6月議会の質問➋…公契約等基本条例の効果と課題を質す

6月議会における質問の詳細報告【その2】です。議会だよりでは、原稿行数に制限があり取り上げなかった質問ですが、事前調査を含め、力を入れた質問です。

新しく制定された市公契約等基本条例は、昨年4月に施行され、同年10月から全面施行されています。同条例は公契約等の公正性、競争性及び透明性を高め、市民への良好な公共サービスの適用を確保するとともに、労働者等の労働環境の向上を図り、もって地域経済の健全な発展及び市民が幸福で安心して暮らせる持続可能な地域社会の実現に寄与することを目的にしているものです。

条例の制定検討過程で焦点となった設計労務単価を基準にした支払賃金の下限等を規定する「賃金条項」は盛り込むことができませんでしたが、長年にわたり同条例の制定を求めてきた一人として条例の制定趣旨を評価し、実効性のある条例運用がされることを期待してきました。

4月1日、長野市公契約等基本条例が施行されました。全面施行ではなく、後述する「労働環境報告書の提出」「労働者からの申出」「不利益取扱の禁止」...

広報ながの8月号より。公契約等基本条例の周知を図る情報提供です。

市では、この間、公契約に関わって最低制限価格の設定率の引き上げやフレックス工期の導入などに取り組んできています。

全面施行から8カ月余という段階で、1億円以上の建設工事契約に義務付けられた労働環境報告書の提出事例はまだは多くありませんが、条例の制定趣旨に照らし、その効果が発現してきているのか、条例の運用上の課題などについて質しました。

質問の眼目は、提出されている労働環境報告書に現れた「著しい賃金格差」に着目し、いかに是正していくのかにあります。

条例の効果は?➡「事業者に労働環境向上の意識高まる」

まずは総論的に、条例の効果が発現してきているのか、行政指導の有無を含めて伺う。また、条例施行を受け、落札率の上昇等に変化の兆しがあるのか、質しました。

財政部長…昨年10月の条例全面適用により、一定額以上の契約を対象に提出される労働環境報告書は、令和3年度の建設工事で、提出対象が15件、84件の報告書が提出されている。報告書の未提出はなく、また、その内容に行政指導等が必要となる報告はなかった。

条例制定の効果については、労働環境に対する事業者の意識を高めていくことが大切であると考えている。そのため、労働環境報告書は、労働時間、安全・衛生など労働環境全般について、労働法令等の遵守状況などを確認しながら報告書を作成いただく仕組みとしている。報告書の提出件数はまだ少ない状況だが、労働者に対する条例の周知活動や報告書の提出により、各事業者において、労働環境の向上についての意識を高めていただいたものと考えている。

落札率については、最低制限価格を引き上げることにより落札率も上昇するといった傾向にある。令和2年度の落札率は令和元年度と比較し、2%程度上昇。条例を施行した令和3年度は令和2年度と比較してほぼ横ばいという状況。これは、令和2年4月に最低制限価格の設定率の引き上げを行っており、それが主な要因と考えている。条例において、本市の責務に、適正な入札の実施や適正な予定価格の設定が定められていることから、今後も、長野県や県内他市町村の動向に注視しながら、適正な最低制限価格の設定となるよう対応していく。

条例制定・全面施行の効果の発現は、まだ、これからという段階です。今後の建設請負工事契約における「労働環境報告書」の内容を引き続きチェックし、条例の効果を検証し続けることが重要であると再認識しています。

最低支払賃金に3倍の格差…是正が不可欠

条例第3条の基本理念では、「労働者等の賃金その他の労働環境の向上が図られること」を規定しています。

1億円以上の工事契約で提出が義務付けられた労働環境報告書をチェックしてみたところ、看過しがたい賃金格差が浮き彫りになりました。

*労働環境報告書…労働条件、労働時間、保険手続き、安全衛生、下請負等契約、ワーク・ライフ・バランス、賃金等7項目について、労働基準法、最低賃金法などに基づき、適正に対応されているのかをチェックするもの。

労働環境報告書の中の「賃金」に着目し、職種別の「支払われている最低賃金」、「設計労務単価」の現況を見ると、建設工事全般では、設計労務単価に対する最低支払賃金の比率は全職種平均では78.1%と設計労務単価比では8割近い賃金保障がされているものの、工事別・職種別の最低支払賃金を見ると、設計労務単価比率で最低の29.8%から114.9%と極めて格差が著しいものとなっています。

具体例を示します。

財政部契約課作成資料より。「事業名」「事業者名」アルファベット記載。同じ事業における請負事業者間の格差、異なる事業における同一職種の格差に注目。

「とび工」の場合…それぞれ正社員でありながら、最低支払賃金は事業者ごとに915円、1,223円、3,150円と3倍以上の格差がある。設計労務単価3,075円と比較すると、設計労務単価比で8%から102.4%と不均衡が著しい。

「造園工」の場合…正社員で3,002円、1,538円と2倍の格差がある。設計労務単価は2,612円で設計労務単価比で9%、58.9%と2倍近い格差となっている。

「電工」の場合…同一工事でありながら、事業者により正社員で1,490円、2,862円と約2倍の格差があり、別の工事では1,125円という低賃金。設計労務単価は2,725円、設計労務単価比では3%から105.0%と不均衡が著しい。

「内装工」の場合…同一工事で、事業者により3,261円、1,268円と2倍以上の格差。設計労務単価は3,437円、設計労務単価比では9%と36.9%4。

「配管工」の場合…7つの工事でいずれも正社員、設計労務単価2,712円に対し、支払最低賃金は1,251円から2,735円で2倍近い格差。

技能職であることから、正社員であっても、その経験年数や技能習得度合いによって、賃金に差が生じることに合理的な理由があるものと推察されるものの、その著しい格差は看過しがたいものがあります。「賃金等労働環境の向上」の理念に照らし、是正・適正化していくことが必要です。また、勤務年数などを含め、今後、より詳細な環境把握が必要であると考えられます。公契約の発注者としての認識、今後の対応を質しました。

公契約における賃金格差の是正を

財政部長…労働者に支払われる賃金は、法律で定められた最低賃金額を確保した上で、会社の経営状況を踏まえつつ、その労働者の経験や能力、会社への貢献度等を評価した上で労使間で決定されるべきもの。報告書では、法律で定められている最低賃金を下回る例はなく、現時点で本市から是正を求めるべきものはないと考えている。一方で、議員指摘のとおり、条例の基本理念には、労働者等の賃金、その他の労働環境の向上がうたわれており、賃金の底上げを図ることは重要なことと認識をしている。労働環境報告書では、事業者側に改めて自社の賃金水準を客観的に認識していただく仕組みとして活かしてもらいたい。

最低の賃金額の報告に加え、その労働者に係る経験年数等より詳細な環境把握が必要との意見については、報告書に最低の賃金額を記載いただく趣旨は、1つは、最低賃金が遵守されていることを確認するため、もう一つは、事業者におきまして客観的に賃金水準を認識していただくためのものであり、報告事項が増えることによる受注者等の負担を考慮すると、現在の内容により提出いただくことが適切であると考える。

公契約における賃金格差への認識と是正を繰り返し再質問

他人事のような答弁には納得できません。公契約等基本条例の基本理念である「労働者等の賃金、その他の労働環境の向上」は、公契約の事業者の労働者に適正な賃金が支払われることをお互いに約束することにあります。歴然としている賃金格差に対し、「格差がある」ことを認識し、是正を図る行政の姿勢が問われていることを繰り返し再質問しました。

財政部長は「賃金の底上げを図ることは重要」との認識を示す一方、是正については「自主的に経営判断の中で賃金が引きあがることを期待する」と答弁するにとどまりました。

労働環境報告書の提出が事業者の労働環境向上の意識を高めることにつながることは否定しません。しかし、歴然としている賃金格差について、「事業者の経営判断のもとで賃金の引き上げを期待する」だけでは、条例制定の意義を十分に発揮することはできません。公契約という行政が発注者となる契約において、賃金等の労働環境の向上が実質的に担保されなければ、実効性はありません。「設計労務単価」を最低支払賃金の評価の物差しにしていること、市は請負契約における予定価格の設定に際し、人件費を設計労務単価に基づき積み上げていることを踏まえ、この趣旨が全うされるよう事業者に求めることに躊躇があってはならないことから、実効性のある条例運用を引き続き求めていく所存です。

「一人親方」も賃金報告を適用する運用の改善を

労働環境報告書の「賃金」報告について、「個人事業主は労働者ではないため、最低賃金報告対象外」とされ、「一人親方」等の賃金報告が除外されています。なぜ、除外されているのでしょうか。条例第2条「労働者等」の定義として、労働基準法9条に規定される労働者だけでなく、受注者等と請負契約を結んで従事する人(いわゆる「一人親方」を含む)とされ、条例3条「基本理念」では「労働者等の賃金その他の労働環境の向上が図られることと規定しています。したがって、ひとり親方も対象として賃金報告がされる運用の改善が必要です。見解を問いました。

財政部長…公契約条例における一人親方など個人事業主の取扱いは、公契約等に係る業務に従事する者を労働者等と定義し、個人事業主についても本条例の対象としている。そのため、労働環境報告書の提出や公契約に係る労働環境に法令違反の疑いがある場合の申出者の対象となっている。議員指摘の、個人事業主も最低の賃金に係る報告の対象とするべきという点については、賃金は雇用契約などに基づき、労働の対価として使用者が労働者に支払うものとされている一方、一人親方などの個人事業主は請負契約により建設工事等に従事し、その対価として請負代金が支払われているが、個人の収入となる部分は請負代金から必要経費などを除いた部分となることから、個人事業主は賃金という形で支払いを受けておらず、最低賃金法の適用外ともなっていることや、労働基準法上の労働時間等の規制の対象外でもあることなどから、賃金報告の対象外として運用することが適当と考えている。理解いただきたい。

「ひとり親方」の働き方についてしっかり実態調査されるべき

一人親方と言われる皆さんの働き方は、自分の持っている道具と体一つで請負契約を結んで工事現場に行って仕事しているというケースが多い。極めて労働者性の強い働き方をしている実態にある。これを偽装請負だと言うつもりまではないが、一人親方の皆さんの労働者性の強い働き方にしっかり着目した取り組みにしていかなければならないと考える。改めて考え方を聞く。

財政部長…実態把握は重要だと思うが、労働環境報告書に最低の賃金を記載してもらう趣旨は、最低賃金の遵守の確認、それから、事業所による客観的な賃金水準の認識ということであり、報告の必要性は低いと考えている。また、一人親方の賃金相当額につきましては、請負金額代金から必要経費などを引きまして、また、実労働日数や実労働時間などを除するなど複雑なものになることが予想される。記載の際に一人親方の方に相当な負担をかけるものだと考えている。

実態調査について重要だとの認識を示したわけですから、実行を問うていきたいと思います。私自身も、「一人親方」等の働き方の実態を詳細に検証し、今後のさらなる提案につないでいきたいと思います。

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