議会運営委員会…犬山市・掛川市・船橋市の議会改革から課題を学ぶ

今週29日~31日、市議会・議会運営委員会の視察で、愛知県犬山市、静岡県掛川市、千葉県船橋市の市議会の取り組みを勉強してきました。

視察テーマは、市民参加型議会の取り組みをはじめ、議員間討議を通じた政策提言、予算決算審査の改善、女性議会や小学生議会等の取り組みです。

視察の網羅的な報告にはなりませんが、特に長野市議会の議会活性化に活かしたい点をまとめてみました。

犬山市議会…市民フリースピーチ、全員協議会による議員間討議

23日、最初に訪問した犬山市議会は、H29年5月から議長をアメリカ出身のビアンカ・アンソニー議員が務め、昨年3月定例会から、市民が議場で市政について意見を述べる「フリースピーチ制度」を導入しています。

このフリースピーチ制度の導入が評価され、2018年のマニフェスト大賞(実行委主催、早稲田大学マニフェスト研究所・毎日新聞社共催、株式会社共同通信社後援)を受賞しています。

➡犬山市=面積74.90㎢、人口74,308人。議員定数20人。

➡犬山市議会のページ

議員紹介や一般質問中継など犬山市議会情報

犬山市議会では、H22年5月から始まる議員有志による議会改革推進委員会を設置し、議会基本条例を制定するとともに、H29年7月からは議会改革委員会に改め、議会基本条例の検証に取り組み、議会改革の新たなステージを迎えているとします。

犬山市議会の取り組みを強烈にアピールするビアンカ議長。右隣は柴山副議長。

ビアンカ議長、柴山一生副議長から直接、議会改革の取り組み状況と課題を伺いました。

議長は、「日本の議会は受け身過ぎて十分に機能していない」とし、「市民にとってより役立つ議会になるためには、市民参加、議員間討議、議会の政策立案・政策提言能力の向上が不可欠」と強調します。

市民参加では、市民が議場で議員に対し、市政に関して5分間自由に発言できる「市民フリースピーチ制度」や行政との共催により「いちにち女性議員」を公募し模擬議会的に一般質問を行う「女性議会」、毎週水曜日午後に議長らに直接相談できる「議会の市政相談」=オープンドアポリシー、親子議場見学会などに取り組んでいます。

市民直接参加のフリースピーチ制度もさることながら、特徴的なのは、市民のニーズ、寄せられた意見を全員協議会で協議し、決議や付帯決議、申し入れという形で議会としての行政への提言につないでいることです。

議員間討議の場として全員協議会を位置付け、議会としての合意形成・意見集約に力を注いでいる点です。議長の「市議会の構成員の一人という自覚が足りない。市民の声を踏まえ、議会全体の意思をまとめる努力が欠かせない」と強調するところに、学ぶべき点があると考えます。

定例会中にも、一般質問や上程議案の内容等を協議する議員間討議として全員協議会が催され、常任委員会の討議に反映させる仕組みをつくっています。

とはいえ、こうした議員間討議が活発な背景には、定数20人の市議会における会派が2人から4人の5つの会派、と5人の一人会派・無所属で構成されていることがあります。自民・保守系会派が二つに分かれている点もあります。

議会改革に取り組み始める段階では、保守系会派が過半数を占めて運営されてきた歴史があるようです。政党再編等により、会派が分化し、どの会派も主導権を持ちうる、裏返せばどの会派も主導権がなく、平らに議員間討議を行う条件が形成されてきたということでしょう。

長野市議会の現状に照らして考えると、議員間討議は常任委員会の付託議案の審査や請願等の審査において、それなりに活発に行われ、市行政に対する要望事項もまとめてきているものの、結局のところ、会派の意向、会派の拘束によりYESかNOかの二者択一的な討議の域を出ず、市民の意見に向き合い、かつ、各議員の考え、主張に学び合いながら、市議会の意思としての政策提言につなげるという意味では、なお課題を残していると考えます。

繰り返しになりますが、平らな議員間討議を通じて市議会としての意思決定を重視している点は、率直に学びたいところです。「議員間討議は提案につながらなければ、ただのトークショーに過ぎない」との指摘を真摯に受け止めたいものです。

国宝・犬山城。視察後の時間を利用し訪問。

掛川市…議会報告会と政策討論会を連動させ政策提言へ

24日は静岡県掛川市議会。

H25年3月の議会基本条例制定を踏まえ、同年10月から中学校区単位の市内9会場で議会報告会に取り組み、H26年1月から、議会報告会で寄せられた市民の意見をまとめ政策討論から政策提言に結びつける「政策討論会」が取り組まれています。

➡掛川市=面積265㎢、人口118,000人(内、外国人約4000人)。政令指定都市の静岡市と浜松市の中間点に位置する。製造品出荷額は1兆円。議員定数は21人。

➡掛川市議会のページ

議員が任務分担し9会場で開かれる議会報告会の参加市民は1回につき500人から600人です。これは驚きです。長野市議会の市民との意見交換会は60人から70人ですから。

中学校区単位(行政区で4~5を束ねた単位)とし、自治会への回覧による周知と全国に先駆け「生涯学習宣言」を行い、生涯学習市民自らが「選択的定住民」が住むに値するまちづくりに参画しようとの取り組みの成果とされます。

特徴は、会派選出の8議員で構成する幹事会で、テーマを設定し、作業部会でテーマの肉付けを検討協議し、報告会での市民の意見を受け、テーマごとに政策討論会に結びつけ、市議会としての意見をまとめ、議会から市長に提言、施策・予算に反映している点です。

これまでの取り組みで、災害対応や「お達者度日本一」を目指す取り組みなどをテーマとし、その都度、市長に提言するとともに、議会提案の掛川市健康医療基本条例の制定に結実させています。

掛川市健康医療基本条例は、掛川市と隣接する袋井市の自治体病院を統合し、新たに「地域健康医療支援センター」(二次医療圏の急性期病院)が開院したことを受け、地域完結型の医療体制を確保するために、議会報告会と政策討論会を重ね、さらに特別委員会の設置・審査によって議会は次の条例としてまとめたものです。条例の内容は改めて紹介したいと思います。

オープンなスペースが広がる掛川市役所

H30年度からは、常任委員会でテーマを決め、研究成果を政策素案として議会報告会に報告し、議員間討議を通じた政策提言につなげようとする試験運用が行われ、H31年度から本格導入を図るとしています。 

掛川市議会でも全員協議会が定期的に開催され、理事者側からの本会議に関する予備的協議の場、無重要施策等の特定事項に関する協議・調整の場として活用されています。

長野市議会では、理事者からの重要施策や議会に提案される議案等の報告説明は「政策説明会」という名称で行われています。改革ネットでは、全員協議会の活用を重視し、「政策説明会」を全員協議会の場で行うよう提案してきた経過がありますが、全体の合意に至らず、現在の方法で行われています。

全員協議会は、人事案件についてのみ事前に報告する場として開催されているだけです。

さらなる特徴は、全員協議会における理事者からの報告説明を受けて、議長が必要と認める場合に「重要案件」を定め、常任委員会協議会に回付し、議員間討議により意見集約するよう求める仕組みをつくっている点です。常任委員会における協議内容は、次回の全員協議会に委員長報告することになっています。

最近では、協働のまちづくり交付金、地域創生総合戦略、生活排水処理実施計画の見直しなどが回付案件とされているとのことです。

互いに顔が見える円形の議場です。双方向を具現。

全員協議会の活用について、改めて再検討したいものです。

また、掛川市議会では「中学生議会」に取り組むとともに(中学生や学校側の負担が大きいことから休止状態に)、議会事務局の機能を高めるため、市職員(総務部長職)を再任用で「調整官」として配置しています。3年から4年でローテーションする議会事務局の職員体制の在り方に関する一つの打開策でしょう。

委員会室で…掛川城の最中と深蒸し掛川茶

本物の掛川城。木造本格天守閣が復元された城で、総事業費11億円は市民募金だそうです。請願駅の新幹線掛川駅の整備にも市民募金30億円、東名掛川ICの整備でも総事業費43億円は市民出資の会社で建設されたとのこと。寄附文化が定着しているんですね!

さらに、掛川市議会では、最新の政策情報を入手するために、全議員参加による東京研修にも取り組まれています。

船橋市…予算決算常任委員会

船橋市議会のテーマは、予算・決算の審査を議長を除く全議員で構成する常任委員会で行っている取り組みです。

歓迎をいただいた鈴木和美議長。会派を離脱し無所属だそうです。

➡船橋市=面積85.62㎢、人口623,000人。議員定数50人。7つの交渉会派で構成。

委員会室には、船橋市の特産品が並べられていました。おもてなしですね。

➡船橋市議会のページ

長野市議会では、予算審査は常任委員会に分割付託し審査、決算は特別委員会を設置し審査しています。

特に決算審査は9月定例会後の閉会中に約7日間の日程で行われ、委員長報告が12月定例会となることから、決算審査を踏まえた新年度予算案への施策・予算反映が物理的に間に合わないという現状にあります。

予算案の関係委員会への分割付託は違法との指摘もあり、全国的には予算特別委員会や予算常任委員会という形で一括審査する仕組みが試みられている段階にあります。

こうしたことから、決算特別委員会の在り方の改善と、決算・予算を連動させ一貫した審査ができるような仕組みの検討を、議会活性化検討委員会における課題としており、今回の船橋市議会を訪問先にした経過があります。

船橋市議会では、H29年の3月定例会までは、定例会ごとに特別委員会(3人以上の会派から所属議員3人に1人の割合で選任・構成)を設置してきましたが、H29年6月定例会から、「予算・決算委員会」を設置し常任委員会化しています。

予算決算委員会は、議長を除く議員で構成され、議案付託後は5つの分科会(5つの常任委員会に対応)で担当する事項を審査します。分科会では質疑のみが行われ、委員全員で行う全大会で総括質疑を行い、討論・採決。議決結果のみを報告する委員長報告を最終日の本会議で採決します。

予算決算委員会の審査日数は3月定例会で1日から2日だそうです。従前の方法に比べ審査時間は10時間くらい増えてはいますが、かなりコンパクトな審査日程になっているように伺えます。予算案の他に条例議案や所管事項調査に要する時間は別途設定されることになります。

なお、予算決算委員会の審査前に、予算案を含めた議案に対する質疑がかなり濃密に実施されている点がポイントです。長野市議会では、議案質疑については、会派ごとに議案に対する勉強を事前に行い、委員会審査の中で質す傾向にあり、ほとんど行われていない実態にあります。

また、予算議会における議案説明を、会派ごとに2日間かけて行っているとのこと。実質的に、この場で会派の問題意識に応じた質疑が行われているものと推察されます。議案の事前審査の禁止規定に照らすとグレーゾーンなのかもしれません。

予算審査を分割付託しないで、全議員による常任委員会で審査する議会が増えています。しかし、具体的な審査は分科会という名称で実質、常任委員会ごとに行われている実態にあります。

なお、分科会の事項を跨ぐ「横串の予算審査が課題」とされる所以でしょう。

しかし、形式的に全議員による予算、決算の審査は、予算案全体を俯瞰しながら個別施策の意義と課題を吟味していくうえで有効と考えられます。

他の議会の予算・決算常任委員会のあり様も調査し、長野市議会の予算・決算審査の改善につなげていきたいと考えます。

小学生、中学生、高校生を対象とした議会見学会に取り組まれています。議会の広報活動の一環として行われているもので、主権者教育も兼ね備えたものです。中学生・高校生を対象とした見学会は2回目ですが、小学生対象はすでに10回を数えています。

広聴ではなく広報が目的とされるもので、議員との意見交換会などが組み込まれています。

市民が参画し市民に信頼される議会…政策提言につながる議員間討議をいかに深めるか

市民に開かれ信頼される身近な議会になるには、市民の直接参加を促す仕組みと市民の声を踏まえた政策提言を通じた市民への還元が不可欠でしょう。

その意味で、会派利害、意見の違いを克服しながら、政策提言につなげる議員間討議の活性化は喫緊の課題といえます。

長野市議会も議会報告会から「市民と議会の意見交換会」に進化させ、市民と双方向で意見交換できる仕組みを再構築する途上にあります。また、まだ少ないとはいえ、長野市農業振興条例のように政策条例を議会発議で制定してきた取り組みもあります。

私自身、最近では、LGBTに関わる請願の採択や議員報酬引き上げの返上などの課題で、会派を超え問題提起し、理解を深める努力を相互に行い、市議会全体の意思として表明しうる取り組みに関わってきました。もっとも、オープンな議員間討議といえるレベルではありませんが…。

手法は様々です。長野市議会は長野市議会の議会活性化の取り組みを一つ一つステップとして、長野市議会流にさらに前進させたいと考えます。

市民ファーストで議会の見える化を図ることを目標に!

特に、二元代表制における市長・理事者と議会との透明で緊張感ある関係をいかに築くのか、全員協議会の活用の在り方(公開・非公開を含め)や、常任委員会・特別委員会におけるテーマを絞り込んでの議員間討議の深化=進化、市政を市民目線で厳しく監督・評価し、市民の幸せにつながる予算・決算審査の充実・活性化、市民と議会の意見交換会の充実と政策提言への連動を意識しながら、具体的な問題提起につなげていきたいと考えます。

各論はこれからです!

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