、効率性も高いことになります。

信金本店のヒートポンプ設備は、HOXOHが仲介する米国Water Furnace(ウォーターファーネス)社の設備を活用しています。コンパクトで効率性が高いそうです。

米国製のヒートポンプ設備

米国製のヒートポンプ設備

より効率性を高めるための技術・システムをHOXOH独自に開発し対応しているとのことです。

ヒートポンプ設備の稼働状況は、本部棟地下1階の中央制御室で常時モニター管理されています。

本部棟の1階には、訪問客用にモニターが設置され、環境問題に取り組む姿勢をアピールしています。

本部棟1階の地中熱利用設備のモニター

本部棟1階の地中熱利用設備のモニター

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国内での普及はこれから…

地中熱利用ヒートポンプシステムは、欧米では1980年代から普及し始め、米国ではすでに100万台以上が利用されているそうです。欧米諸国や中国では、早くから国のエネルギー政策で地中熱を取り上げ、助成制度を設けてきたことが背景にあるようです。

日本ではH22年策定の「エネルギー基本計画」に地中熱の利用促進が盛り込まれ、H23年度から経産省で導入補助金が創設されました。これからの普及が期待される技術です。

因みに信金本店の場合の設備投資額は約3億円、50%の国助成金を活用しているため、約15年間でペイできるシステムとされています。

国や県、市レベルでの助成制度の拡充が求められるところでしょう。

長野市では、民間事業者などの地中熱利用ヒートポンプ導入に対し、中小企業振興資金融資制度で対応しているとのことですが、設備投資そのものに対する助成制度はありません。

長野県では、グリーンニューディール基金事業で対応していますが、補助事業は、導入調査費用と、公共施設や地域防災拠点となる民間施設に導入する場合に限定されており、H29年度の事業は今のところ不明です。

CO2の排出削減や省エネへの効果が高く、排熱を待機中に放出しないことからヒートアイランド現象の緩和にもつながります。

これから普及が進むことに大いに期待したいと思います。

ところで、地元に、HOXOHさんのように再生可能エネルギーの先端を担う事業所が存在することを全く知りませんでした。
昨年12月、長野市地球温暖化対策推進計画の見直しに伴い、パブリックコメントで意見を応募したいとの問い合わせをいただき、自宅と会社を訪問させていただいたのがきっかけです。

HOXOH大石社長との出会いと社が保有する技術に感謝です。

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