長野冬季五輪施設「スパイラル」の存廃を考える

2020年の東京五輪施設の建設整備を巡り紛糾する中、長野市では、長野冬季五輪のボブスレー・リュージュ競技の施設である「スパイラル」の存廃が課題として浮上しています。

長野市HPより

長野市HPより


スパイラルの施設の今後の在り方については、公共施設の有効活用と管理について監査したH26年度包括外部監査において、「長野市の負担において当該施設を維持していくことは困難である」との認識が示され、「市民に利用されていない施設を市民の税金により負担することは特に考慮すべきであり…市の負担額がどうなるのかのシミュレーションを早急に実施し方向性を検討すべき」と指摘されたことから、検討が始まっていたものです。
長野五輪施設の建設費(信毎)

長野五輪施設の建設費(信毎)


スパイラルは国のナショナルトレーニングセンター(NTC=競技別強化拠点)に指定されています。この指定による国からの強化事業委託料1億円が2018年開催の平昌冬季五輪までの2017年度末で切れることもあり、喫緊の課題となっているものです。
長野市HPより

長野市HPより


「現状通り継続する場合はH30年度以降10年間で約31.2億円の負担」…10月に、長野市が施設の継続や休止、廃止など4つのケース毎の市負担額の試算を発表したことから、施設の存廃を巡る検討が一挙に具体性を帯び、11月24日には、市の諮問機関である公共施設適正化検討委員会での審議が始まりました。

1月19日の委員会では「休止」の方向を探る意見が相次ぎ、2月17日の委員会で意見集約されることになっています。

昨年10月以降、市長の「稼働を止める」発言の撤回を巡る迷走に対し、地元浅川の「愛する会」や競技団体から存続を求める陳情が行われたこと等を踏まえ、市長は1月13日、国に対し、施設の国営化など国の全面的な支援を要望しましたが、スポーツ庁長官は「国営化」には難色を示す一方で、長野市が施設を存続させるのであれば「NTC強化拠点」として引き続き支援する考えを示したとされています。

市では、公共施設適正化検討委員会からの意見を重視し、競技団体や地元団体の意見も踏まえ、今年度末から次年度の早いうちに方向性を決定したいとしています。

スパイラルの今後の施設の在り方について、これまでの経過と問題点、そして私の考えをまとめてみました。

余り整理されていない長文となってしまいましが、最後までご覧いただければ幸いです。

維持管理に2億円、競技人口150人…スパイラル施設の現状

ボブスレー・リュージュ競技施設であるスパイラルは、飯綱山麓の18万㎢の敷地に全長1,700メートルのコースが整備されています。約101億円(用地費6億円・工事費95億円、内、国が31.7億円補助)をかけ、H8年(1996年)12月にオープンしました。

現在、維持管理費として約2億2,000万円(管理運営費2億円、改修費0.2億円)をかけていますが、国のNTC強化事業委託料として約1億円の収入が裏打ちされています。

しかし、施設建設から20年が経過し、冷凍設備や木製バリア、電光表示や照明などの改修や設備更新が必要となっています。改修費や更新費は国からの支援がありません。

一方、競技人口は全国で130人から150人程度で、施設利用者はH27年度で6339人といった利用状況です。長野市民の選手は二桁に及ばないようです。

協議シーズンが11月下旬から約2か月間と短いことも、施設維持のネックとなっています。

スパイラルの利用料金収入は年間で約700万円です。

H21年(2009年)までは、リュージュやスケルトンのワールドカップ、世界選手権が開催されていましたが、国際大会等を支援する「長野オリンピック記念基金」(約47億円)が底をつき大会運営補助が厳しいため、国際大会は催されていません。日本選手権では利用されています。

現在は、アジアで唯一のそり競技施設ですが、H30年(2018)には韓国・平昌に常設の施設が完成することになります。

利用者一人につき16,000円余をかけるスパイラル

長野冬季五輪施設は、ビッグハットやエムウェーブをはじめ6施設あります。

日経新聞より

日経新聞より


それぞれの施設の利用者一人当たりの一般財源負担分は、ビッグハットが602円、エムウェーブが585円などに対し、スパイラルは16,186円にも及びます。

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スパイラルは突出しているのです。

市財政の厳しさが強調される中において、ここまでコストをかける必要があるのか、自ずと答えは出ているものと考えます。

市民一人一人が幸せを実感できるまちづくりを掲げスタートする第5次長野市総合計画期間を見据えると、社会保障や公共交通に財源を振り向けるなど税金の有効な使い方を考えるべきでしょう。

「市負担で継続は困難」…包括外部監査の指摘

公共施設の有効活用と管理について監査したH26年度包括外部監査において、スパイラルについて「長野市の負担において当該施設を維持していくことは困難である」との認識が示され、「市民に利用されていない施設を市民の税金により負担することは特に考慮すべきであり…市の負担額がどうなるのかのシミュレーションを早急に実施し方向性を検討すべき」と指摘しました。

また、H27年(2015)に策定された「公共施設マネジメント指針」では、「利用者が極端に低く、維持管理費も多額であり、また、現在のNTCの指定期間が2018年韓国平昌冬季五輪までとされている。その後の対応等、施設の在り方について早急に検討する」とされました。

今後10年で31.2億円…市負担額の試算

包括外部監査が求めた「市の負担額のシミュレーションの早期実施」に応える形でまとめられたのが、「ケース別シミュレーション」で、H28年10月に議会に示されました。包括外部監査の指摘から2年、公共施設マネジメント指針策定から1年経過しています。

「継続」「一部休止」「全面休止」「廃止」の4つのケースでシミュレーションしたものです。
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現状通り維持・継続する場合は、施設改修費を含め10年間で約31億2000万円もの税金を投入することになるとの試算です。NTCの収入を見込んでも約21億3000万円にもなります。

継続に伴う施設改修費は、10年で11億円、20年で15億円に上るとされています。

施設を解体する「廃止」でも約13億5000万円もかかるというのは驚きです。

試算の積算根拠の詳細は明らかではありません(確認が必要)が、税金の有効な使い方という観点から考えれば、「現状通りの継続」を選択肢とする道はないと考えます。

「一部休止」か「全面休止」の道が現実的な選択肢として検討されることになると考えます。

しかし、「再整備により再開は可能」とされている点で、再開のための施設整備には十億円単位のお金がかかることは明らかです。そうした新たな投資を飲み込めような財政状況にはありません。

競技団体からの要望はあると思いますが、再開可能な道を残すことに意味があるとは思えません。

建設時から後利用、存廃を巡り議論

長野冬季五輪の招致が決定し、施設整備が始まるなかで、競技人口の少ないスパイラルの施設について、恒久施設とするか、仮設施設とするかの議論があり、結果、そり競技のスポーツ振興の観点から恒久施設とする道が選択されたように記憶しています。

スパイラルは五輪施設の中でも後利用と運営の財源確保が当初から大きな課題とされてきた施設です。

一時は、「レジャー用そり」の導入も検討されましたが、安全基準を満たせず、当てにしていたフランスのそりメーカーが倒産したこともあり、断念せざるを得なかったようです。

H17年(2005)には、市の諮問機関である財政構造改革懇話会が、スパイラルについて「国などの財政支援がなければ市単独での運営は困難」との考え方を示し「廃止を含めて、あり方を検討する必要がある」との提言をまとめました。

市は当時、この提言を踏まえ、冬季五輪から10年となる「H20年度(2008)中に結論を出す」としましたが、H20年度からスパイラルのNTC指定が決定し、1億円の国の財政支援が受けられることになったことで、存廃問題そのものは絶ち切れになってきました。

振り返ってみると、NTC指定決定と3回にわたる指定更新の陰で、存廃を巡る検討は先送りされてきた感があります。

そして、冬季五輪から20年を迎えようとする今日、NTC指定期限が切れることで、改めて再浮上してきた問題といえます。

私自身、議員になってからの14年間を振り返ると、節目節目でのチェックと提言が充分でなかったことを反省しています。

だからこそ、今日、長野五輪の遺産(レガシー)を如何に継承していくのか、冬季スポーツの振興と施設整備・維持管理の両面から、今更ですが”負の遺産”としないために、先送りすることなく、市民の理解が得られる結論をまとめることが重要であると考えています。

市長発言の迷走とスポーツ庁のNTC継続発言

昨年10月24日の定例記者会見で市長は、「平昌五輪後のスパイラルは稼働を止める」と発言したものの、2時間後に「発言を撤回」し「スパイラルの平昌五輪後の施設の在り方は、現在検討に入った段階であり、NTCの指定施設であり、国や競技団体等の関係団体を含め、多方面の皆様と協議の上、今後決定していきたい」と修正しました。

市長の“そろばん勘定”による本音が吐露されたものと受け止めますが、迷走ぶりを露呈させることになりました。

常々、市長発言に感じていることですが、何か、とても「軽い」のです。直ちに撤回しなければならないような「思いつき発言」は厳に戒められるべきでしょう。

私的には、「自分としては利用状況や市の財政負担を考えると全面休止か廃止を検討せざるを得ないと考えるが、国への財政負担を改めて求めるとともに、地元や競技団体と真摯に協議していきたい」と述べるべきではなかったのかと思います。

この問題に関しては、首長としての政治決断を示しつつ、関係団体の理解を得る努力が問われていたのではないかと考えるからです。

地元「浅川友の会」や競技団体の存続要望を受け、市長は年明け1月13日に、国に対し国営化を含め国の財政負担を求めましたが、国は難色を示すと同時に、「市が希望すればNTC指定継続を検討する」考えが示されたとされます。

“国営で存続”の道は、五輪施設整備にあたり維持管理は地元自治体とする政府決定から考えて、土台無理なことでしょう。2020東京五輪の施設整備・維持管理にも大きな影響をもたらすことになりますから尚更です。

一方で、スポーツ庁長官の発言で、NTC指定継続を見据え、さらに4年間存続させる道が急浮上していくのではないかとも受け止めているのですが、どうでしょうか。

しかし、それでは、根本的解決にはなりないことは明らかです。

廃止を視野に「全面休止」へ

私は、市民の財政負担を考えると、廃止を視野に「全面休止」にすべきと考えています。

「廃止を視野に」という点は、施設の解体に13億円もかかることや、平昌五輪のボブスレー・リュージュ施設の国際規格適合の状況も見極める必要があると思うからです。でも、施設の廃墟化を望むものではありません。

さらに、施設再開・再整備の可能性を残すことは、中途半端で、将来に禍根を残すことになります。

冬季五輪開催から20年、「負の遺産」として、いわば先送りされてきたスパイラルの存廃問題は、ここで“けりをつける”というか、検討議論の風呂敷をしっかりとたたむことが必要だと思います。

五輪レガシーの重荷から解放されるべき時期を迎えているのです。

札幌冬季五輪のボブスレー競技施設も、財政負担が重くH12年(2000年)には閉鎖されています。

地元の皆さんの熱い想いや競技団体の要望は理解できます。

地元の要望に対しては、施設の廃墟化を食い止めるためにも、一部施設をメモリアル施設として残すことを検討し理解を得ていくことができないか。

そして、競技団体の要望に対しては、選手の海外遠征費の充実等による選手育成の強化策を国に対しともに働きかけていく以外にないのではないかと考えます。

まずは、2月17日の公共施設適正化検討委員会の意見集約に注目です。納税者の視点に立った意見集約がなされることを願っています。

公共施設適正化検討委員会の審議状況【長野市HPへ】

また、今後、スパイラル以外の冬季五輪施設の維持管理費、施設の更新費も課題となってきます。
施設建設費の借金はH29年度で返済が完了しますが、これからの長野市の財政運営にとって”重荷”にならないような公共施設の在り方が問われることになります。

皆さんのご意見を寄せていただければ幸いです。

【参考】因みに、朝日新聞長野支局が1月26日付紙面で「スパイラル 存廃の行方は」と題する特集記事を報道しました。良くまとめられていますので、PDF版で紹介します。
朝日新聞特集記事「スパイラル 存廃の行方は」
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