「思慮欠き謝罪」…松代大本営地下壕の案内看板

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 今日11日、長野市が松代大本営地下壕の案内説明板から「朝鮮人労働者が強制的に連行された歴史事実をテープで削除した問題」について、松代大本営追悼碑を守る会(塩入隆会長・県短大名誉教授)で、副市長等に対し、「強制的に」という文言を覆い隠すに至った経過を明らかにするよう求めるとともに、「案内表示板の復元と案内パンフレットの記述の復元」、「松代大本営工事の歴史について、市民や当事者の参加による調査委員会の設置」を申し入れました。対応したのは樋口副市長をはじめ、教育次長、商工観光部長ら。
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◆「思慮を欠いた対応で謝罪する」、「強制連行は史実」…副市長
 副市長は冒頭「『強制的に』という部分を白いテープで覆ったことは、思慮を欠いた対応であり、混乱を招いたことをお詫びする」と謝罪したうえで、「史実に沿った正確な説明となるよう案内表示を早急に改める」と述べました。
 「松代大本営地下壕工事において、史実として強制連行があったと認識しているのか」との問いには「『長野市誌』にも記載してある事柄であり、市誌の記述が長野市としての統一見解である」と「強制連行を史実として認める」答弁を行いました。

◆「直ちに原状回復」に対しては「早急に検討」と答弁
 さらに、「思慮に欠いた対応であるとするならば、即時、テープを除去し原状を回復することが必要。直ちに指示すべき。その上で、改めて長野市誌に基づき、正確な説明・記述を検討すべき」と質しました。
 これに対しては「案内パンフの対応と同様、テープの除去について早急に検討し対応する」と述べるにとどまりました。
 どのような対応をするのか、要チェックです。(後段部分に答えが…)

◆『長野市誌』の記述が「長野市の統一見解」
 改めて、「長野市誌」を見てみます。
 「長野市誌-第六巻-歴史編-近代二」、第7章「政治体制の進行と敗戦」・第3節「戦時体制と市町村民」の中で「松代大本営の建設と強制労働」の見出しで松代大本営に関わる記述がまとめられています。
 808ページ部分の記述内容です。
「地下壕掘削工事の主要な労働力は、日本国内にいた朝鮮人労働者と植民地だった朝鮮半島から強制連行されてきた朝鮮人によるもので、合わせて多いときで七〇〇〇人といわれる(朴慶植調査)。朝鮮人強制連行調査団の記録では、五回にわたって計四〇〇〇人が連行されてきたとしている。」
 先人の研究者の調査研究を踏まえてまとめられているものですが、「市誌の記述が市としての統一見解である」とするのであれば、地下壕の案内説明の記述は、自ずと明らかです。

◆複数回の電話問合せで「記述を変更」
 担当課である観光振興課は、経過について「朝鮮人の連行は強制的ではなかったのではないか」との問い合わせがあり、案内パンフレットの改定・増刷に合わせ、関係課や関係団体に確認し、パンフの表現を変えた。バンフと案内版との齟齬をなくすため案内看板に安易にテープを貼ってしまった」と説明。
 まさに「思慮を欠いた対応」が展開されてしまっているのですが、そもそもは案内パンフの改定にあたって、どのような歴史研究の検証、歴史・史実の確認がされてきたのかが問われることになります。

◆調査委員会の提案要請も踏まえて「正確な説明」を検討
 市側は、今後「正確な説明に改める」ための場として「保存対策委員会」(地下壕の保存・公開にあたって作られた対策委員会で24年前の組織)なども事例としてあげましたが、現実的ではありません。「守る会」で提案した「市民や在日団体当事者を含めた調査委員会」については、「検討したい」と述べました。新しい検討組織の立ち上げにも注目です。

◆歴史認識に対する真摯さを持ち合いたい
 一連の対応を「思慮を欠いた対応」とし、「早急に再検討する姿勢」を示したことは評価したいと思います。また、「『長野市誌』の記述を長野市としての史実の認識とする」ことを統一見解としたことの意味は重いものがあると受け止めています。
 「さまざまな見方がある」として「さまざまな見方を反映させる表示」ではなく、植民地支配下における労務の肉体的・精神的強制にしっかり着目した、史実に基づく正確な認識、大局的な歴史認識を示すことが重要です。
 市行政、職員一人ひとりに、歴史に向き合う謙虚な姿勢、歴史認識に対する真摯さを堅持してもらいたいと切に願います。
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◆申し入れ後に伝えられた暫定的措置
 追悼碑を守る会の申し入れと副市長等の答弁を踏まえ、申し入れ後に市長と協議が行われたようで、夜7時を回った頃、担当部長から、「市としての当面の方針を確認しました」と伝えられました。
 内容は、史実に沿った正確な説明をまとめるまでの間、暫定的な措置として➊案内看板の原状回復は直ちに行えないが、「地下壕の案内説明について精査中である」旨の表示を行う、➋新しい改訂版の案内パンフは地下壕訪問者への配布を中止する、という趣旨です。
 実は、この方針に対し、意見をいろいろ申し上げましたが、少しの間、行政としての対応方を見守りたいと考えます。
 
 9月市議会の論点の一つに急浮上です。
 9月議会までには一定の確たる方向性が打ち出されることを期待したいと思います。

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